同伴(1)=そういえばそういえば。
そうしてしばらくすると、お兄さんが出て来る。
出てきたお兄さんに異変はなく、そして問題も起きなかった様子だ。
それにほっとしつつ、最後に挨拶をして、家に帰って翌日。
さて今日も何かのミッションを探さなければ、飯のタネを探さねば、とギルドの建物に入った時だった。
なんか受付前の、掲示板に大きく張り出されている紙がある事に気付いたのは。
なんだあれ。
とは思いながらも、字は読めない。ここは誰かに聞くしかない、とさっそく、受付の人を捕まえる。
今日はジャンヌと言う女の人が、偶然手が空いていた。
彼女は美人で、よく男が言い寄っているものの、見事な避け方で称賛されている人だ。
「ジャンヌさん、あれなに」
「え、盾師は知らないの」
「読めないのさ」
「今更でも、学校で教えてもらったらいいんじゃないのかしら。でも今日は読めないのなら仕方がないわね」
と言いいつ、ジャンヌさんが中身を教えてくれる。
「あれは単独でミッションをこなしている、上級冒険者すべてに向かっての強制ミッションよ。何年か前にも同じように、ギルドからの強制ミッションと言う物があったけれども。中身が知りたそうね、あれの中身は、ずばり護衛よ」
「誰の」
「東区の学園の生徒の。今年の校外学習は、フィールド実習だそうで、一人で複数の生徒を守れるだけの実力者は、このミッションを受けなければいけない事になっているわ」
「おれも?」
「あなたは鋼玉級の盾師で、チームだと金剛石級なんだから絶対になるわね、守るのが得意な職業の人は、出ないなんて断る理由を見つけられないわよ」
なんかこんな流れ、昨日アンジューに聞いたぞ。
「それってさ。東区のお坊ちゃんお嬢ちゃんの護衛で、フィールドの折り返し地点で何か持ってきて、アシュレに帰るっていう奴じゃないのか?」
「何で中身を知っているの? 読めないのに」
「昨日知り合いがそんな話をしてたんだよ。偶然ってやつだね。それでこのミッションの中身を簡単に言えば、見守りつつ安全を確保しつつ、お坊ちゃんお嬢ちゃんの力を測るっていうのじゃないのか」
「まさにそうだわ」
ジャンヌさんが頷く。
「生徒たちはチームになって、とある地点で指定されている物をとって来る。そしてアシュレまで戻って来るわ。時間制限もあるのよ。そして同伴する冒険者は基本手を出さないのだけれども、生徒の手に負えない事態になった時に、生徒を守るの」
「守るのは別に構いやしないんだけどさ、生徒ってのとどこで出会うわけ」
「明日学園の校庭に集まって、その場で組むのよ。自分たちと相性のいい相手を見つける目も、生徒たちの成績を左右する基準になっているわ」
「生徒のチームって基本何人」
「三人から五人ね」
「よしそれ位なら楽勝」
「あなたは守るのが仕事だものね、それ位は軽いんでしょうけど。というか受けるつもりでいいのね?」
「強制なんだろ」
「まあね。例えば単独でも、守る事の苦手な職業、例えば盗賊とか攻撃型の魔法使いとか、この依頼を断る理由のある人は、今日ここでそれを申請するのよ」
確かに、盗賊は他人を守る事が得意な職じゃないし、攻撃型の魔法使いも右に同じだ。
実力があっても、生徒を守る、という事ではよろしくないのだろう。
なにせ大怪我とか、最悪死なれた時とか、すごいおおごとになるだろうからな。
そこでおれは、ふと思った事があったから聞いてみた。
「お兄さんに聞いてからにしてもいい?」
「隠者殿に?」
「そう。強制でも、お兄さんとの契約があるし」
おれはお兄さんの番犬でもあるのだ。番犬がほかの仕事で、本来の仕事をおろそかにしてはいけないと思う。
おれとお兄さんは、対等な関係ではないのだ。たとえお兄さんがおれに求愛していようがなんだろうが、そこは覆せない。おれたちはそれを、やめると二人で決めていないのだから。
ここでお兄さんが、番犬と飼い主の関係を止めようと言ってきていれば、話はまた違うのだが。
おれの側では、その関係を止める理由が何もないし、何しろ恩ばかり増えるから、言い出すなんて思いもしない。
そんな事を考えての言葉に、ジャンヌさんはおれの背後を見た。
「今そこで聞いたらどうかしら」
「え、あ、お兄さん掲示板見てる」
振り返れば、掲示板の方にお兄さんが立っていた。じっと文字を読んでいる。
そこでこっちを見て、近付いてきた。
「ああ、アラズ。掲示の中身を聞いていたのか」
「そうですよ、お兄さん、これは強制ミッションだけれども、断る理由があったら断って言いそうです。おれはお兄さんの側を何日も離れるのは、どうかと思うので、お兄さんの意見が聞きたいです」
「確かに、制限日数が三日だから、三日もお前がそばを離れると少し心配だが」
お兄さんが目を細めて、言う。
「この前お前が持ってきた手紙に、色々頼む内容が書かれていてな。私も単独でこのミッションを受けるから、アラズは好きなようにしなさい」
「……お兄さんもこれを受けるの?」
「やれ、ララだジョバンニだドリオンだの、三柱がお前も参加しろ、というかしてくれ、頼むから、と手紙で言われていてな。どうにも単独で同伴者になれる冒険者の数が足りないらしい。ここでやっておくのも損はない。……住居を手配してもらった義理もあるからな」
なるほど。だったらお兄さんにくっついているわけにもいかないし、ミッションを受ける理由もある。
ジャンヌさんに向き直り、おれもこの強制ミッションと言う名前の、子供のおもりをする事を引き受ける事にした。
……というか、番犬の境界線っていま、すごくあやふやなんだよな。
家では、家に来た変な奴を追っ払うのは間違いなく、仕事だけれど。
最近お兄さんもおれも、ばらばらでミッション受けているからな。
まあ、どっちも日帰りのミッションにしているから、毎日顔を合わせているんだけど。
……そう言えば、おれとお兄さんが最初に交わした契約では
“お兄さんの家に来る、面倒な相手を追っ払う”
はあるけれど
“いつでもどこでも、お兄さんを守る”
はないから、これはお兄さんとの契約を破る事にはならないんだよな、お兄さん何も言わないし、うん。




