表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師と隠者は日常をつづっているのか
61/132

任務(4)=いざ迷宮入り、そしてずるする方法


「子犬、顔色が悪いが」


「ははっ、そりゃそうだ、あいつが寄ると聞いて弟子が、蒼褪めないわけがない」


じいちゃん笑い事じゃねえからな!


「何故だ、そこまで厳しいのだろうか」


お兄さんはよくわからないらしい。だがおれは真面目に頷いた。


「命の危機を感じるくらいにすごい師匠です」


「命の危機……師匠だろう?」


「あの方弟子だろうが何だろうが、鍛え直すと言いながら半殺しにしましからね」


大きく身震いをしながらも、干し肉を買い求める。

それから豆だの乾燥野菜だの、迷宮入りするから必要な食材、などを買い求めていく。

元々寝具とかはそんないらないし、迷宮だろうが何だろうが、生えている草とかを有効活用すればいい。


「子犬、買い物が少ないようだが」


「迷宮入りっていったって、中で使える草はじゃんじゃん使いますし、千切りますし。迷宮だって結構ほかのフィールドと変わらない部分がありますからね」


ただ光が差さないから、灯りの燃料だけはしっかり買わなければならない。

魔術師の光明、通称ランプの術は、魔術師がスタミナ切れたら使えなくなるしな。

そして今回の面々は、ランプを使えるかわからない人選だ。

お兄さんは使えるんだろうが……以前迷宮入りした時は、普通にカンテラ片手に歩いていたし。


「はい、このあたりで買い物終わりです」


「何日迷宮に入ると思っている?」


「宵闇蛍草が見つかるまで、まあ大体三日か四日前後ですね」


「子犬は中層第八階まで、四日で到着するのか?」


お兄さんが不思議だという顔をするが、そうさ。

おれだけなら、四日で中層までいける。

それにいくつか、おれもずるする方法を知っているんだ。

あいつらとチーム組んでた時に見つけたもので、へえ、こんなのでずるができるのかと感心したものでもある。


「滅多に人に教えないずるがあるんですよ」


にやっと笑ったんだが、お兄さんは頷く。


「ずる、大いに結構だな。それで宵闇蛍草を見つけやすくなるなら」


その後の市場巡りは、大したものじゃない。

ただお兄さんが、古書の場所で動かないから、おれとしてはこれ以上本を抱えてどうするんだ、と聞きたくなった。

そして聞いてみた。


「これ以上道具袋に蔵書増やしてどうするんです」


「いかんせんこう言う物に目がないんだ」


でしょうね。暇さえあれば本を読んだり解読したり、っていうのがこれまでの日常でしたもの。


「隠者殿は見る目がありすぎて怖い怖い」


商人が身を震わせる。お兄さんはゆるりと笑って答える。


「なに、古いものの目利きができるだけさ。新しい物はどれが面白いものか見当が、つかない」


「おっと、最新の本には詳しくないか。じゃあこれとこれとそれなんて。結構面白いという事になっているし、実践的な事も書かれているんだが」


お兄さんがそれを聞いて、おすすめの本をいくつか開いていく。

いつ見ても虫がのたくったような形だな、文字ってやつは。

ぱらぱらといくつかを開いて眺めて、お兄さんは嬉しそうに頷いた。


「これはなかなか面白そうだ、暇な夜長に読むにちょうどいい」


お兄さんはあっさりと購入を決めて、早々に買い求めてしまった。

値引きの隙なんてどこにもなかったんだけれど。


「値引きしなくてよかったんですか」


「この金はあの商人が新しい本を仕入れる際に使われる。支払っておけば何かまた、面白いものを仕入れてくるだろう。つまり自分の楽しみのための前払いだ」


へえ。よくわからないけれど、そういう物なのか。

何て言いながら、待ち合わせ時刻になって、おれたちは北区のはずれにある、幾重もの柵に覆われた扉の前に到着した。

そこではすでにグレッグたちが立っていた。

何か調整しているらしい。顔を突き合わせてああだこうだと言っている。


