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第11章ー10

 こういった状況が続く中、終に張学良は1928年12月28日、奉天派を挙げて、中国新政府へ合流することを表明した。

 更に日米ソ等が持つ満蒙権益全てを、できる限り速やかに中国新政府へ無償で返還するように求めることも声明した。

 ここに、日米韓の三国の政府は、満蒙問題につき、何れは重大な決意を示さざるを得ない、と考えるようになった。


 だが、今は時期が悪いというのも三国共にわかっていた。

 山東出兵で泥沼化した状況から日米が抜けるのが優先である。

 それに、張学良も中国新政府も公然と日米に刃を向ける程、無謀では無かった。

 全ての外国が持つ満蒙権益について、速やかに無償で返還するように求める、これはずっと中国国民党、中国共産党共に声明で結党以来、言って来たことであり、これに張学良も同調しただけと言う言い訳が立つものだからだ。

 こういった状況から、日米両政府は張学良の声明には応じかねる、という反応を示すだけに今は止めた。


 ともかくこういった状況は、田中義一内閣にとって逆風となった。

「張作霖爆殺事件」の真相解明は絶望的となり、山東出兵は泥沼化している。

 1929年になってから、今上天皇の不興は強まるばかりだった。

 牧野伸顕内大臣ら、宮中の面々は、今上天皇の意向を受け、田中首相を天皇自らが問責することさえ、検討しだした。

 宮中の事なので、本来からすれば、元老の中でも西園寺公望元首相が発言権が強いのだが、西園寺元首相は、家庭内の揉め事(内妻が私生児を産むという醜聞事件)や昨年来、病床に親しむ日々が続いていたことから、動くに動けなかった。

 結局、山本権兵衛元首相が動くことになった。


 老躯をおして、山本元首相は、今上天皇陛下に奏上した。

「大正天皇陛下も、明治天皇陛下も、直接、首相を問責したことはありません。今、今上天皇陛下が、田中首相を、直接、問責することはよくない先例となりかねません。私から、田中首相に内々に働きかけますので、どうか暫くお待ちを」


 山本元首相は、側近の斎藤実枢密顧問官を介して、田中首相に山東出兵で停戦協定を中国新政府と速やかに結ぶと共に、それを機に自らの病気を理由に内閣総辞職するように求めた。

 実際、田中首相は、今上天皇陛下の不興を買ったことや、山東出兵が国際的孤立を招いたことから、心労を重ねており、体調を崩しがちになっていた。

 こうすれば、表向きは「張作霖爆殺事件」の真相解明ができなかったことを今上天皇陛下に叱責されたことが、内閣総辞職の理由にならなくなる。

 田中首相の面子を保てる良い方法だった。


 日米、中国双方が、「済南事件」について、お互いに謝罪と賠償を求めあったことから、停戦協定の話も中々進まなかったが、一旦、それらを棚上げすることで、何とか1929年6月、日米中の間で停戦協定が締結された。


 これを機に、1929年7月2日、自らの病気を理由に田中首相は首相を辞し、内閣総辞職を行った。

 元老の西園寺元首相と山本元首相は、憲政の常道として、第二党の党首、濱口雄幸立憲民政党総裁を新首相に推薦し、ここに濱口内閣は成立した。


 また、青島市にいた日米海兵隊は、青島市警備のために佐世保鎮守府海兵隊から一時的に分遣されることになった1個海兵大隊を除き、同月中に全てが本来の所属に帰還した。


 ここに「山東出兵」は終わりを告げ、「張作霖爆殺事件」の真相は解明されないままとなった。

 このことは、特に満蒙問題について、主に日米(韓)政府と、奉天派が帰属した中国新政府との間に、巨大な火種を抱え込ませることになった。

 後、数年の間に何かが満州で起こる、先の見通せる人は誰もがそう考え、それなりの準備を考えるようになった。

第11章の終わり、そして、本編の終わりです。

後、エピローグを5話投稿して、第5部は終わりの予定です。


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