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第10章ー14

 5月24日を期して、日本海兵隊を主力とする日英米等の連合軍は、無錫近郊に築かれた中国国民党軍の陣地に対する攻勢を開始した。

 土方提督を総司令官とする連合軍の攻勢は、基本に忠実と言えば忠実な作戦だった。

 右翼を加藤提督率いる第4海兵師団が堅め、中央部では永野提督率いる第1海兵師団が牽制攻撃を行うことで、中国国民党軍の目を引きつける。

 その一方で、第2海兵師団からも引き抜いた全ての戦車部隊(合計70両)を左翼の米内提督率いる第3海兵師団に預けることで、中国国民党軍の陣地を突破する。

 予備の英米の海兵旅団は、その後、南京方面への進撃を行い、第3海兵師団は中国国民党軍主力を揚子江へ、第1、第4両海兵師団が堅める方向へと圧迫して包囲してしまおうという攻勢だった。

 もちろん、事前に十二分な航空偵察は行われており、中国国民党軍の補給部隊への空襲はできる限り行なわれた。


 だが、この空襲は中国の宣伝の的にもなった。

「中国の地元住民に対し、日本空軍が意図的に爆撃を加えているだと」

「はい。武漢の中国国民党政府は、そのように宣伝しています」

「確かに空襲の際に誤爆は付き物だから、住民を補給部隊と誤認しての爆撃が絶無とは言わないが」

 井上幾太郎空軍本部長は、部下からの報告に顔をしかめた。

「ともかく、意図的な爆撃は無いと反論しておけ」

「分かりました」


 そういった後方でのことは無縁に、無錫周辺では死闘が始まった。

 蒋介石は、わざと程潜率いる第2軍を中央の最前線においていた。

 理由は極めて簡単である。

 程潜を戦死させて、死人に口無しとして、「南京事件」の全責任を押しつける為だった。

「南京事件」の背景に中国共産党がいるのは間違いないが、武漢にいる彼らがそれを認めるわけがない。

 日英米の世論を宥める為に、現場責任者の文字通りクビを与えることで、ケリをつけようと蒋介石は考えていた。

 そして、それは田中義一首相以下の日本政府の意向と合致していた。

 日本政府も昭和金融恐慌の嵐が完全に収まらない中で戦争を続けたくなかったのだ。


 戦車を集中投入した第3海兵師団の攻撃は絶大だった。

 後方から部隊を移動させることで、突破を防ごうとする中国国民党軍の努力は、日本の航空部隊によって大幅に阻止され、そうこうしている内に中国国民党軍の三線陣地は、2日で突破されてしまった。戦車と自動車部隊を先頭に立てた第3海兵師団は中国国民党軍主力の後方へ回り、予定通り包囲に取り掛かった。

 一方、英米の海兵旅団は南京へと敗走する一部の部隊を追撃した。


 5月27日、揚子江の河岸に第3海兵師団は到達、ここに中国国民党軍主力は包囲された。


「見事にやられたものだな」

 蒋介石は、日本海兵隊の攻撃に、敵ながら天晴れという感想さえ抱いた。

 最低5日は陣地で持ちこたえて、中国国民党軍の意地を果たすつもりだったが、3日で包囲されてしまった。

 砲兵の練度が相対的に圧倒的な劣勢にあるのは分かっていたので、野砲までも最前線に分散配置し、直接照準射撃に徹することで、少しでも日本海兵隊の血を流そうとしたのだが。

 戦車を何両か破壊して中国砲兵の意地を見せるのが精一杯だったらしい。

 陣地が頼れなくなった中国国民党軍の兵士は浮足立ち、揚子江の河岸へと日本海兵隊に圧迫されつつある。


「程潜将軍が戦死されました」

 秘かに程潜の傍に配置していた側近から報告を受けた蒋介石は内心で決断した。

「降伏の潮時だな。今なら多くの部下の命を救える」


 武漢政府は、国民党右派に近い部隊を私に押しつけ、降伏してきた軍閥の諸部隊は武漢に呼び寄せている。

 国民党右派を日英米に消させるつもりだ、蒋介石はそう判断し、時を計っていたのだ。 

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