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第5章ー1 原敬内閣

 活動報告に書きましたが、予定を変更し、第5章に移ります。

 原敬内閣が成立してから、「平民宰相」と、原首相は当時の国民の多くから呼ばれ、その国民的人気は極めて高かった。

 実際、板垣退助や大隈重信ら、明治時代の多くの自由民権運動家らが夢想していた衆議院を基盤とする政党の党首による内閣を、原は大正時代になってようやく現実のものとしていたのである。

 ここに至るまでの路は決して平坦ではなかった。


 板垣の自由党の結党、大隈の立憲改進党の結党、そして、当初は政党を敵視していた伊藤博文による立憲政友会の結成、桂太郎による桂新党の結党等々、明治日本の政党史は多彩を極める。

 そう言った中で、原は、井上馨や陸奥宗光らの知己を得た後、伊藤の立憲政友会の結党に際して、大阪毎日新聞社の社長を辞めて、井上を介し、立憲政友会に入党することで議員としての第一歩を印した。

 更に、立憲政友会の幹事長に就任し、その後、立憲政友会の幹部としての路を原は歩むことになる。


「我田引鉄」という言葉に代表される与党になることによる選挙民への利益誘導による集票システムを、立憲政友会で星亨の後を引き継いで完成させたのは原だった。

 これによって、立憲政友会は後に日本の二大政党の一方の雄に躍進し、その反対派が結集して、民政党という二大政党の他方の雄が出来るという結果が大正時代の末期にもたらされる。


 少し話が先走ったが、原が率いる立憲政友会の支持基盤は、実は「平民宰相」という原のその名に反し、むしろブルジョア、地主階級以上にあった。

 だからこそ、貧民層、いわゆる無産階級が選挙に参加することになる普通選挙実施には、原が率いる立憲政友会は反対した。

 そのこともあって政党内閣反対をずっと唱えていた元老の山県有朋でさえ、無産階級への警戒という点等で考えが似てきた原率いる立憲政友会と手を組むことをためらわなくなった。

 第一次世界大戦からロシア革命が起こるという時代の流れの中で、終には、山県は、原を激賞して、子飼いであった寺内正毅の後継首相に原を推薦するに至ったのである。

 かなり話がそれたが、こういった背景が、第一次世界大戦後の海兵隊や陸軍の再編制に伴う周囲への影響に際して、個別の点で、陸海軍の首脳部と原内閣の間に、協調と対立関係を生んだのである。


 そして、原は陸相、海相、外相以外は立憲政友会の党員から閣僚を選び、名実共に政党内閣を実現した。

 この時点で、原は怖いものなしの状態だった。

 何しろ、これまで何かと言うと自らの敵にまわっていた元老の山県でさえ、自分を首相に推挙してくれたのだ。

 後は、自らが首相の間に、立憲政友会を万年与党にする下地を作り、立憲政友会を与党とする政府が永遠に続くことの実現さえ、原は夢想する状況だった。


 だが、世界大戦終結に伴い、続々と帰国する陸海軍の幹部達は、原内閣に必ずしも従順では無かった。

 このままではダメだ、日本の将来を真剣に憂えた彼らは、原内閣に是々非々の態度で臨んだ。

 林元帥や秋山参謀総長をバックに控えた彼らは、原内閣にとって厄介な相手となった。

 彼らがまず、ケチを付けたのが、「建主改従」を主張する立憲政友会の鉄道政策だった。


 立憲政友会にとって、地方への鉄道敷設は、「我田引鉄」と揶揄されても積極的に行わねばならない地方への利益誘導の象徴とも言えた。

 それによって、立憲政友会は地方で票を集めてきたのである。

 しかし、陸海軍は、鉄道の標準軌化を強く主張するに至った。

 これが厄介なのは、鉄道の標準軌化を進めては、地方に鉄道を敷設する費用が足りなくなる、つまり立憲政友会にとって利益誘導がしにくくなることだった。

 かといって、陸海軍の意向を無視もできない。

 原内閣は、いきなり躓くことになった。 

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