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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師と隠者は、己の真理を貫くか
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転移=道具と情報は使いよう

公国は遠い。そんな事はわかっているし、おれはすぐにお兄さんの所に行きたい。

時間を短縮するためには、持っている物を便利に使うのが一番だ。

と言うわけで、おれは立ち上がってそのまま、ギルドの方に向かっていた。

その後を師匠が歩いてくるけれども、夕暮れ時で結構人が多いのに、彼はまったく他人にぶつからない。

師匠を皆して避けているのだ。

まあ避けるよな、硫黄狼の毛皮は卵の腐ったような匂いに似た匂いを放つから、自然と避けるんだろう。

それが悪い事だとは思わない。

おれだって、何も知らなかったら絶対に、避けて通っていたはずだ。

硫黄狼は結構な上位の魔物であり、単独で倒すのはとてもじゃないけれど、無理と言っていい。

何しろ常に群れで活動しているから、一人で相手なんてできないのだ。

これを倒す場合は、軽く見積もって腕利きが、五人は必要になる計算だ。

師匠がそのあたりの事を話してくれた事はないから、その硫黄狼の毛皮をいったいどういう経緯で手に入れたのか、おれは知らない。

師匠はうっかり質問すると、それが癇に障った場合首根っこ掴んで振り回すのだ。

そのためおれは、師匠の弟子になってすぐに、

「人の事が気になっても問いかけてはいけない事がある」と学習したのだ。

そのおかげで、余計な揉め事に巻き込まれなかったから、この実地体験はありがたかった。


「ギルドなんかに向かって何するんだ?」


「ギルドだったら、ギルドの転移陣経緯で、公国までの距離をかなり短縮できるかもしれないので」


大きい街のギルドとか、大きな組合とかでは、そういう転移陣を備えている事が普通だ。

上の人とかが使ったりするし、急な応援要請とかの場合も、この転移陣は優秀なのだ。

転移先も、大きい街とか施設だったりするから、今回のおれのように、公国のおそらく首都にいるであろうお兄さんを目指す場合は、かなり便利な物のはずだった。

東区から、北区へ入る。門をくぐれば、ここから先は誰でも人間に見えるようになる。

師匠は一体どんな見た目になるのだろう。

興味半分で振り返れば、師匠は何一つ変わっていなかった。

あのーララさん、あなたの幻術が効果を発揮してませんが。

これは師匠限定なのか、それともララさんの術が弱くなったのか。

どっちだろうと思っても、周りの誰も、師匠の角に関して触れていない。

もしかして、おれだけが師匠がありのままに見えているのだろうか。

それはあり得そうな事だったから、何も言わないですぐ近くのギルドを目指した。

夕暮れ時のギルドは忙しい。日中活動していた冒険者たちが、集まって騒ぐし、夕飯を食べたり情報を交換したりもする。

持ってきた素材を換金する事もしているし、鑑定を頼んでいる事もある。

受付は混雑しているのも想定内、だった。

師匠は初めてここのギルドに入ったのだろうか。

入口でガツンと頭をぶつけて、入口の枠にひびを入れてぼやいた。


「こういう時、背丈があると面倒だな」


こっちとしては、その額が傷一つついていない事の方が、問題だと思いますがね。

そんな内心の言葉を口に出して、機嫌を損ねてもつまらないので、放っておく。

周りを見回せば、やっぱりいつも通り、マイクおじさんの受付が空いている。

行列が短い。これはちょうどいい。

その行列に並んでいる間に、師匠が問いかけてきた。


「ずいぶんと金持ちのギルドだな」


「大きい所だからじゃないですか」


「建物の素材がしっかりしているし、割合術で保護されているものが多い。あと受付の奴への守りも強い。羽振りがよくなければここまでできないだろう」


「へえ」


おれはここしかギルドを知らないから、そうやって比較する事も出来るんだ、と感心していた。

ほどなく行列が終わり、マイクおじさんの前に立つ。


「なんだ、今日はもう、夜のミッションの受付は終わったぞ」


「公国まで行きたいんだ。転移陣使える?」


「公国、そりゃあまた遠い所だな、何しに行くんだ、お前は文字が書けないから、こっちが代わりに理由を書いておかなきゃならない」


「書くものがいるの?」


「転移陣は、理由を書いて使用しなきゃならない決まりなんだ。理由と一致しない場合弾かれる。これは世界中のギルド共通だぞ、覚えておけ」


なるほど、犯罪を犯した冒険者が、他の遠い土地に逃亡しないようにってわけか。

納得したから、直ぐに理由を言う事にした。


「お兄さんが、公国に連れていかれたみたいだから」


「……!?」


これは想定外の事だったらしい。マイクおじさんは絶句した後、小さい声で聴いてきた。


「まて? 隠者殿は……死んだんじゃなかったのか」


「お兄さんにくっついてる、“氷界の意志”が命をつないだんだ。でもそのせいでお兄さん、記憶がちゃんと戻ってなかったらしくて、言いくるめられて連れて行かれちゃったみたいで」


おれも小さい声で言う。マイクおじさんは数秒黙った後、呟いた。


「道理でララさんの眼が、寒空の祝福の気配を見出さないわけか。封じている本人が生きていたのだから当たり前だな……よかったと言うべきかなんというべきか」


「おれはお兄さんの所に行きたい、だから公国まで行きたい、マイクおじさん、許可出して」


「おう、分かった。出してやる。お前は今まで、おれに一回も嘘をつかなかったからな。信用してやる。……ところでそこの、おっかない御仁は知り合いなのか?」


「おれのお師匠様。すごく強くてすごくおっかない。で、ちょっと口が悪い」


がつん! とそこで脳天に拳が入る。


「他人に悪評喋るな、変な勘違いを起こされたらどう落とし前つけるんだ、お前」


「……見ての通りのお師匠様です」


これ以上余計な情報を言えば、おれの眼から火花が出ると思い、言えなかった。

マイクおじさんはおれと師匠を交互に見て、聞く。


「転移陣が通すのは二人であっているか?」


「うん。お師匠様もちょっと見に行くっていうから」


「わかった」


マイクおじさんは申請書らしきものをさらさらと書いていき、それを届けに行く。

そして受付に戻ってきて、おれに小さな金属のカードを渡してきた。


「転移陣にこれを差し込めば、行先が公国の首都になる。ここのギルドの公国支部の部屋に到着するからな。変な所じゃないから安心しろ。注意点だが、二人とも同じ陣に入っていてくれよ。転移の部屋はあっちだ」


示されたのは、滅多に開かない、つまり滅多に使われないだろう扉だった。


「じゃあ、今度ここに来る時は、お兄さん一緒だといいよな」


「そうだな、隠者殿の元気な顔が見たいからな」


マイクおじさんの返事を聞いてから、おれはその扉を開けた。

師匠は今度は、頭を下げて入る。

扉の向こうは一面、術式が刻まれていた。

すごく高度なのだろう、と細かさで伝わってくる。

そして、金属のカードを差し込むらしい、穴があった。


「じゃあ、さっそく」


おれはその穴にカードを差し込んで、次の瞬間まばゆいばかりに輝いた陣が、いかにも転移陣と言う感じだから、感心した。

世界が真っ白に染まったと思えば、次に見えてきたのは、入った部屋とはずいぶん趣の違う部屋だった。

がらんがらんと、何処かに下げられていたらしいベルが鳴る。


「アシュレ本部から転移完了しましたー! 扉を開けて、受付に進んでくださいな」


なんだかとてもあっという間に、おれたちは公国に到着してしまった。


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