復讐21話
「………………お前、勇者って知ってるか?」
「勇者………? しっ、てる………わた、し………ゆう、しゃだ、った………」
「!!………………………そうか………お前も、国に捨てられたのか………」
遺跡には、こう書かれていた。
“ここは勇者の墓場。不要となった英雄が人知れず土に還る場所。だが、そこに生も死も関係ない。何故なら、勇者なんてどこにもいないのだから”
ユイトは、こう解釈した。
勇者は、元より使い捨てるつもりで喚んだ、捨て駒に過ぎないのだと。
「………」
気分の悪い話だ。
元より裏切られるのは折り込み済みと来たもんだ。
「お前も、裏切られたのか?」
「………みんな………私を、バケ………モノ、って言っ、た………の。仲間、だっ、たはずの………人がい、きなり、敵意の、目を向………け、石を、投げつけ、罵り、蔑み、そし………て、ここ、に括り付、けられ………た」
少女は、悔しそうに顔を歪め、涙を流してこう言った。
「ただ………救いたかっただけなのに………ッ!!」
キュッと口を結ぶ。
ああ同じだ。
とことん同じだ。
そうか——————
ユイトは、心のどこかを揺さぶられたような気持ちになった。
共感とはまた違う。
ただの同族意識とも違うし、同情とも言えない。
ユイトはこう思ったのだ。
そうか——————こいつは、“俺” なんだ、と。
「!? なに、して、る………の!」
ユイトは痛みで表情を歪めながら、鎖を引っ張る。
あの謎の痛みは絶え間なくユイトを襲い始めた。
「ぐぅ、ぃいぎァああ………あああああああアアアアアアアア!!!!!」
この少女は、資格がある。
この国に復讐をする資格がある。
正直、女とわかった瞬間、警戒したし、感情移入しまいと思った。
一度こっ酷く裏切られたからな。
あの屈辱は、絶対晴らす。
そして、彼女にもその手伝いをしてもらう。
「やめ、てよ! なん………で………!」
「見ればッ、わか………るだろッ、たす、けて、るン………だよ!!」
「放っておいてよ………! もう、疲れたの………!」
ユイトは納得していない。
この少女がこのような扱いを受けていることも。
この国がこんなことをしていることも。
「ふざけンなッ! 何故抗わない………何故引き下がる! こんなことが許せるのか!」
「仕方ないじゃない………私だって………私だって、こんな風になりたいわけじゃなかった! 仲間と一緒にいたかった、好きな人と幸せになりたかった、でも、みんな裏切ったんだ! もう、長い年月をここで過ごした………上には私を知っている人はいない。もしいたとしても、それは私を裏切った人たちだけ! もう、あんな思いしたくない………!」
少女は諦めている——————ように見えるだけだ。
本当に諦めていたのなら、もうとっくに命を絶っている筈だ。
なのに、それでもなお生き残っているってことは、まだ未練があるということ。
生きたいと思っている証拠だ。
くだらねぇ………
諦めたフリなんかしやがって………だったら何で、お前はこんなとこでまだ生きてるんだよ………!
ユイトは尋ねた。
「国が………憎いか………?」
「え………?」
ユイトは歯を食いしばってこう叫んだ。
「この国が憎いかッッ!!!!」
少女は一瞬にして悟った。
ああ、彼も同じなのだ、と。
彼もまた、この国の被害者なのだと。
ならば、答えなければ。
「憎い………! 私は、この国が………許せない………………ッッ!!!」
ユイトはそれを聞いて、フッと穏やかに笑った。
そして、より一層力を込めて、鎖を引っ張った。
「う、ぁあああああああアアアアアアアア!!!!!!!」




