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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師と隠者は、己の真理を貫くか
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発見=それがはじまるとき

ちょっと訂正入ってます。

殴られた後、何とか立ちあがると、目の前ではルヴィーが師匠に抱きついて、二度と離さないと言わんばかりに見つめている。

師匠はいつも通りの表情だ。面白がっているような、悪い鬼のようないかつい顔。

その顔をこれでもかと見つめて、ルヴィーが口を開く。

そこは兵士たちが、近寄れない空気が醸し出されている。おれは間に入るつもりがないから、声をかけたりしない。


「あなたはどんな方法を使っても、どこにも現れなくて」


「現れるような罠くらい、避けられて当たり前だろうが」


「どんな噂の中にも、あなたの事は聞こえなくて」


「あんまり、人が立ち入らない場所ばっかりねぐらにしてたからなあ」


「し、心配していたのですよ! あの時の帝国の突入で死んでしまっていたら、と思うと!」


綺麗な赤い目から、限界と言うようにはらはらと涙がこぼれ落ちている。ルヴィーは泣き顔も綺麗だった。

美少女ってそう言う顔も綺麗なんだな、と改めて感心する。

それから思うのは、ミーシャやマーサはそこまで美人じゃなかったんだなって事だ。

あの二人は醜い感情の時、十分ひどい顔になっていたんだから。

でもあいつらだって、美女ってちやほやされてたよな……

ルヴィーは格が違うってやつなんだろう。たぶん。


「ああ、あなたが無事で本当に良かった、あなたはどうやって逃げ出したのですか、あそこから」


そのまま勢いのまま、一層師匠に縋りつくルヴィー、誰かが冷やかしの声をあげたんだが、兵士たちは動けない。動けないって言うか……衝撃を受けて膝をついている奴らが多数なんだけど。

お前ら何してんの。仕事しろよ。


「逃げ出すも何も、あの突入の時、しんがり勤めて、逃げたい奴を皆逃がしてから、さっさと堀に落ちたんだよ。堀に落ちりゃ、探し物がよっぽどうまくない限り、見つけ出せねえからな」


師匠らしいおこないだと思ったおれだが、ルヴィーは怒った顔になった。


「無茶をしていたのではないですか!」


「無茶じゃねえよ、俺が出来るって言った事が、出来なかった事ってのは一辺でもあったかい」


衝撃の光景である、そしてやり取りである。

まともに会話が成立しているだと、師匠、あなた殴らなくても、ちゃんと他人と意思疎通ができるんですね!

そんな思いをうっかり口に出せば、まだびりびりする脳天を叩かれるに違いない。それ位は察せるから黙っていたんだが、なんか雲行きが怪しい。

ルヴィーの細い指ががっちりと師匠の毛皮の外套を掴んでいるし。見つめあっちゃってるし。

なんかこう、甘い? っていうのか? なんだかわからない空気が漂う二人だ。

師匠まじでロリコンだったのか……? いや、師匠くらい歳いってると、誰しもみんな子供と同じ年齢だよな、ロリコンっていう基準が違うのかもしれない。

師匠の年齢五百歳こえ……


「な、ないだろ?」


可愛い年下の恋人に言い聞かせてるって感じで、師匠が膝をついたまま彼女の顔を見上げている。

お姫様はそんなオーガに真面目に顔を赤らめて、それから言う。


「ないわ……」


「だったらいいじゃねえか、で、屑な婚約者からは無事に逃げられたんだろう? よかったじゃねえか、これでもっといい男と添い遂げられるな」


「っ!」


ばちん、とおれとしては世界の終みたいな光景が目の前で起きた。

今起きた信じられない出来事を説明するぜ……

ルヴィーが師匠に平手打ちをしたのだ。

大事な事だから二度言う。最高峰の盾師である師匠に、可憐なお姫様が平手打ちをしたのだ!

普通だったら絶対に避けられただろうそれを、おれのお師匠様が甘んじて受けたのだ!

これは確定だ、師匠はルヴィーを愛しているに違いない……でなかったら避けられるし殴られるはずだからだ。師匠は暴力を軽くはねのけられる。お姫様の速度なら余裕で避けられるはずなのだ。

もう言葉が出てこない。恐ろしすぎる光景に寒気すら感じそうだ。口を開けて呆気に取られていると、ルヴィーが何やら顔を真っ赤にして怒り出した。


「あなたはどうして、避けられるのに私の平手打ちをちゃんと受け止めるの!」


「何か知らねえが、打たれた方がいいんじゃねえかって思ったからだ」


「私の気持ちなんてこれっぽっちもわかってくれないんでしょう!」


「俺の言った事が癇に障ったのだけはわかるぜ。でもなあ、可愛い紅玉、紅水晶。おれを見て見ろ、こんな鬼を。俺はお前とちゃんと添い遂げるには、ちいっと歳が行き過ぎてんだよ。可愛い嫁さんに先立たれるのはあんまりうれしかねえんだよ、それなら他所の誰かと幸せにくっついて、はにかみながら笑ってんのを見る方が、ずうっと俺は気持ちがいいんだ」


し、師匠がまともな事を言っているだと……面白い事ばっかり好きなあの師匠がだと……これは天変地異が起きる前触れか!? さっきは世界の終だと思ったけれども!!

