107.ダンジョン脱出
従魔たちに指示した後、俺もグリモとタワーシールドを構える。
ひとまず、ハーメルには危険察知で奇襲への警戒をしてもらう。
準備を整え、俺がピエロに向かって魔法を放とうとしたその時。
「チュウ!」
俺はハーメルの注意を聞いて盾を構える。
しかし、見える範囲に敵モンスターの姿が見えない。
すると、背中に強い衝撃を受けた後、何かが張り付いた。
張り付いたものが戻るのに合わせて引き寄せられる。
「ぐっ!」
俺は抗うために足に力を入れようとする。
しかし、引き寄せられたことで最初にいたタイルと違うタイルを踏んでしまう。
次の瞬間、引き寄せられる感覚は無くなったものの、視界が切り替わる。
俺は辺りを見渡すが、フロアのどこに転移したかすぐに判断ができない。
どこを見渡しても似たような模様なので、従魔たちを視界にとらえるまで自分の位置がわからなかった。
ギリギリエラゼムを視界にとらえたことでおおよその位置を理解する。
どうやら、階段のそばまで転移したようだ。
「ガー……」
そこまで考えて、リュックサックの中からカレルの弱弱しい声が聞こえてくる。
俺は背中に攻撃を受けたことを思い出しカレルの様子を確認する。
カレルはダメージの影響か悲しそうな顔をしているが、何とか大丈夫のようだ。
俺は転移のせいで離ればなれになったエラゼムとヌエに指示を出す。
「エラゼムは極力そのタイルから動くな! ヌエはエラゼムのサポートを頼む」
「……」
「クーー」
俺は先ほどの攻撃をしてきた敵について考える。
このフロアに出てくるモンスターで、相手を引き寄せる攻撃ができる技を持っているのは1種類だけだ。
確か、カメレオンのようなモンスターで、体色を周りの色に変化させる事ができる特性を持っていたはずだ。
俺はアイテムボックスからハーメルたちのごはんでブドウのような果物を取り出す。
取り出した果物は、つぶれやすく果汁を多く含む果物だ。
体色を変化させる特性から、迷彩スキルを使い姿を隠している可能性が高い。
つまり果汁の色で体色を変えるのが、発見できる最短の方法であると判断したのだ。
「……!」
俺が果物を取り出したところでエラゼムに攻撃が入る。
どうやら、舌の色は変えられないようで、ピンク色の細長い舌がエラゼムを引きずろうとしている。
しかし、エラゼムが重いようで、ほとんど動かせていないようだ。
「ヌエ! こいつをエラゼムに攻撃している奴にぶつけろ!」
俺はヌエに向けて果物を投げる。エラゼムと俺の距離がそれなりにあるのでそのまま投げても当てる自信がない。
ヌエならば空中を飛んで直接ぶつけることができるので、ヌエの方に果物を投げる。
少し、離れた位置に飛んでしまったが、ヌエがうまくキャッチしてくれた。
ヌエは受け取った果物を見て少し悲しそうな顔をしたが、俺の指示通りに舌が伸びている先の方に向けて果物をぶつける。
すると、果物をぶつけられたモンスターは果汁が目に入ったようで、エラゼムを引っ張っていた舌を慌てて引き戻す。
果物の果汁で顔の周りが紫色になったようで、迷彩スキルの効果が切れたようだ。
体の凹凸による影が見えるようになり、大体の大きさがわかるくらいには見えるようになった。
カメレオンのようなモンスターの大きさは大体5mくらいだ。
俺が先ほどまでいたそばの壁にじっと張り付いていた。
モンスターの位置を確認した俺は、エラゼムに指示を飛ばす。
「エラゼムは適当なタイルを踏んで転移してくれ! 近くにピエロがいたら全力でぶっ飛ばせ!」
「……」
エラゼムは俺の指示に従い、今いるタイルから別の色のタイルに足を乗せる。
すると、先ほどの俺と同じようにエラゼムが転移する。
辺りを見回すと、エラゼムは正方形の四隅のタイルに転移したようだ。
これは長丁場になりそうである。俺は盾を構えて戦闘に備える。
……………………。
あの後、何とか第1フロアを脱出することができた。
エラゼムが何度もランダムジャンプしながら、逃げ回るピエロに何度も攻撃して、脱出用のアイテムを手に入れてダンジョンを脱出することに成功した。
エラゼムがピエロを追い回している間、俺たちも戦闘を繰り広げていた。
あのカメレオンのモンスターはもちろんの事、他のモンスターも相手にしている。
どのモンスターも攻撃力は低いが、迷彩スキルや敵の位置を動かす事の出来るスキルなどで俺たちを分断しようとしてきた。
幸いなことに、ハーメルとグリモ、そしてカレルは俺から離れない。
ヌエも空を飛べるので、すぐに合流することができた。
しかし、敵の攻撃を受けるたびに転移し、現在地を見失うのが、こんなに大変だとは思わなかった。
おかげでエラゼムが脱出用アイテムを手に入れるころには、それなりのアイテムを消費してしまった。
目論見に反して、出費がかさんでしまったので、また資金稼ぎをしなければいけない。
俺達はパーティーがバラバラになることが無かったからいいが、プレイヤーだけで組んでいるパーティーは悲惨の一言だろう。
1m四方のタイル上だけではまともに回避できないだろうし、
一人でもランダム転移の術中にはまれば、あのフロアでかなりの消耗戦を強いられてしまう。
実際に体験してみて、他のプレイヤーが入らない理由がよく分かった。
攻略できないとか以前に、精神的にダメージが来てしまう。
他のプレイヤーが敬遠するわけである。
最低限、今のレベルキャップくらいないと、安全に攻略することは厳しいだろう。
俺は意気消沈しながら、マイルームに戻る事にした。




