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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師は、隠者と添い始めるのか
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同伴(7)=馳せる事に迷いなし

怒鳴った一人は剣士の装備で、そういう物に入った事があるらしい。

そのまま立て続けに指示を出してくれて、さすがの事で動揺している周囲を動かそうとしていた。

おれは懐にまたもぐりこんだ相方に、聞いておく。


「見立てではどうだ、入れそうか」


『吐き出されんな』


呪いの本はすっぱりと言い切る、理由は何だ。

こうしている間にも、生徒たちの命は危なくなっているに違いないだろうに。

こんな事言っているおれは、自分の守る相手は守り切ったから、ちょっと余所事のような気分だ。

いや、他所ごとにしてちゃだめなんだけどな、おれの基準が変なんだろう。

でも、おれからすれば。

守る相手を皆決めていた。誰を守るのかここの冒険者たちは決めていた。

守り切れなかったのはこいつらの不手際、力不足、と言う感覚になってしまうのだ。

だっておれはアメフラシもどきが警告してはっきり、そうだとわかったけれど。もともと変な視線は感じていた。妙だ妙だとは思っていて、山を登っていた。

それでも、命の危機は感じ取れなかったんだが。

目的地がどうなっていたかは見ていないから、知らないけれども、ここに吐き出されてきた奴らは生徒たちの、近くにいたはずだ。

俺の警告と同時に生徒を連れて、一気に山を下りる事は出来たはずだ。

だっておれはあれを叫んだと同時に、山を駆け下りた。それが出来た。

という事はあいつらだって、吐き出されるまでわずかなりとも、時間があったはず。

その時間の間に、生徒を引きずって降りはじめれば。

ここまでうろたえる事にはならない、と思うんだ。

つまり言い方は悪いが、こいつらの甘さが、生徒たちを守り切れなかったというわけだと思う。

若干離れながら、おれはやっと回復し始めたアンジュー達三人に、声をかけた。


「運がよかったな、お前たち」


「運って、課題を達成できないだろう!?」


「いきなり袋に突っ込むのは、蛮行にすぎると思うんだが」


「ま、まだ頭がわんわんする……」


三人はそう言っていたが、周囲の様子を見ておかしい事に、さすがに気付いた。


「ほかの生徒たちはどうしたんだ」


「なんでほかの護衛をしていた冒険者たちが、ここにいるのに生徒はいないんだ?」


「すごく焦ってるし、なんか作戦会議始めてない?」


「おれたちは間に合ったんだ。あの山、噂に名高い“人喰い山”に変質したかもしれないんだ。お前たちを突っ込んで降りられて、本当に運がよかった」


「ひ、人喰い山!?」


おれが心から言った言葉で、三人が絶叫した。声がうまい具合にそろっていた。


「生きて人を帰さないんでしょ」


「最初は普通に見せかけて、逃げ出せない所でぱくっと行くんだろ」


「聞いた話だと魂まで喰われるとか」


三者三様、青ざめた顔は同じだったけど。知っていたのはよかった。おれは逃げた事で文句は言われなさそうだ。


「人喰い山ってなんだかは、さすがに知っててよかった」


そこから説明が必要かと思うと、誰か探さなきゃいけなかったし。

向こうでおれとは違い、生徒を残す事になってしまったやつらが、情報を交換していた。


「変質するとしたら何があげられると思う、結界使い」


「不浄、人喰い、穢れ、瘴気……だめだ、悪い物しか思いつかない」


「どれでも厄介だな、一番まずいのは人喰いだ、喰った数だけ範囲を広げる」


「不浄も危険だ、まず頭がおかしくなる」


「言ったら穢れもまずいじゃないの、触れる相手に軒並み影響を与えるようになるんだし」


「どれでも大変だ、瘴気の病はたちどころに体を侵すんだぞ」


