111.イベントエリアの地形
ボスたちと別れた俺は再び森の中を進む。
しばらく進んでいくと、先ほどまで採れた果物が無くなる。
どうやらエリアを抜けたようだ。
俺は再び隠密スキルのアーツで気配を隠しながら進むことにした。
今の所、他のプレイヤーをあまり見ていない。
陣地獲得のために課題をこなしているから、関係ないこの辺りにはいないのだろうか?
俺的には戦闘しないで進むことができるからいいのだが……。
隠れながら進んでいると、開けた場所があるのが見えた。
どうやら、森の端にたどり着いたようである。
俺達は身を屈め、日陰になっているところから先の様子をうかがう。
視線の先には草原が広がっている。さらにその奥には火山や氷山等が見える。
今回のイベントエリアは様々な地形の複合フィールドのようだ。
あの辺りにも陣地化できるエリアがあるのだろう。
その中でも一つ、気になるものがあった。
明らかに、人工物的なものがそこに鎮座していた。
それは遠くから見ると正三角錐のように見える建物? であった。
ただし、ピラミッドのように石造りという感じでは無かった。
遠目ではよくわからないが、黒く光沢がある表面に緑色の光で幾何学模様が描かれている。
その姿は、昔よく見たSF小説の表紙に描かれているような、宇宙人の拠点を連想させる。
他の地形と比べても、明らかに異様な場所である。
明らかにチェックポイントがありますと言わんばかりの存在感を放っていた。
おそらくプレイヤーもあの辺りに集中している可能性が高い。
最終的に寄る事になるとしても、最後の方にしておきたいところだ。
俺はピラミッドのような建物とは反対側にある、岩場のエリアに向かう事にした。
あの辺りなら遮蔽物もあり、隠れるのも逃げるのもやりやすいだろう。
俺は黒いピラミッドに背を向けて、岩場のエリアに向けて出発する。
岩場まで着くとそれなりにプレイヤーがいるようで、いたるところで戦闘が繰り広げられている。
どうやら、チェックポイントがあるエリアではないようで戦闘可能エリアらしい。
俺達はこそこそと日陰を進んでいく。
時々、他のプレイヤーに見つかる事もあったが、他のパーティーと戦闘中であったり、チェックポイントを探す方を優先したりと戦闘せずに進めている。
岩場エリアの中心部くらいに来た時に、前方から6人くらいのパーティーが此方に向かってくるのが見えた。
俺は近くにあった大きな岩の陰に身を潜めてやり過ごすことにする。
岩場で身を潜めていると、近づいてくるパーティーの会話が聞こえてきた。
「あの洞窟、クリアできる奴いるのかよ!」
「いないことは無いと思うけど、1陣の中でも俊敏力に力を入れてる奴じゃないと厳しいんじゃないか?」
「それだけじゃ足りないでしょ? 記憶力も試されるんだから!」
そんな会話をしながら、パーティーは俺の隠れる岩を通り過ぎていった。
どうやらイライラしすぎて、辺りへの注意が散漫になっているようだ。
俺はパーティーが話していた内容について考える。
どうやら洞窟の中もしくは周辺にチェックポイントがあるようだ。
先ほどのパーティーの雰囲気から、先ほどまでそのチェックポイントの課題に挑戦していたものと思われる。
そして、パーティー編成の問題か、レベルの問題なのかクリアできなかったようだ。
確か、俊敏力と記憶力が必要と言っていた。
俊敏力はカレルかハーメルがそれなりに高い。
記憶力については俺の得意分野である。
……一度挑戦してもいいかもしれない。俺はパーティーが出てきた岩場の奥に向かう事にした。
≪ チェックポイントのあるエリアに侵入しました。
課題 エリア内にある宝石の原石を10個集める 0/10 ≫
岩場エリアの中でも岩山に近い場所に来た時、新たなチェックポイントの課題が現れる。
しかし、先ほどのパーティーが話していた内容とはかけ離れた内容の課題だ。
辺りにも洞窟のような場所は無いので、違うチェックポイントの課題なのだろう。
クリアされていないチェックポイントの中は戦闘できない。
安全に洞窟に向かうのには好都合だ。
ただ、今からこのエリアの課題に挑戦しても間に合わないだろう。
課題の内容から見ても、後から来た俺が他のプレイヤーを追い抜くのは難しい。
先ほどから複数のパーティーを見かけていることを考えても、ここの課題はスルーするのが吉だと思う。
俺はチェックポイントのあるエリアを突き進む。
いつクリアされるかわからないので、早めに目的地へたどり着きたいところだ。
他のクランにエリアを陣地化されてしまうと、エリア外に強制転移させられてしまう。
それはつまり、戦闘可能エリアに無防備な状態でさらされる恐れがあるのだ。
しかし、無情にも俺が心配していたことが現実になってしまう。
≪このエリアはクラン「アンバー」の陣地になりました。クラン「アンバー」に所属するプレイヤーはメールにてエリアの詳細を確認することができます。クラン「アンバー」以外に所属するプレイヤーはエリア外に強制転移されます。≫
俺はアナウンスを聞いて顔を引きつらせる。すると、先ほど森で見た光が辺りを包む。
次の瞬間、俺たちは先ほどの岩場の近くに転移していた。
そんな俺の視線の先に、見覚えのある人物を見つける。
相手も俺の事を見つけたようで声をかけてきた。
「久しぶりですね。ウイングさん。ここで会ってしまったという事は、わかりますよね?」
「そうですね……。ここは見逃してくれたりはしませんかね? ノブナガさん」
和風クラン『武士道』のクランマスターであるノブナガさんは俺の返答に肩を竦める。
どうやら、素通りはさせてくれないようだ。
俺達はお互いに戦闘態勢に入る。




