同伴(2)=見た目は頼りないらしい
そして当日が来るわけだ。当日。つまり学園の校庭に集合するのは、腕の立つ単独でミッション達成可能者。おれは、先に来ていた冒険者たちを見て単純に、圧巻だな、と思った。
おお、すごい顔ぶれだ。
顔も知らない奴から、武器の特徴まで噂になるやつから。
昨日の夜中にいきなり、ギルドだか学園だかから呼び出しを受けて、先に出て行ったお兄さんもいる。
「アラズは家のなかを、数日空けておいても問題がないように、整えておいてほしい」
おれも一緒に行くと言った時に、お兄さんが神妙な顔でこうお願いをしてきたから、先にお兄さんだけ向かわせたのだ。
確かに、数日家のなかを空っぽにしておくのは、大事だから納得もしたしな。
話は変わるが、全員、相当な手練れだとわかる。
つまり相当の実力者がそろっていた。一か所にこれだけの数が集まるなんて、そうある事じゃないだろう。
強制ミッションじゃなければ、たぶんこれだけ集める事は出来ないに違いない。
そして東区のこの、お坊ちゃんお嬢ちゃんの学校の生徒たちが、いかに重要なのかもここでわかる事になっている。
これだけ集めようとしたら、その分の依頼の金額は尋常じゃないはずだからだ。
いくらギルドが強制としても、やっぱりお金を出さなければ動かないのが、冒険者と言う物だからだ。
その中におれもいるのがなんだか不思議である。
だがあちら側は不思議でも何でもないらしい。ちょっと軽く挨拶のように、手をあげられたり会釈されたり。
おれもそれに挨拶するわけだが、やっぱりどっかで違和感がある。
場違いな気がするな、と感じるわけだが、それは階級が上だという自覚が出来たのが、割と最近だからだろう。
それまでおれは、役立たずの蛍石と言う認識で過ごしてきていたのだ。
単独では相当上位、なんて思ってもみなかったのだし。
一方の彼等は、結構ちゃくちゃくと階級を上げ続け、人のうわさに出るようになり、今に至るような面々なのだ。
お兄さん風に言うなら、段階が違う、ってやつじゃないかな。
「盾師も受けたのか」
彼等を見渡しながら、盾のベルトを調節していたら、声がかけられる。
見た事のある人だ。名うての剣士。
たしか一人で隊商一つを魔物から守れる、相当な人だったと記憶している。
しかしへりくだる理由もないから、肩をすくめて答える。
「そりゃ、守るのは専門さ」
にやっと笑って、展開前の連結していない盾をかざす。
だろうな、と納得されたりするおれ。
そして大体人数が集まったようだ。ちらほらと生徒らしき人も集まりだしている。
冒険者は時間に敏感で、遅刻とかしない奴が多い。それは時間制限のあるミッションも山のようにあるからだ。
現在の時刻は明け方、生徒たちの集合時間がそろそろらしく、冒険者たちが時計を見始めている。
生徒たちは、護衛が集まってから接触し、自分たちの護衛を決めるらしい。
これも見る目を試すという、学園側の試験の一部だそうだ。
自分たちのチームにちょうどいい相手を選ぶ、そのための会話能力などを試すんだとか、なんとか。
よくわからないんだがな。
生徒もそこそこの格好で、ぞろぞろ集まってきている。おれのよく見える目には、アンジューが友達らしき奴と話しているのも見えた。全員で四人。
そしてアンジューを鋭い目つきで睨む奴も発見する。
殺気に近い物を持っている視線で、アンジューの方を見ている。すごい視線だ。本当に。
あいつが地竜の、我儘な奴なのかな。
ありうるくらいの敵意だ。
そして学園の大きな鐘が鳴り響き、おれたち全員に、集合時間が来た事を知らせてくる。
遅刻したやつはいなさそうだな、なんて思っていれば、校庭の中に声が響き渡る。
確かこれは拡声という、階位=五の簡単な術だったはずだ。
「それでは、39回目校外学習を始めます。生徒は各自、接触を始めてください……」
その声でわっと、生徒が冒険者たちに集まり始める。
おそらく待ち時間で、めぼしい相手を探していたのだろう。
色々な奴が、色々な奴に声をかけて行く。同じ奴を取り合う生徒がいれば、生徒を名指すような冒険者もいる。
色んな風景を見ながら、おれはのんびりしていた。
だって誰も来ないのだもの。
来ないんじゃしょうがない。
……というかおれ、無視されてないか?
