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エピローグー2

「おお、見事に動いておる。動いておる」

 1929年8月、日本初の制式中戦車、89式中戦車が動く様を視察していた秋山好古元帥は目を潤ませながら言った。

「これ程の戦車が出来たとは、感無量だな」

「全くです」

 梅津美治郎大佐も、その横で目を潤ませた。


 89式中戦車は、世界大戦以来、日本陸軍が戦車を運用してきた経験を反映して完成させた初の制式中戦車だった。

 世界大戦後の日本の国内産業基盤整備は、日本でも1930年代になれば、30トンまでの重量なら戦車を運用できると陸軍省や参謀本部に判断させるものになっていた。

 そのため、15トン未満を軽戦車、25トン未満を中戦車、25トン以上を重戦車とする戦車区分を採用するとともに、まずは国軍の主力となる中戦車の試作、制式化を陸軍は行った。


 当初は、当時の欧米で主力となっていた37ミリ対戦車砲に、戦車の主要部が抗堪できれば充分と考えられていたことから、予算等から軽戦車を主力とする案もあった。

 だが、「南京事件」の戦訓が(結果からすれば誤った戦訓だったと言われても仕方ないが、)、海兵隊から陸軍に伝わった結果、陸軍は中戦車を主力とせざるを得ないと考えることになった。

 独ソから対戦車戦術を教わった中国は、75ミリ野砲を対戦車砲として駆使するという戦訓が、海兵隊から陸軍に伝わった結果、陸軍は対ソ戦でも、ソ連は同様の戦術を駆使すると推測した。

 となると戦車の主要部装甲は、80ミリが必須だと陸軍は考えたのだ。

 こうなると15トン以下の軽戦車では、その要求を満たすことが出来ない。


 更に困ったことに、世界大戦で西部戦線の経験を中途半端な形で経験したことから、日本陸軍は戦車を必要必須のモノと考えており、それ以来、戦車の国産開発と運用を悲願としてきた。

 そして、第一次世界大戦後の日本の国内産業基盤の整備は、1920年代末までという10年以上の歳月が掛かったが、皮肉なことに日本陸軍の願望を叶えることが可能なレベルになっていたのだ。


「主砲が貧弱なのが残念だな」

「全くです。ですが、将来、新型の野砲を戦車砲に改造した上で、主砲として換装する予定です」

 秋山元帥と梅津大佐は、そう会話した。

 そう、軽戦車を当初は主力として考えて、戦車の主砲を開発してしまった結果、89式中戦車の主砲は、57ミリ短砲身という代物になってしまったのである。

 どう考えてみても、75ミリ野砲に撃ち負けてしまう代物だった。


「機動力は充分か」

「搭載するエンジンが、リバティエンジンを戦車用に改造したエンジンですから、350馬力を発揮できます。20トンの車体重量なので、不整地での実用的な最高速度は、20キロといったところですか」

「充分だ」

 秋山元帥と梅津大佐の会話は続いた。


「問題は」

「予算か。こればかりは、わしにもどうしようもない」

 梅津大佐の溜め息を吐きながらの言葉に、秋山元帥は梅津大佐を慰めた。

 そう、これだけの高性能戦車を開発できたものの、当然、お高い戦車になってしまったのである。

 リバティエンジンを戦車エンジンに採用したのも、エンジン開発や生産費用を少しでも抑えようという涙ぐましい努力の一環だった。


「濱口雄幸内閣の緊縮予算方針で、年間20両を買うのがやっとです。これでは、国内の陸軍と海兵隊の戦車の更新に、20年はかかります。その間に新型戦車が開発されてしまいますよ」

 梅津大佐は、秋山元帥に訴えたが、陸軍の重鎮、秋山元帥と言えどもそう打てる手が無い。


「そうは言っても、濱口内閣の緊縮予算は、国内外の色々な情勢に基づくものだからな。一応、わしの動ける範囲内で、働き掛けはしてやる」

 秋山元帥はそう言って、梅津大佐を慰めた。

 こんな火葬戦車、幾ら日本でも開発するか、とお叱りを受けそうな気が。

 私、作者なりに、この世界の歴史展開から考えて作ったのですが、いろいろ突っ込み所、満載に。

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