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第5章ー15

 鈴木貫太郎海兵本部長と面会してから数日後、林忠崇貴族院議員は、元老の山県有朋の私宅を訪ねて予備役士官訓練課程の導入に山県が賛成するように口説いていた。

「鈴木海兵本部長らが進める予備役士官訓練課程の真意について、どうも山県閣下に伝わっていないようなので説明に参りました」

 林は山県に言った。

「真意だと」

 山県は首を傾げた。


「鈴木も私も欧州で独で帝政が崩壊し、共和政になるのを目の当たりにしました。その際に独の大学の学生の行動は目に余るものでした」

 林は語った。

「そういう報道があったな」

 山県にも覚えがあった。


「予備役士官訓練課程を日本でも導入することにより、大学等の学生の行動を秘かに監視するのです。学生が過激な思想や行動に染まらないように。軍部の士官を表向きは予備役に編入して、大学の教官に送り込むことによって。更に軍部から奨学金を受けた学生も情報を提供してくれるでしょう」

 林は声を心もち潜めた。

「何と。そんな真意があったとは」

 山県は唸った。

「当然です。こんなことは公言できません」

 林は山県に言った後に続けた。

「予備役士官訓練課程を、高等学校や大学に導入することに賛成していただけないでしょうか。真意はあくまでも伏せたままで。皇室を護るためです。独のようなことが日本で起きたらどうしますか」

「うむ。分かった。儂の全力を尽くそう」

 山県は承諾した。

 かつて戊辰戦争の際に、錦の御旗に躊躇い無く銃弾を放った林は、嘘も方便だと腹の中で舌を出した。

 やはり、山県閣下は皇室の言葉に弱い。


 元老の山県が、いきなり予備役士官訓練課程を高等学校や大学の導入することに積極的賛成になったことから、陸海軍部の予備役士官訓練課程導入反対派は腰砕けになってしまった。

 そして、この動きは原敬内閣の動きに見事に合致していた。

 予備役士官訓練課程を高等学校や大学に導入するとなると、その教官は当然、現役士官から基本的に出さねばならない。

 つまり、質的充実のために行われる軍縮に伴い、リストラされて予備役に編入される現役士官の転職先として、予備役士官訓練課程の教官が確保されたのである。

 鈴木以下の軍首脳にとっても願ったりかなったりの話だった。

 何しろ、予備役士官訓練課程の教官を務めることにより、現役の勘を多少なりとも転職した元現役士官は維持できるのだから。

 こうして、原内閣と陸海軍部は協働して、予備役士官訓練課程に関する法律を制定し、全ての国公立の高等学校や大学に予備役士官訓練課程を設置させ、希望があれば私立の高等学校や大学でも予備役士官訓練課程を設置することができるようにした。


 更に、原内閣は、私立の大学や高等学校に対し、予備役士官訓練課程を設置した大学や高等学校に対しては補助金を手厚く支給するというアメまで撒いた。

 私立の大学や高等学校にしてみれば、予備役士官訓練課程に所属する学生の学費は、国が確実に支払ってくれるし、更に補助金までもらえるということで、多くの私立の大学や高等学校が競うように、陸海軍省に日参して予備役士官訓練課程の設置に奔った。

 その中には、早稲田や慶応といった名門まで入っていた。

 もっとも、早稲田や慶応にしてみれば、御国のために尽くす士官を養成する予備役士官訓練課程を設置することは、御国のためになることなので設置したのだ、という建前を自らは主張したが。

 ちなみに、最終的に早稲田は海軍(と海兵隊)、慶応は陸軍(と空軍)の予備役士官訓練課程を設置している。


「うまくいってよかったな」

「うまくいってよかったです」

 鈴木海兵本部長は、予備役士官訓練課程に関する法律が制定された後、林議員の下を訪ねて、林議員の尽力に感謝した。

 これで、第5章は終わりです。

 次からワシントン会議を描く第6章になります。


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