「どうにか入って生徒を保護しないと」


「じゃあ、耐邪装備の奴らいるよな。それで足が速い奴ら。先陣切れるか」


「先陣切って後に続けるか、そこも大事だ。大体山に何チーム入った。数が多かったら途中で妨害されるだろう。一度標的にしたものを、山がそう簡単に逃がすとも考えにくい」


「……」


皆考えるしかないんだ。山と言うのはただのフィールドの一つだけれども、他のフィールドよりも清らかにも邪悪にもなりやすい、傾向がある。

山一つが土地神になる、という場合だってあるそうだから。

おれはそんな事を考えながら、この場合一番助言をくれそうな相手を探して、その人がいない事に引きつった。


「なあ、隠者アイオーニオンを見なかったか」


「隠者アイオーニオン? え、あの人もこのミッションに参加していたのか?」


「していた、校庭でいるのを見かけたし、ほかの生徒に声をかけられているのも見たから。でもここにいない」


血の気が引いてきた。何がまずいっていろいろまずい。


「なあ、あの人どこかで見かけなかったか、色の黒い、髪の毛も黒い背の高い、格好いい男の人で、頭覆いを被っている」


「到着地点で見たぞ、そんな男。あれ、でも何であの男は吐き出されなかったんだ?」


誰かが怪訝そうな顔で言っている。


「とっさに、生徒を守るために何か、使ったとか……?」


「力持つ山の排除に抗うって相当だろ? そんな事が出来るのは、沙漠の隠者位だろ」


「ばかいえ、沙漠の隠者が簡単に表に出てくるわけが「隠者アイオーニオンは沙漠の隠者の二つ名なんだよ!」


周りが絶句し、顔を見合わせ、一層青くなる。


「沙漠の隠者の武器ってあれだろ、殴死運命」


「山で使うには不向きだろ。それもたくさんの生徒守りながら」


「結界を張っている可能性は」


「彼が使う結界が果たして、山で効果を発揮するか……」


「行かないと」


聞いている間に、おれはそんな事を言っていた。でも変質した山だ、吐き出されるかもしれない、どうやって入ればいいんだろう。

そこまで考えておれは、何故吐き出されると思うのだろう、と考えた。

他の冒険者が吐きだされたからか。

そういう物だと思うからか。

なら。

そう思わない前提を、これから作ればいいんだ。


「あんたら、申し訳ないんだけど、おれは先に山に入る」


「一人で無茶だ!」


「お兄さん一人で、生徒を守らせるなんてことをするくらいなら、無茶でも行く!」


お兄さんは強い、一人だって絶対に、生徒を守れる。

でも、それとこれとは心が違うんだ、おれはお兄さんを守ると誓った、一番初めに約束をした、お兄さんを守ると約束した。

だからここではせ参じないのは、おれとお兄さんの約束が破られた事になる。

それは認めない。


「呪い本、アメフラシ、何でもいい、入るための呪いをおれに背負わせろ!」


これを面白がったのか、呪い本がおれの首に巻き付いて哂う。


『じゃあ簡単だ、山の植物で自分に模様を描け。その模様が消えるまでは、中に入れると思っていればいい』


「ありがとうな」


言っておれは、まだ山でも入れる入口の草を引きちぎり、ごしごしと手の甲にこすりつけた。

靴にもこすりつけた。

じゅうう、と手の甲が焼けるような音がして、鈍い痛みが遅れて続く。

見れば両腕に、なんだかわからない模様が入っていた。

他人はわかったらしい、一斉に距離をとったくらいだから。


「そんな自殺行為のまじないを受けてまで入るのか?」


魔法使いが信じられない、と言う顔で聞くけど、馬鹿みたいな質問だ。


「入るさ」


この模様は、他人にはどうだか知らないがおれにとっては、山に入るための手形だ。


「アンジュー達頼むからな!」


おれはそれだけ怒鳴って、山に突っ込んでいった。

山はおれをそのまま、ごくりと飲み込んだらしかった。

吐き出されなかったから。


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