100.イベント情報と孵化
カウンターに引っ込んでいたキレーファが戻ってくると、その手には何か登山家が持つようなリュックサックらしきものが握られていた。
「これは水の中で生きているモンスター用に作られたアイテムよ。水を通さない素材で作られた袋で、背負ってる人が激しく動いても水がこぼれないように魔法がかけられている魔道具よ」
やはり魚系を含めた水棲のモンスターをテイムする人が一定数いるらしく、この魔道具のような物はどこのテイマーギルドにも常備されているらしい。
キレーファが持ってきたものは、俺の卵から生まれてくるモンスターの最大身長まで入る事ができる大きめの物らしい。
「水槽だけだと冒険に連れていけないでしょう? こういった物がないといざその従魔が活躍するときに、連れて行くことができないなんてことになってしまうわ。ていうか、こういったことはまずテイマーギルドに聞くものでしょう?」
キレーファの言う通りであるが、自分としては水槽で様子を見てから考えようと思っていた。
卵を鑑定してもらってわかった系統が両生類・爬虫類だったので、水がいらない種族の可能性もあると思っているのだ。
俺がそういうと、キレーファが呆れたように肩をすくめる。
「あのね。鑑定で両生類・爬虫類と出たとしてもモンスターエッグを見た時に水棲と出ていたんでしょう? それなら生まれたばかりのモンスターは最低限、水の中で生きるのが普通のモンスターよ。進化してからはわからないけど……」
という事で、キレーファが持ってきた魔道具を買う事になった。
そこそこ大きめの魔道具だったためか、かなりのお金を持っていかれた。
買うつもりだった水槽は今回、見送る事にした。
さすがに、魔道具の購入の出費が大きすぎた。
生まれてくるモンスターには、しばらくこのリュックで我慢してもらうとしよう。
俺はマイルームに戻った後、卵になけなしのMPを充填してからログアウトした。
ログアウトしてしばらく自室で読書していると、部屋の扉をノックする音が聞こえる。
俺が扉を開くとそこにいたのは春花だった。
「お兄ちゃん、イベントの詳細が出たからどうするか聞きに来たんだけど……。その様子だとまだ見てないよね?」
「ああ、ログアウトした後は溜めていた本を読んでいたからな」
「そうだろうと思ったよ。イベントの詳細読んで、どうするか決めたら教えてね!」
春花はそう言い残して部屋から出ていった。
俺はタブレットを取り出し、「abundant feasibility online」のホームページを開く。
イベントについての項目に更新があったので確認してみる。
どうやら今回のイベントは現実で2時間、ゲーム内で2日間行われるらしい。
基本的には陣取り合戦のようだ
1日目にそれぞれのクランが拠点からスタートする。
イベントエリアの各所にあるチェックポイントがあり、そこにいち早くたどり着いたプレイヤーが所属するクランが、そのチェックポイント周辺のエリアを陣地にできる。
チェックポイントにはたどり着くまでにミッションがあるので、それをクリアしなければ陣地を手に入れる事はできない。
そして、2日目はいよいよクラン同士の戦闘になる。
1日目に手に入れた陣地をクラン同士で奪い合うのだ。
これだけ見ると、後から奪った方がいいように見える。しかし、それでは1日目の意味がない。
クランの陣地になった場所には砦を築くことができ、防衛拠点にすることができる。
他にも自陣のエリアにある物資を使う事ができたりもするので、最初に有用な陣地を持っていると、とても有利にイベントを進めることができるらしい。
いかに守りやすく、有用な物資があるエリアを手に入れる事ができるかがこのイベントの鍵になるというわけだ。
後は、このイベントにおける第2陣のプレイヤーたちについても書いてあった。
第2陣のプレイヤーは第1陣のプレイヤーと比べてレベルが低いので、ハンデとしてチェックポイントまでの課題が緩和されるらしい。
他にも第2陣のプレイヤーのみ、このイベント中も経験値を獲得できるらしい。
つまり、第1陣のプレイヤーには経験値が入らないというわけだ。
大体イベントの詳細は分かったので、春花に話をしようとしたが、どうやらゲームの中らしい。
俺もそろそろログアウトから1時間経過したはずなのでログインすることにした。
ログインした俺はハルにイベント中は単独行動したいことと、もし不都合があるならクランを抜ける事も伝えた。
どうやら今は取り込み中のようで、すぐに返信が来なかった。
俺は連絡できたのを確認してから、マイルームを出て王都行きの馬車に乗ることにした。
これから向かう国の事についても調べておきたかったのと、どこの国に行くにしても王都は一番都合がいいからだ。
モンスターエッグに魔力を充填した後、空間魔法の教本を読みながら、馬車の到着を待つのだった。
……………………。
王都に着いた俺はハルから返信があったことに気づく。
どうやら、クランメンバーに了承がとれたようで、俺はイベント中に単独行動してもいいらしい。
俺はマイルームに入ってから、了解と返信をしてからログアウトした。
春花と昼食を食べた後、再びログインした。
MPがそれなりに増えたおかげで毎回、全MPを充填しなくてもよくなった。
さすがに必要もないのに、MP全消費の虚脱感は味わいたくない。
それでも、3回くらいで卵のMPを満タンにできる辺り、自分のMPも増えたなと思う。
≪ モンスターエッグ(水棲)への魔力充填が完了しました。孵化を開始します ≫
以前、ヌエが孵化した時のようにまばゆい光が辺りを埋め尽くす。
俺はラビンスのテイマーギルドで購入したリュックサックを取り出して、すぐにでも入れられるように準備する。
そうして光が収まり、モンスターの姿が見えるようになってくる。
「ガーー!」
……姿を現したモンスターの第一印象は大きな平たい蜥蜴だろうか?
全長40cmくらいで、茶色っぽい体色で表面に光沢があり、触って見ると少しヌメヌメしていた。
「ガーー……」
なにやら辺りを見回して何かを探しているようだ。
俺はその行動を見てリュックサックを開ける。
中にはすでに水が入っているが、魔道具としての効果で中の水は出てこないので、口を開けたまま横に倒した。
水の入った魔道具を見つけた蜥蜴のようなモンスターは、ゆっくりとした足取りで魔道具に近づいていく。
魔道具の前まで来ると、体を反転させてシッポの方から中に入っていく。
最終的に魔道具から頭だけ出した状態になり、そのまま動かなくなった。
≪ リバーマンダー♂(幼体)のテイムに成功しました。名前を付けてください ≫
NAME「」
種族「リバーマンダー ♂」LV1 種族特性「淡水棲」「鈍足」
HP 100(-40)
MP 100(-40)
筋力 10(-1)
耐久力 10(-1)
俊敏力 15(-14)
知力 15
魔法力 3(-2)
スキル
「隠者LV1」「水術LV1」「水魔法LV1」
状態 「幼体」




