表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師と隠者は日常をつづっているのか
63/132

任務(6)=盾師の矜持

ストックが切れたので、これからは週一くらいで更新します。


走る、走る、走る。

皆全速力で、おれの羅針盤をつかって出口まで走っていく。

途中何度も魔物に出くわしたんだが、そのたびにお兄さんが、


「凍てろ!」


と一言で氷漬けにしてしまい、今の所進路を邪魔されてはいない。

そして問題の訳の分からない物も、おれにさえ追いついていない。

だからおれは、前の三人にそれを伝える。


「まだ大丈夫だ、おれにすら追いついていない!」


この世界で、そう思ってしまったら術はそんな効果を発揮する。

つまり、前の三人が、絡みつかれて捕まってしまった、と思ってしまったらそのとたんに、扉の向こうからのびてきた何か、はすぐさま三人に絡みつくだろう。

おれは例外だ、おれは絡みつかれるなんて思わない。

それもあって、おれはこの場合しんがりが最も適役というわけだ。

おれに届かないなら、まだ大丈夫と前の人間が思うからである。

グレッグもケルベスも、そろそろ体力が限界だろう。

普通は三日か四日ほどかけて到着する、迷宮中層第五階から、一気に迷宮の出口までは知らなければならないのだから。

あれが、どこまでおれたちを追跡するかわからない以上、迷宮という他の場所と違う理のフィールドから脱出するのが、一番安全なのだ。

術によっては、迷宮を出た途端に霧散するものもあるくらいだし。


「も、もう走れない……」


最初に音を上げたのは、先頭を走っていたグレッグだった。確かにかなりの長距離を全力疾走しているから、そうかもしれない。

どうする、おれが担ぐか!?

この中で一番剛力で、体力があるおれがその選択するべきか。

瞬間的に考えたものの、お兄さんの速度が上がり、グレッグを軽々担ぎ上げるや否や、言った。


「私に羅針盤を! 私が先導する!」


「助かった!」


相棒を担いで逃げる事は、さすがにできなかったらしいケルベスがほっとし声で言う。

そしておれたちはそのまま、迷宮上層第三階まで駆け抜けた。

不思議とほかの迷宮探索者と、遭遇しなかったんだが。

何かの力か、それとも運がよかったのか。

あれがおれたち以外に、目を付けた場合を考えるに、運がよかったのだ。

と思いながら走る。

そんな時だったのだ。


「何だあんたたち、そんなにせき切って!?」


前方からなんと、運の悪い冒険者のパーティが現れたのだ。

お兄さんがらしくない舌打ちをした。


「変な物に目をつけられた! お前たちも急いで戻れ!」


お兄さんがやばいと判断しているものだ、他の面々にとっても危険極まりない物。

冒険者たちは怪訝そうな顔をした後、おれの背後を見てから凍った。


「な、なんだあんなにたくさんの目玉は!」


「口もあるぞ!?」


「真っ黒い影に目玉と口がある! 聞いた事のない魔物だ!」


「言う暇があるなら走れ!」


戦闘態勢に移行し、道をふさぐ結果となった彼等に、お兄さんとケルベスが怒鳴る。グレッグは担がれて揺さぶられて、喋れない状態だが、同じことを思ったらしい。

そしてケルベスが、背後を見てしまったのだ。


「追いつかれた!」


そう、認識してしまったとたん。

俺の背後の物は急速に速度を増し、一気におれたちに群がってきたのだ。

やるしかない。

覚悟を一つ決めて、おれは後ろを向いた。


「おれが食い止める、おれを信じて先に逃げろ、全員だ!」


「子犬、魔王の痕跡に由縁するものだ、さすがに無茶だ!」


「名前も持たない、これの正体も想像がつかないおれが、一番被害を少ない状態で足止めができる! お兄さん、おれを信じて行ってください! それで急いで、迷宮の出入りを停止させてください!」