いくらなんでも想定外過ぎる言葉が、次々と師匠の口から飛び出してくるから、おれはめまいを感じそうになった。

そこでふらついたおれを、誰かが支える。


「あ、だれだか……ってディオ、追いついたんだ」


「ここで面白いものが起きている、三女の君とオーガが愁嘆場をやっていると言ったやつがいてな、絶対にナナシの師匠だと思ったんだが……お前の師匠は一体何をして、三女の君の意中の男になってしまったんだ?」


ディオの言葉はもっともだ。出会いからして予想がつかないはずだ。

お姫様の近辺に、あんないかついオーガがいることはまずない。護衛でも。

でも説明は簡単だ。ディオも三女の君奪還作戦に加わってたんだから。


「あれだあれ……闇の教団のノイってやつ覚えてるか」


「ああ、三女の君と思いあい、結婚しようとしていたというあの」


「あれの正体が、師匠だったらしくて……」


だが色々考えて、師匠ならば納得がいくものがいくつもある。

崖から飛び降りたルヴィーを受け止めて無傷。

事情を聞いて、自分と結婚すれば逃げられるとか、身分なんて無視した事を言っちゃう神経。

そこからきっといたであろう、数多の帝国の人間の包囲網をかいくぐり、闇の教団の本拠地までルヴィーに傷一つなくさらってしまう行動力。

うん……師匠ならやれる。確実にできる。

ディオはしばし二人を見た後、こう告げた。


「俺たちはそれ以上の問題で、アリーズを探すべきじゃないか」


言われてはっとした。目の前の光景が衝撃的すぎて、いろんなものが吹っ飛んでしまっていた!

そうだ、今一番重要な物は、アリーズを探し出す事だった!


「そうだディオ、そっちが優先だった! 師匠、おれらアリーズ探してきます、師匠はゆっくりルヴィーと語っていてください!」


おれはとりあえず声をかけ、近くにいた兵士に問いかけた。

屋根の上ではよく見えた光の筋だが、いまは人が多すぎてうまく見えないのだ。

筋は人を縫うように伸びている。

ここは人に聞く方が早いかもしれないと思ったんだ。


「砂の神殿の人が、金髪の男を連れてきませんでしたか? 片腕がない男です」


「ひめさまのすきなひとが、あんないかつい……」


「話を聞け!」


だが、兵士は膝をついてぶつぶつ言っている。

兵士はどうやら、ルヴィーが師匠しか見えていないので落ち込んでいるらしい。

しょうがないから胸倉掴んで、怒鳴っておく。


「砂の神殿の奴が、金髪碧眼の片腕のない男を引っ張って行かなかったか!」


「あ、ああ、先ほど砂の神殿の大神官殿が、そんな感じの青年を連れて来ていたようだったが」


はっと我に返った兵士が答える。


「どこ行った!」


「祭りの祭壇の方に行っていた」


やっぱりアリーズを儀式に参加させて、寿ぎとやらをもらうのだろうか。

祭壇の方と言われると、そんな可能性が高そうな気がしてくる。


「ありがとな、ディオ、祭壇どっちだ!」


「こっちだ!」


おれが兵士から手を離すと同時に、ディオがおれの手を掴み引っ張っていく。人込みの中進むには、聖騎士の大きな姿は便利だった。目立つ鎧の聖騎士ってだけで人々が道を開けてくれるのだ。

そのまま城の案内経路のままに走っていくと、祭壇っぽい所で、数人神官がもめているのが見えた。

その近くで、アリーズが周りを見回してぼんやり立っている。


「アリーズ!」


おれの怒鳴り声が十分、あいつに届いたんだろう。あいつがこっちを見て、顔を明るくして手を振った。

その間に祭壇の足元まで近付けたから、強引によじ登っていくと、アリーズが片手を貸してくれた。


「やっと来た。待ちくたびれたけど、皆が来るって教えてくれたから、動かない方がいいかなって思ったんだ」


「友達の助言に感謝するぜ。……で、お前さっきから何見回してんだ?」


「んー」


周囲を見回すありーずが、ちょっと困った顔になった。


「まずい事になっちゃったなーと」


「は?」


「春の祭りの、一番お日様があったかい時間に」


アリーズはいつもと変わらない声で、こう告げた。


「浄化の凍て人が九つの枷を外してしまった」



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