112.戦闘……?
戦闘態勢を取りながら、ノブナガさんたちを観察してみる。
視界にとらえたプレイヤーの人数は5人なので、他にも1人いる可能性がある。
辺りを見回しても姿を確認できないので、どこかに身を潜めているか偵察に出ているためだろう。
「ウイングさんがここに来ているという事は、岩山エリアにいたとしてもこの先のエリアが目当てだってことですよね?」
「イヤー……。岩山エリアのミッション中に他のクランがクリアして強制転移をしただけですよ……」
洞窟エリアの事を話すとそのまま戦闘に突入しそうだったので、強制転移の方を強調して伝える。
ノブナガさんの進行方向と先ほどの話から、ノブナガさんたちも洞窟エリアに挑戦して失敗した可能性が高い。
「たとえそうだとしても、この先に進むつもりだったのですよね? であれば、この先にあるエリアの課題をクリアしてしまう可能性があります。残念ですが、ここで倒させていただきます」
「一応、貸しが一つあると思うのですが、ここは一つ見逃してもらうというのは……」
俺がそういうと、ノブナガさんは少し考えるそぶりをしてから話始める。
「うーん。それを言われると弱いのですが、それは刀の購入経路の情報と相殺だったはずですよね? それともここを見逃す代わりに刀は別の機会という事にしますか?」
「うっ」
ゲームを続けていれば、そのうち情報を手に入れる事もあるかもしれない。
しかし、約束には購入経路の紹介もあるのでここで見逃してもらう事よりも大事だろう。
俺はあきらめて首を横にふるう。
ノブナガさんも俺の意思がわかったのか、再び武器を構えなおす。
「ガーー!」
いざ戦闘というところで俺の背中でカレルが鳴く。
俺が振り返るよりも早く、アクアボールを後方に放つ。
カレルがアクアボールを放った先から物音が聞こえたかと思うと人影が飛び出してきた。
以前ノブナガさんと一緒にいた、忍者装備に身を包んだプレイヤーのようだ。
どうやら、ノブナガさんが立ち止まったことで偵察から戻ってきていたらしい。
忍者のようなプレイをしているなら、隠密か隠者のスキルを持っているはずなんだが……。
俺はノブナガさんの様子をうかがう。ノブナガさんは呆れた顔で忍者姿のプレイヤーを見ていた。
「ハトリ……。こういう状況では隠れているように言っただろう」
「どうしても気になることができたから出て来たんだ。棟梁! そのプレイヤーに聞きたいことがある! その情報を対価にここを見逃してもいいと思うんだ!」
忍者姿のプレイヤーは俺に聞きたいことがあるらしい。
その情報によってはここを見逃してもいいと言っているが何を聞きたいのだろうか?
ノブナガさんの方を見ても心当たりがなさそうな顔をしている。
「ハトリはウイングさんに何を聞きたいんだ?」
「頭の上に載っているネズミのモンスター! その出立は忍者装備じゃないか! もしやその装備をしているという事は、以前のリビングアーマーの進化先のように和風のモンスターなのではないか?」
どうやら、ハトリというプレイヤーには、俺の頭の上にいるハーメルの姿が見えているようだ。
今のハーメルは種族特性とスキルの効果によって見つけることがかなり困難な状態になっている。
それを視認することができるという事は、観察や発見に関するスキルのレベルが高いのだろう。
ハトリというプレイヤーの発言を聞いたノブナガさんは俺の方を見た。
しかし、ノブナガさんには見つけるスキルが無いようで首を傾げている。
それを見たハトリさんは確信を持ってノブナガさんに話かけた。
「棟梁に見えないならば、やはり隠れるスキルないし特性を持っているモンスターだ。装備から見ても和物のモンスターではないか?」
「うーん……」
ノブナガさんは悩んだ末、ここでの戦闘は無しになった。
主な理由としては、ハトリさんの奇襲で早々に決着をつけられる算段だったのが、ハトリさんの暴走で破綻したことが大きい。
ここから戦闘を始めてもそれなりに時間がかかると判断したらしい。
今はイベント開始直後なのでチェックポイントが残っているエリアが多い状況で、戦闘に時間を割くメリットはない。
……ノブナガさんが俺の戦闘力を知らなくて助かった。知られていたらそのまま戦闘に入ってしまっていただろう。
第2陣のプレイヤーなら経験値の関係があるので戦闘する価値はあるかもしれないが、この場にいたメンバーは全員1陣のプレイヤーだった。
なんだかノブナガさんが気の毒だったので、ハーメルが和物ではないことだけ伝える事にした。
ショックを受けて崩れているハトリさんと、ため息をついているノブナガさんたちと別れて洞窟のエリアに向かう事にした。
岩場の陰に向かった後、再び身を隠しながら洞窟エリアに向かう。
ノブナガさんたちが来た方向に向かうと、小山になっている場所を見つけた。
その麓辺りに穴が開いているのが見える。
どうやら、あれが洞窟エリアへの入り口らしい。
俺は辺りを気にしながら、中へと入っていく。
中に入ったと同時に俺の前にウインドウが現れる。
≪ チェックポイントのあるエリアに侵入しました。
課題 指定された位置から時間内に最深部にたどり着くこと 制限時間10分 ≫