「二人とも、待たせたな」


「ああ、札なし。そんなに待っていないから安心しろ」


「いよいよだな」


やる気十分な彼等に、おれは言う。


「道はおれが知っているから、おれが先導する。それ以外の戦闘展開はその場その場に合わせようぜ」


「承知」


それが一番効率がいいと、二人も頷き、迷宮から戻ってきた冒険者たちとすれ違いながら、扉を開けて中に入った。


ばちんと暗闇、しかしカンテラで周囲は何となく見えている。

迷宮上層部は、光源が本当にない洞窟の見た目だ。

そして魔物が周囲で息をひそめている。

おれは道案内だし、道もちゃんと覚えているから、どんどん進んでいく。


「おい札なし、こっちの道でいいのか? 普通は左側の道で降りていくだろう」


「だからずるがあるんだよ」


「ずる」


「そうそう。すごく簡単に中層まで下りられちゃう。これ知ってるのはかなり迷宮に潜っている奴らじゃないかな」


「俺たちも結構潜ってるんだが」


「おれは上層部全域を歩き回ったぜ、あんたらは」


「……」


上層部全域を歩き回ったと聞いて、他の皆黙った。

やっぱり皆、寄り道しないで下に潜るのだろう。

おれはしばらく歩きそして、一つの青紫の光で覆われた穴を示した。

ここまでの間に、何回か魔物に遭遇したものの、おれの先手必勝で終わってしまって、後ろの誰も戦っていない。

おれ盾師なんだけど、まあ一番前歩いているから、戦闘に移行するのが早いんだ。しょうがない結果だ。


「俺なんで札なしがこんなに強いのに、あいつらに使いつぶされかけてたのかわからん」


「あれだろあれ、初心者をいいように丸め込んだんだろ」


「子犬もそう言う事を前に言っていたしな」


背後の声がそんな事を言いあっている。おれは盾を壁にぶつけ、三人を注目させた。


「はい、これがずるの中身」


「これって条件を満たさないと入れない結界だろう」


「無名は条件を知っているのか?」


「……というか、おれそんなのなしに入れるぜ」


「子犬、自分の無知の防御を当たり前にするな」


お兄さんの突っ込みに、おれはぐっと手を握った。


「大丈夫っすよお兄さん。これは実は」


俺は軽いステップを踏み、調子を整える。


「ここは何故か、“息を止めて十秒そこに立ち続けていれば一時的に無効化される”という条件の結界なんです」


「なるほど、普通は急いで通りたがるものゆえの、逆説の結界か」


「……お前本当だろうな」


「本当だぜ」


「では私が試してみよう」


お兄さんが疑わし気な二人を押しのけて前に出る。


「子犬が嘘を言った事は今まで知らないからな」


「隠者殿の絶対の信頼が痛い」


「札なしと隠者殿の絆が眩しい」


二人が色々言いだすものの、お兄さんは息を止めて結界の壁に立つ。

十秒が経過すると、はらりと結界は消えた。

お兄さんが先に進むと、結界はまた発動してしまった。

それをみて二人も、進むことを決めたらしい。


「俺たちも行くぞ」


グレッグがいい、ケルベスも頷いて、お兄さんの後を追った。

おれも無論行くに決まってるだろう。

結界の先には、淡く輝く宝玉が置かれていた。

本物の完璧な球体という物だ。その中で粉雪のような光が舞っている。

それを取り囲む壁には、物々しい立像が置かれている。武器まで迫力満点だ。


「なんだあれ」


「儲かりそうな見た目だな、なんの魔道具だ?」


盗賊という名前だから、きらきらしたものに弱い二人が目を輝かせた。

でもおれは首をふる。


「あそこから外そうとすると、一気にそこら辺の立像が襲い掛かってきて、死にかけるからおすすめしない」


「したのかよ」


「すぐに戻したから生きてんだよ」


おれはいい、これを示して言った。


「これ、中層第五階に飛ぶ魔道具なんだ」


見つけた時にはすごい便利だから、踊って喜んだっけな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