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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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他方=幼い魔法使いの後悔


だってとシャリアは言い訳をしようとする。

そんな物ここでは意味をなさないというのに。

だって気付かなかったのだもの。

埃まみれの家でせき込み、ぜんそくのような状態を続けるシャリアは、それでも仲間たちとともにフィールドを進んでいく。

知らなかったんだもの。

家はきれいなのが当たり前で、毎日おいしいご飯が出て来るのが当たり前で、苛立ったらそのいら立ちをぶつける相手がいるのが、当たり前だったのだもの。

シャリアは術を展開しようとする。

だが弱った体は術の負荷に耐え切れなくなり、術はがたがたと輪郭線をぼかす。

魔物たちはひしめき、苛立った声を隠しもしなくなったアリーズが言う。


「シャリア、たかだか火球の術程度で何をそんなに遅くしているんだ!」


「シャリア、この沙漠で火球の術よりも氷弾の術の方が効果があるでしょう? 何を間違えているの!」


「能無し!」


アリーズに続き術の形式を見たマーサがこれまた、苛立った声で言う。

今まで盾師に向けられてきていた、能無しという言葉を投げつけてきたのは、魔物を蹴り飛ばしているミシェルだった。

だがシャリアにだって言い分があるのだ。

自分には今、氷弾の術を使うだけの体力が残されていないのだ。

頭はふらふら、水を求めて思考はおぼつかなくなり、なんだか手足も冷えて来ているのだ。

これが危ないのだとどこかでわかっていたのだが、シャリアは皆の補助になるために自分の体調不良を押し隠す。

元々ここしばらく、せき込んで息が苦しくて、眠れていないのだ。

そのため、周辺の気候に合わない術を展開するのが、恐ろしく難しかった。

だがシャリアはそれを言わない。

火球の術を何とか完成させて、今回の魔物の、首魁級の奴に叩き込む。

元々シャリアは術の威力が尋常ではないために、このチームに加入した魔法使いだった。

首魁級の奴はいきなりの高温に、肩を焼け焦がす。

しかし致命傷には至らず、相手も相手、部下級に回復術を使わせて、焦げた体を再生してしまう。

守ってくれる相手のいない状態で、長い呪文を唱えるのはあまりにも無防備だった。

シャリアは引きつりながら、苦しみながら、もう一度、と火球の術を行おうとする。

だが。

一気に迫ってきた魔物の一匹が、彼女に狙いを定めた。


「あ……」


全ての事がとても遅く感じられた。迫って来る魔物の武器、逃げられない自分の体、せりあがってくる死の恐怖。

何もかもが遅くなる中、シャリアはこういう時にいつも間に入っていた盾師を思った。

こういう時。

不敵に笑って、間に入って、相手をその重たいデュエルシールドで薙ぎ払い、彼女を振り返る人がいた。


『大丈夫か、術を完成させる事に集中しろよ? シャリアの前に来るのは全部、おれが何とかしてやるから!』


どんな戦況でも不敵に笑う人だった。

その笑顔に安心した、その強さに安堵した。それに甘えて、それを頼りにし、長い呪文を唱えたのだ。

だがその盾師はどこにもいない。

シャリアが追い出したのだから。

いいや、皆で追い出したのだ。捨てたのだ。

いらない物だと、役立たずだと。

それどころか、自分たちの足を引っ張る出来損ないだと、粗大ごみ置き場に捨てたのだ。

あの笑顔を裏切った。

シャリアは迫って来る爪を見ながら、何度目になるかわからない後悔をした。

だってシャリアは、本当は。

あの笑顔が好きだった。

だからアリーズが、あの笑顔の持ち主をオーガとの混血だと聞きだした時に、裏切られたと感じて、衝撃を受けて、好きだった裏返しのように憎んだのだ。

憎んで、ほかの皆が彼女を痛めつけるのを見ていた。止めようともしなかった。

ひどい言葉を投げつけた。

でも。

彼女はいつも笑っていて、しょうがないなと笑っていて。

だから一層言葉がひどくなったのだ。余計に腹立たしくて、自分の言葉が意味をなさないのがむしゃくしゃした。

本当は。

隠さないでいてほしかった。自分にだけは内緒にしてほしくなかったのだ。

爪が少女の体を無残に切り裂く、ほかの仲間は手一杯でシャリアを助けに入れない。

命は流れて砂の中に吸い込まれていく。


「おねえちゃん」


シャリアは、盾師がオーガとの混血だと知る前まで呼んでいた名称を、血を吐きながら呟いた。


「ごめんね……」


遥かに年下のシャリアに、すごいと純粋に賞賛を向け、打算なしに仲間になる事を喜んでくれた人は、もうどこにもいない。

ミッションを受けない日に、洗濯の傍ら焼き菓子を焼いてくれた人も、家じゅうをピカピカにしてくれていた人も、怖い夢を見た時に、面白し話をして慰めてくれた人も、もう、いないのだ。

自分がばかだったから。

遠のく意識の中、シャリアは最後になんとかして、おねえちゃんの笑顔を思い浮かべようとした。

口元を思い出すのがやっとで、意識が無くなった。

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