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復讐36話


 「………久々だな、王都」



 目を瞑って思い返す。


 懐かしい街並みは馬車からよく見える。

 人々が和気藹々と生活し、些細な騒ぎが起きても、結局みんな笑って終わらせるような、平和そのものの街。

 ユイトの帰る居場所だったところ。



 ああ、懐かしい。

 街の人々の声が聞こえるようだ。

 食べ物の匂いだろうか? いい匂いだ。

 子供達、元気が良さそうだ。


 ああ、懐かしい。


 みんなみんな、懐かしい。




 馬車から身を乗り出していたユイトは、元いたユイの隣に戻って、俯いたまま再び回想する。


 次々に、いい思い出が蘇る。

 ユイトは目を瞑ってそれらを思い返してみた。

 思わず笑みがこぼれる。


 こんなだったな。

 俺の日常というのは。

 ははは………やっぱり笑みがこぼれるな。

 この街の風景が、笑い声が——————





 「何もかも、憎い」



 ユイは横目でユイトの表情をみた。

 なんて邪悪な笑みなのだろうか。

 この笑みの邪悪さを作り出した元凶が、自分をこんな目に合わせた元凶と同じだと再確認した気がした。



 「………ユイ」


 「何よ」


 「最初の予定は決まってる。つまり最初の復讐対象だ」



 ユイトはユイに粗方自分に起きた出来事を話してある。

 誰とどんな関係だったか、誰がどんな裏切り方をしたのか。



 「俺が、最初に復讐するのは—————————」












———————————————————————————












 「そちらを右。ああ、一つ奥です。そうしたら………」



 入り組んだ道に入ってすぐ、ユイトは道案内を始めた。

 ユイはというと、ユイトから最初の標的を聞いて以降ずっと黙りこくっている。


 いや、それは正確ではない。



 「如何されました?」


 「………ステレア様」



 女の名前はステレア。

 王国騎士が護衛しているという事はかなり高位の家の者だと察したユイは念の為 “様” と 敬称をつけた。

 女の方も特に訂正を入れないあたり察しは当たっていると思う。


 「いえ、何というか………ありふれた景色だなと思いまして」


 「ふふ、不思議な事を仰るのですね。まぁ、旅をしていればそういう事もあるでしょう………あの、如何されました?」



 ユイはハッとした。

 気づかないうちにステレアの顔をじっと見ていたからだ。



 「ああっ、あの………………いえ、長旅をしていますが、ステレア様程美しい方は見なかったので、つい見とれてしまっておりました」



 と、心にもない事を言って誤魔化した。


 ステレアの方はまんざらでもなさそうだった。




 「………」



 ユイは再び外を眺めてぼーっとし始める。

 そしてふと、こんな事を思った。




 ——————私は何故、この女に既視感を感じたのだろうか。




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