「……こいぬ」


「おれは盾師だ! 行って、お兄さん!」


おれの言葉に止めようとするお兄さんだが、おれはここの適役が自分だと、一番知っていた。

だから怒鳴り、その大小無数の目玉と口のそれを睨む。

グレッグを担いでいる以上、お兄さんは逃げるしかない。

遭遇したやつらも引き連れて、お兄さんたちが出口まで逃げていく。

それを音で確認して、少しほっとする。


「おれが遊び相手だ! 盾師の本気を見せつけてやる!」


逃げた方がいいんだろう、でもおれは盾師だ。しんがりを務めて、皆を守るのが盾師の誇りだ。

その誇りを無視して、皆を守れずに逃げ出すなど笑止千万!

高らかにそれを相手に語ったおれを、ついにそれは認識した。

のたのた、と黒い闇の塊がおれの前で止まる。

なんだかわからないものだ、わからないから術の効果はない。

ただ声が、いくつか聞えて来るだけだ。


“おそれがない”


“わたしが通用しない”


“この先に行けない”


そんな声を聞きつつ、おれはデュエルシールドを戦闘形態に展開し、一気に躍りかかった。

物理攻撃は効くだろう、と殴り掛かる。

物体に見えている目玉や口は、次々とひしゃげて潰れて、液体をこぼしていくけれども。

それらをまとめている、闇は叩けない。

叩けるはずだ、叩けるはず!

おれはそう信じて、ふるい続ける。

眼玉も口もあらかた潰したあたりで、それの声は呟いた。


“これはすごくつよい”


“じゃあ”


何か来るな、と身構えた時。


“飲み込んでしまえばいい!”


それが頭にそういう意識を流し込み、回避する余裕もない速度で、おれを飲み込んだ。

世界が光を何も認識しない、そんな暗闇になったから、飲み込まれたとわかるだけだった。

こいつ人喰いか?

にしては人の血の匂いや、人喰い特有の気配がない。

なんだ。暗闇で、自分さえ認識できないから、おれは自分の体に意識を集中させる。

そして、狂気に浸らないようにする。

何度も中でデュエルシールドをふるっている物の、効果はいま一つの様で、そして中にいるからか相手の声もわからない。

らちが明かない、と舌打ちした時だった。


『おいおいおいおい! 面白い事になってんじゃねえのかぁ!』


おれの尻ポケットに入る大きさになっていたらしい、あの呪いの本がそこから飛び出した。

この前封印を千切った後、再封印していなかった事も、ここで思い出した。

呪いの本はおれの視界に映る。

そしてばらばらと己の体をめくって、高らかな声で笑いだす。


『笑止千万、傑作だ! たかだか一つ分の呪いが、おいらたち集合体を飲み込もう何ざな! どっちが食らわれる側か、理解するといい!』


え、お前魔王の痕跡に付随する術を、食らえるの。

流石に突っ込みそうになったが、そして始まった光景に絶句するしかなかった。

本の真っ白なページが出たと思えば、そこにどんどん闇が吸引され始めたのだ。

それも、つぎつぎと文字らしき形に分解されて、引っ張り込まれていく。

この事実は、おれと本を飲み込むやつにとって、想定外すぎたらしい。

ぐわんぐわんと闇が揺れて、べちゃっと、おれと呪いの本は吐き出されたのだ。

それでも接続を切らなかったのか、呪いの本は吸い続けたんだが。

ばつっ、とあれは自分の体を断ち切ったらしい。

その事で強制的に、呪い本とのつながりを切って、どんどん奥へ逃げ出していった。


「……たすかった」


『あんなちゃちな子供だまし、おれさまからすりゃ赤子の手をひねるようなもんだったんだがな。自分の尻尾を切るとは、なかなかかもしれない』


呪い本がいい、お、と呟く。


『おでれぇた! 中途半端に飲み込んじまったから、形態が変わっちまうぜ!』


「は」


不意に呪い本が明滅したと思えば。

形が変わってそして。


「星図のある黒い蛞蝓……?」


としか言いようのない物が、呪い本のあった所でぬめぬめしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