復讐35話
「いえ、決して怪しい者ではありません」
ユイトはギリギリ理性を保った状態でそう答えた。
表情は依然笑顔を崩さない。
後ろにいたユイが驚いた様な表情をしていた。
(抑えた………?)
間近で強く感じ取った殺気の大きさからして、おおよそ簡単に押さえつけられるものではなかった。
少なくとも、ユイはそう考えていた。
「証拠はあるのか?」
フランクルは警戒を解かずにユイトにそう尋ねる。
ここで、ユイトはあるAUSを発動した。
元になったUSは、《圧スル者》
対象に威圧をかけ、金縛りにするUS。
他にも、攻撃の瞬間に使うことで幻覚を作り出したり、分身を見せることが可能。
これに相反するAUSは、
《親愛ナル者》
相手を無条件で信用させるAUS。
矛盾点や明らかに敵だと判断されている場合は状態を解除、または最初から掛からない。
また、相手に自分の目を見てもらう必要があるので、条件を満たせない場合このUSは発動しない。
ちなみに、関所の警備兵はフルフェイスのヘルムを被っているので、これは関所で使えない
「いえ………あいにく我々は流浪の身。なので身分を証明するものはありません。ですが、どうか信じてもらえないでしょうか」
「「!!」」
AUSにより、情報が刷り込まれる。
ユイトは敵ではない、と。
信用できる、と。
「………」
(よし、成功だ。効力は12時間きっかり。それまでにとりあえず目的は遂行しよう)
まず、中に乗っていた女が口を開いた。
「フランクル、あまり疑っては悪いですよ」
「はっ、申し訳ございません」
フランクルはユイトたちに頭を下げてこう言った。
ユイトは心の中で密かにほくそ笑む。
「すまない。気分を害されたと思う。職務上、少しでも怪しいと思ったら警戒してしまうのだ」
「いえ、仕方のない事です。我々もこの様に根無し草なので、疑われて当然です」
ユイトはちらっと兵士達の様子を伺う。
どうやら警戒は完全に解かれているようだ。
ユイトは次の段階に入った。
「あの、もし宜しければご案内致しましょうか?」
「何? 道があるのか?」
「ええ。商人の方に聞いたのですが、軍はあまり使ってない経路があるようです」
女とフランクルは顔を見合わせる。
「知っていましたか?」
「いえ、普段ここは管轄外なので、私はあまり詳しくは知らないのです」
女は少し思案して、ユイトにこう言った。
「では、案内を頼んでもよろしいでしょうか?」
「ええ。お任せください」
フランクルはかなり高位の騎士。
つまり、そんな彼が護衛をしている彼女はかなりの重要人物だと言う事だ。
だったら関所も簡単に切り抜けられる。
貴族や王族には緩い様になっているのだ。
これが計画の一つ。
そして、 次の目的。
それは、王都に再び入ること。
そして——————




