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第10章ー9

 その頃、日本海兵隊は、粛々と対中戦争勃発に伴い、部隊の動員と派遣の準備手続に入っていた。

 そもそも、日本海兵隊は明治の建軍以来、対外戦争の火消として編制されてきた存在であり、ある意味、陸軍よりも対外戦争のために準備を整えてきた部隊だった。

 その能力は、明治初期の台湾出兵以来、実証され続け、陸軍よりも外国に派遣された際においては優秀と内外で認められてきた存在だった。

 戦時であるとして、4個海兵連隊を基幹とする鎮守府海兵隊から、約3倍の4個師団に海兵隊を動員して拡充する。

 来るべきものが来た、としか海兵隊の上層部は認識しなかった。


「私の最後の御奉公として、上海に赴く海兵隊の総司令官になりたいのですが」

 土方勇志大将の懇願を、本多幸七郎に匹敵する大海兵本部長と周囲に謳われている鈴木貫太郎海兵本部長は黙って受け入れた。

 土方大将の最後の戦いを飾るにふさわしい戦いになるだろう、初陣を日清戦争で飾り、台湾平定、義和団事件と、日本の対中戦争にずっと関わってきた土方大将が停年間際に戦うのに、この戦争は何とも言えない晴れ舞台ではないか、と鈴木海兵本部長は内心で思った。


 永野修身横須賀鎮守府海兵隊司令官、米内光政佐世保鎮守府海兵隊司令官、加藤隆義舞鶴鎮守府海兵隊司令官は、それぞれ海兵師団長に横滑りして、上海に赴くことになった(長谷川清呉鎮守府海兵隊司令官も当然、海兵師団長に横滑りする。)。

 3人は、それぞれ内心で思いを巡らせつつ、上海に部下と共に赴くことになった。


 事前に予め準備されていたとはいえ、全ての海兵師団の動員が完結し、上海に集結するのには、約1月は掛かる。

 そして、英米等他の諸国の軍隊と作戦計画を立案し、作戦発動に至るのには、さらに時間が掛かるのは止むを得ない話だった。

 どんなに急いでも、5月半ばにならないと上海から南京への進撃を開始することはできない話だった。


 そして、上海港に日本の海兵隊を筆頭に各国の軍隊は続々と揚陸されたが、蒋介石率いる中国国民党軍はそれを妨害しようとはしなかった。

 その理由は簡明極まりないものだった。


「上海沖合に、日本の戦艦、「金剛」と「榛名」が遊弋している以上、上海への砲撃は無理筋だ」

 蒋介石は指揮下の砲兵部隊に、そう言って上海への砲撃を厳禁した。

「金剛」と「榛名」は、南京事件が起きた後、速やかに上海沖合に駆け付けていた。

「我々の持っている重砲は120mm級が最大だ。日本の戦艦の主砲、36サンチ砲に撃ち合いで勝てるわけがない。砲撃で自らの砲の秘匿場所を暴露するのは愚の骨頂だ」

 そう表向きは蒋介石は言ったが、これも戦後を見据えた行動だった。

「ともかく、「奇妙な戦争」に徹する。自分も部下の命も救わねばな」


 そうこうしている内に、空母「伊勢」を旗艦とする艦隊も上海沖に遊弋した。

「伊勢」からは、連日、偵察機が発艦し、攻勢準備を整えた。


「「鳳翔」は来られないのですか。「日向」が改装中で来られないのは仕方ないですが」

 「伊勢」の戦闘機パイロット、源田実少尉は、「伊勢」の航空隊長を務める吉良俊一中佐にこぼした。

 源田少尉にしてみれば、1隻でも多くの空母を投入すべきだった。

「おかんが恋しいか」

 吉良中佐は少しからかった。

「鳳翔」には、「おかん」という異名がある。


「そんなことはありません」

 源田少尉は色を成した。

「むきになるな。「鳳翔」には補充の搭乗員を育てるという任務があるのだ。それを疎かにはできん。世界大戦の経験からな」

 吉良中佐は、一転して源田少尉を諭した。

 源田少尉は胸を衝かれる思いがした。

 そうだ、世界大戦で海軍航空隊は大損害を。

「考えが足りませんでした」

 源田少尉は、謝罪した。 

 最後の吉良中佐と源田少尉のやり取りを補足します。

 この世界では第一次世界大戦当時の陸海軍航空隊(現状では空軍と海軍航空隊)は、第一次世界大戦で大量の損耗を伴う死闘を演じており、補充の重要性が骨身に沁みています。

 空母で発着艦できる操縦士が損耗した時の危険性を、吉良中佐も源田少尉も理解しているのです。

(史実でもマリアナ沖海戦やレイテ沖海戦で日本海軍航空隊は)

 2人の会話にはそういう背景があります。


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