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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師は、隠者と添い始めるのか
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蘇生=体の隅まで根を張るもの

「……どうして、元の体を保管しなきゃいけないんですか」


おれはディオの見た目の、お兄さんに問いかけた。

おれと二人、先にアシュレまで戻ったお兄さんがこともなげに告げる。


「土に埋められたらこまる」


「なんで」


「すべての大地が凍る。“凍れる生贄”なんぞを生き埋めにしたらな。私が体に戻った時に氷の世界では、さすがに笑えない」


「あの……?」


意味がよく理解できない。

なんかお兄さん、あの状態なのにまだ生きてるようなこといってませんか?

固まるおれに、お兄さんの言葉が続く。


「“氷界の意志”はあの体の隅々まで自分を張り巡らせている。あれは腐った大地も、穢れた水も、清め蘇らせる強力な再生の力をもっているからな、あれくらいは治す。だがここで、埋められて土に還ったらもうどうしようもない」


「は……え!?」


できんの、そんな事。本当にあの状態から復活するのかよ、お兄さん。

でも、普通、


「死者蘇生は出来ないはずだろ……!?」


「そこが違うのだ。死んでないから死者蘇生ではない。“凍れる生贄"は、あれしきでは死ねない。土に埋められたら話は別だが。今も“氷界の意志”はお前の道具袋のなかで、あの体の細胞を増やしてくっつけているだろう」


なんなんだ、そのすごい生命力。

あれ、でも体が直った後、どうすんだろう。


「体が元通りになったら、お兄さんの意識はどうなるのさ?」


「このディオという御仁の体から、強制的に引っこ抜かれるだろうな。“氷界の意志”が己の一部と認識している魂を、取られたままにするわけがない」


「じゃあディオは何で、自分にとりつかせられたの、お兄さんを」


「その方が再生が早いとあれが判断したんだろう。それにしても私も運がいい、自分の体の再生するのを、間近で見られるのだから」


お兄さんちょっと平然としすぎてませんかね。

おれにはとても追いつけない世界ですよ。

頭を抱えて、何とかお兄さんの言葉をかみ砕こうとしていると。

お兄さんがあっけらかんと言った。


「アラズの言葉で言うなら、「ただいまお兄さん再生中、邪魔しないでくれよ」と言う状態だ」


「うわすげえ分かりやすい」


そうだ、過程とか仕組みとか、考えてもおれじゃわからないんだ。お兄さんのなかの寂しんぼうがどれくらいの力なのかも知らないし。

単純に、お兄さんは体を治している最中で、ディオの体を一時的に借りて見聞きしてるって考えていていいんだ。

うん、すっきりした。


「それまでディオ殿の体を借りるのは申し訳ないんだが、本人は気にしないらしい。しかしディオ殿は博識だな。私の知らない“凍れる生贄”の事を色々知っているらしい」


「そんなの分かるの……」


他人の頭の中身がわかるのかよ。全部筒抜けとかディオ、かなり危険な技使ったんだな、だから禁忌とか言ってたのか。


「お互い、魂がつながってるからな。知識は見放題のようだ。ありがたい事に、彼の個人的な思い出は見えないが」


よかった、お兄さんに道徳的な心があって。人の秘密を覗き込む趣味じゃなくて。

でも、続いたのはとんでもない発言だった。


「ディオ殿は私の記憶を面白がっているな、驚いた事に向こうは私の個人的な記憶を、強制で見せられているようだ。彼は相当、心を研ぎ澄ませて修行をしていたらしいな。そうでもなければ発狂しかねないだろうに」


「ディオ……好奇心で死ぬんじゃないのかお前は……」


お前はおれの知る限りでも、興味だけでかなり危ない橋を渡ってたよな、その癖直さないと死ぬぞって前に言っていたような。


「記憶を覗かれるのは、具合が悪いが仕方ない。宿らせてもらっている身の上だ。何よりアラズを不必要に悲しませなくて済んだのだから、記憶だけで済むなら安い」


ディオの顔でも、嬉しそうに笑うんだな。あいつとは、表情一つとっても違うらしい。


「確かに、こうしてお兄さんと会話できなかったら、体直るのも知らないで、壊れるくらい泣いたかもしれませんけどね、お兄さん……」


その平気なのはすごすぎるだろう。

理解の外側の神経だ。


「だがほかの連中は大慌てだろうな。今まで“凍れる生贄”が、こう言う風に"死亡"した事はない。今頃、“寒空の祝福”が解放されたと思っているに違いない。私やアラズに責任をああだこうだという暇な状態ではないぞ」


声は面白がっているのに、言ってることは物騒だ。

お兄さん相当怒っていらっしゃいますね……


「怒るというよりも興味深い。かつてない危機が迫っているかもしれない状況で、アシュレがどう動くのかはな」


「お兄さんわるい人ですね」


「生きた年数が年数だ」


そこまで言ってからお兄さんは、伸びをした。


「風呂を沸かそう、アラズは血まみれ、私は埃まみれだ」



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