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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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掃除=道具袋は整理しましょう


転移、そして意識はすぐに周囲に慣れていく。おれは回りを見回した。

この前解凍されて、やっと人が暮らせるところまで回復した、我が家だ。

しかし少しの留守でも、砂ぼこりが散らばっている。

だからこの家では、箒が常に活用されているわけだが。


「さて、私は家の掃除をしよう、子犬は外の草むしりをしておいて、それから白線を引き直しておくれ」


おれを抱え込んでいた事なんて、なかったみたいにお兄さんが離れていく。

その温度がちょっと名残惜しいとか、色々聞きたい事があるとか、取りあえず脇に置く事にした。

きっとお兄さんは、抱っこしてと言ったら抱っこしてくれる人だし。

あの時聞いちゃいけないな、と思った事は、聞かないでいた方がどっちも幸せだ。

知らない方が幸せな事もいっぱいあるのが、この世界なのだから。

知っておかなくちゃいけない事も、たくさんある世界だけれども。


「白線はどうやって書けばいいんです、お兄さん」


「そこに白線を引く奴があるだろう、それで残っている白線をなぞればいいだけだ」


簡単そうだ。

でも。


「お兄さんの術の上書きをするの、おれじゃあ役に立たないんじゃないですか」


「そうでもない」


お兄さんは、おれの解体した玩具をとる。

箱に詰められている玩具たちは、うっかり触ると遊びたくなるから我慢だ。


「子犬の力は、私の上書きをしても問題ない位まであがっているからな」


「なんでそんな事言えるんですか」


「これがただの玩具だと思って遊んでいたのか、子犬」


「ただの知恵の輪ですよね?」


「これらは精霊術の訓練に使われるものだ。一つ外すごとに、精霊との交信ができるようになる。私も昔これにかなり、お世話になった。おかげで住居を氷漬けにする事もなくなったわけだが」


氷漬けって考えたくないな、でもお兄さんが背負ったものってなんか上限が見えないんだよな。

氷漬けくらいはあり得そうだ、何しろ

寒空の祝福を体に持っているみたいなんだもの。

しかし……


「おれは何とも交信してませんよ」


おれは精霊とかとの声が聞こえていない。何とも交信していないのだ。

精霊術ができるようになって、精霊と意思疎通ができるようになるのだとしても、おれはそれに当てはまっていないと思う。


「大丈夫だ、白線をなぞれば勝手に、精霊たちが境界線として理解してくれるだけだからな」


お兄さんは簡単な事のように続ける。

でも、ニンゲンの言語と違う物で意思疎通をする精霊が、人間側のやった事を境界線だって分かってくれるものなのだろうか。

微妙な気がするんだが。本当に精霊が、分かってくれんの、お兄さん。


「この線の中は自分の家、と思って白線を引けばいい、簡単だろう、子犬」


続いたそれを聞いて、やっぱりここは俺の家でいいんだと思うと、なんだかうれしかった。


「えへへ」


「早くしないと、精霊たちが境界線の中に入ってきてしまうから、急いでおくれ」


「はあい」


精霊が中に入ったらどうなるの、という質問は後でしよう、取りあえず、急いでおくれと言われたら急ぎの用事なのだから。

おれはその白線を引く道具を玄関からとって、がらがらとお兄さんが引いた白線の上からなぞっていく。

この中は俺の家、と繰り返し念じながら。

白線引きが終わると、お兄さんも砂ぼこりを外に払い落としたところだった。

お腹が空いたな、何かあるかな。

この前の氷漬け事件で、鶏は全部逃げ出してしまったから、新鮮な卵は望めない。

何か保存食はあったかな、とおれは食料棚を開けようと決めた。

何か狩ってこようと。オアシスだから、何かしらの食べられるものはうろうろしているはずだ。

そして食べられる木の葉っぱとかもそこそこ生えているに違いないのだ。


「お兄さん、お留守番しててください、ちょっと食べられる物を調達してきます」


「子犬は一度、道具袋の中を整理したらどうだ、きっと食べられなくなりそうな保存食が溜まっているぞ」


言われてはっとした。確かに。

いろいろ広げてもいいように、地面に道具袋から出した大きな帆布を広げて、さっそく食べられる物を道具袋の中から取り出す事にした。

お兄さんも自分の中身を整理するらしい。

隣で同じように、広げ始めたのだから。

そうして、意外と量があった乾パンの袋とか、ニンニクとか保存性の高い根菜とか、干し肉とか塩でカチカチになった肉とか干した葉野菜とかが思った以上に、出てきた。

食べた方がいいだろ、と思う位、いつ入手したのか思い出せない物も多かった。


「何日かは、保存食を何かにしますね。保存したものが食べられないなんてやです」


「子犬の中身以上に、私は自分の袋の中身に物を申したい」


お兄さんも頬杖をつきながら呟いた。

だってお兄さんの袋の中に入っていた、干し野菜とか葉物とか、おれ以上だったんだもの。

でもすぐに食べられる物があってよかった、これをツボで煮てシチューにしよう。


「さっそく作り始めますね! 今日はシチューです」


「子犬のシチューは初めてだったな」


「腕によりをかけますね!」


お兄さんに喜んでもらいたいから、使う物以外を袋に入れ直し、家の中でさっそく……と言いたいが。


「お兄さん、今日は外で料理しましょうよ」


「なぜだ」


「たまには星を見ながらご飯を食べましょうよ、お兄さん。宿に泊まってばかりで野宿もしませんでしたし」


「子犬はそういうところが冒険者だな。外の方が落ち着くのか」


「煙の行く先を心配しなくっていいですしね」


「結局そこではないのか?」


家の脇に置いている薪を、使って外の四阿の前で火を熾す。ツボに水と根菜と肉、を入れて蓋をしてとろとろ煮込む。

冒険者してたころの得意料理だ。火の番をしながら、武器の手入れをして星を眺めて明日の天気を予測した。

一瞬胸が痛んだけれど、もうあいつらとかかわらない事にしたんだから、いいのだ。

シンプルな塩漬け肉のシチューは、肉の塩気で十分満足できる。乾燥ハーブで風味もよくしたから、今日もいい出来だった。

お兄さんは火の側で本を読んでいる。その顔がすごく安らかだから、なんかおれの方もほどけてくるものがある。

シチューを皿に入れた時だ。


「ここは沙漠の隠者の領域か!?」


急場を知らせるような悲鳴が近付いてきて、おれはシチューが冷める未来を知った。

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