さすがに一人もどのチームも、声をかけてこないってなんだ?
おれもそっちのお姉さん魔術師と同じ、鋼玉級なんだが……
まてよ、もしかしておれが彼ら彼女らと、似たような年齢だからか?
慌てて周囲をもう一度見回す。
周囲のほかの冒険者たちは、皆、熟練者の風格を漂わせているし、なにより年齢も彼等より年上に見える奴らばかりだった。
あれ、おれ生徒たちの判断基準から大きく外れているのか。
なんとなく頬をかきつつ、待てばいいかと気楽に考えておく。
だって確かに、頼れるお兄さんやらお姉さんやら、おじさんやらおばさんやらと比べたら、子供みたいな年齢だろうしな。
しょうがない、残ったチームと組むか。
生徒たちの交渉する声や争う声で、騒がしい校庭のなかをじっと見ていたんだが。
やっぱりあちこちで名前が知られている奴らに、生徒は群がるものらしい。
すごい奴だと、五チームから同時に声をかけられており、そこで大騒ぎになっている。
ここで冒険者側に話をさせないで、自分たちだけで取りあうあたりが子供だよな。
相手の話や、相手の特徴、戦闘や得意分野の傾向を聞くのも、目標達成には必要なんじゃなかろうか。
わからん。
ふと姦しい声の方を見ればお兄さんに、きつそうな女子生徒をリーダーにしたチームが話しかけ始めるのが見られた。
お兄さんはどのチームでも守り通すし、あの人なんでもできるからな。
というかお兄さんが、今日は目印であるいつもの頭覆いじゃなくて、違う頭覆いを被っているのが気になった。
隠者の肩書を隠しているのだろうか。あれはなんだろう。
まあ、おれがそこで気にする事じゃない。お兄さんが理由を言いたい時に聞くだけだ。
そして見ているとお兄さんは、そこのチームに加わる事にしたらしい。
さっそく出発し始めた。
おお、どうやら護衛と組んだらその場で、出発可能らしい。
時間制限があるから、そうかもしれない。
護衛を決められないだけ、時間が削られていくという状態なのか。
大変だなー。
おれのところ誰も来ないなー。
そんなにおれは頼りなく見えるのか、と自分の手をうっかり見た時だ。
「ああ、盾師、あんたいたのか! ちょうどいい、俺たちと組んでくれないか!」
背後からアンジューの声がかけられ、振り返ればアンジューとその仲間がいる。
「お前らまだ出発してなかったのかよ」
おれに声をかける前に、護衛決められなかったのか、と思って聞いてみると、アンジューが苦々しい顔になる。
「地竜のが結構な人数の冒険者に、俺たちと組まないように仕組んだらしい。いろんな冒険者に声をかけたんだが、すげなくあしらわれたんだ」
「お前らの話す力が足りないんだろ。ここにいる冒険者のどんだけに、地竜のとやらがわいろ渡してんだよ」
「いうな……。厳しい。だが頼む! あんたの能力が高いのは、その単剣のタブレットが鋼玉と言うだけでわかる。それにここに来たという事は、複数の生徒を確実に守れると判断してだというのもだ。あんたも相手がいないんだろう?」
おれはアンジュー達をじっと見た。翼あるもののチームらしい。
別に誰でもかまいやしないので、おれは頷いた。
「道中できっちり、この校外学習の中身ってやつを説明しろよ、あと目標地点とお前らが計画している経路もだ。護衛としてがっつり聞かせてもらうからな」
「こ、こんな同じ歳くらいなのに、なんだこの頼もしさ……」
アンジューの友達が、驚いた顔で呟いていたから言ってやった。
「おれは盾師さ。それ以上でもそれ以下でもない。お前らを守るってのに全力尽くすぜ。よろしくな」
その友人に手を差し出すと、彼はおれの手を握り、呆気にとられた顔になった。
「僕たちと手のひらの皮が、全然違う……」




