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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師と隠者は、己の真理を貫くか
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追跡=考えたくない色々

ちょっと訂正入ってます。

で、どうするよ、とおれはディオに目をやった。


「……あいつ手近にいたアリーズ連れていっちまったぜ」


「周りを何も見ていなかったらしいな、どうやら。どうするもこうするも、ないだろう」


何という事か、と言いたくなる事だ。ジョディの奴は自分の左側にいたおれではなく、とっさに右側にいたアリーズの手を掴んで、転移してしまったのだ。

うっかりにもほどがある。

普通右か左かくらいは、確認してから道具使わないか?


「よっぽど慌ててたんだろうな」


ディオが思わず、と言った調子で返す。それよりも、受付の机をばしんと叩いた人がいた。


「お前ら何とぼけてんだ!」


マイクおじさんだった。彼は手元の資料を乱雑にどけて、大きな道具を引っ張り上げた。

足元にそんな道具があったなんて驚きだ。

それを手際よくそう差し出す彼が、そこに浮かんできたんだろう情報を見て言う。


「アリーズは現在、監視付きでなければあちこちの移動ができない、という事になっているだろう」


事の成り行きを見守っていたマイクおじさんが、難しい顔で言う。


「無理やり連れていかれたわけだが、事実として許可なく出て行った事になる。これは結構咎められる行為だ。それに二人にも罰則が加わるぞ、勝手に連れていかれて。連帯責任だ」


どうやら行先は帝都の様だ、と何かの魔道具を確認して、マイクおじさんが呟く。

アリーズは監視のために、居場所が分かる魔道具を身に着けているのだ。それの反応が、帝都に現れたらしい。

すごく問題だ。というか厄介と言うか恐ろしい。

アリーズが。あの状態のアリーズが帝都に放り出された。

この事実を実感しておれは、徐徐に自分から血の気が引いていくのを、感じた。


「マイクおじさん、もっと大事な事見落としてないか」


「は?」


「あのアリーズが、帝都に、何の通訳もツッコミもなしに連れていかれたっていう事実だ! あいつがどんな事をするか考えたくないし、第一あんな危ない友達多数いる奴、一人でおっぱなす危険性、マイクおじさんだってわかってるでしょう!」


アリーズのために理だって捻じ曲げかねない存在が、それも多数複数側にいる状態だ。

あいつにもしもの事があったら、帝都一つまるまる消し飛びかねない。

さらに言えば、危害を加えるような連中の末路なんてもう、決まり切ってしまったと言ってもいいだろう。

気絶したら最悪だ。まず制御する意思がない。

意識を失った状態のアリーズは、神が降ろされた状態であり、一種のトランス状態だ。

その状態のあいつは、ひどく無慈悲なことを、柔らかい笑顔で行う。

わかっていたらしい。マイクおじさんが深々と溜息を吐き、言う。


「皆まで言うな……俺も考えるのを放棄したい」


「絶対大きな問題起こすって。……っていうか、あいつを何の補助もなしに帝都に行かせるってすごいまずいだろ!」


そうだ、おれは思い出した。アリーズは帝都の神殿で、ここアシュレに行くように告げられたのだ。それも何の装備もなしに、手を貸してくれる人もなく。一人で行けと言われたのだ。

そしてあいつは、近くの森の中で山賊に襲われて、おれと出会った。

さらにもっと突っ込んでいけば、帝都の神殿が、あいつに聖剣なんて言う名前の呪われた刀剣を渡した。

理由は不明だが、帝都の神殿はアリーズを、何とかして亡き者にしたかった。

そんな奴らが集団でいる場所に、今の、危なっかしさ満点のおまけに片手もなくした……体も完全には回復していない……はっきり言って弱くなったあいつを、ほぼ丸腰で行かせてしまったわけだ。


「こうしちゃいられない、マイクおじさん申請かいてくれ。転移陣の許可! ディオ、お前どうする」


「ナナシ一人でお守が出来る奴じゃないだろう。俺も無論向かう。マイクさん、俺の分の申請もお願いします」


「もう二人分描いた! お前ら本当に、直ぐに見つけろよ!? ララさんになんて言い訳するか、時間で決まるんだからな!」


「おう、マイク。俺の分もちょちょっと書いてくれないか?」


面白そうなことになった、なんて言いたそうな顔で言い出す師匠。

あなた帝都に向かってどうするんだよ!


「こんな面白い事を、近くで見ないでどうすんだ。幸い帝都は、公国よりもオーガに対してのあたりが柔らかい。だいたい五つ角のオーガに喧嘩を売る馬鹿は、帝都に一人もいやしないだろうな」


「他人事のように!」


「事実他人事じゃねえか。お前には重要な問題だろうが何だろうがな。俺はちょっくらお前の忘れ物を渡しに来ただけなんだからよ」


けらけらと笑う師匠は、事の重大さをわかっていないのか、それもどうでもいいのか。

おそらく後者に違いない。師匠はアリーズが町を一つ吹き飛ばしたって、関係ないんだから。


「街ひとつ吹き飛ぶかもしれないっていうのに」


「まあ、その前にお前ら見つけられるだろうよ」


「何でそんな楽観的に」


「お前の腰にぶら下がってる、便利な相棒がいるじゃねえか」


「え、呪い本は公国に置いていって……」


『全員まるっきり気付いてくれやしねえんだな! ひでえよ相棒!』


師匠が指さしたおれのベルトには、いつの間にかアメフラシ状態の呪い本が、楽しそうに挟まっていた。

おれはベルトに挟まってげひゃげひゃ笑っている、この頼もしい奴に気付かなかった自分に呆れ、さらになんとなく罪悪感を感じた。

だって投げ飛ばしちゃったし、でもあの時巻き込んじゃいけないと思ったんだよな……


『帝都いくんだろ? 絢爛豪華なあの帝都! 相方は、俺様をぶっ飛ばしたんだから、お詫びにおいらを連れて行かなきゃならねえんだぜ!』


「それがお詫びになるのか……?」


『おうとも! 楽しみだぜ、数多の悪意の坩堝でもある、数百年続く都でうろちょろするなんてな!』


「アリーズ探せるの?」


「そんな探知能力があるのか、その水饅頭に」


『あるに決まってるだろ? あの男は相方の血を浴びて、傷に相方の血が入って、相方を少しばかり体の中に取り込んだ。それをおいらが追いかけられないわけがない!』


言われた事の意味が分からなくて、目を白黒させていると、数多の呪いが寄り集まった呪いの本が、静かな音で言った。


『相方が、あの勇者と心中しようとした時、あの勇者はいろんな傷が治ってなかった。その傷の何か所かに、相方を貫いた結果血が入ったんだ。その縁を俺様は追いかけられるって言ってんの』


その後も、相方の血にまみれて腕を切り落としたみたいだからな、しっかり入ってるだろうぜ、とぐふぐふいつも通りに笑う呪い本。


「そんな物を追いかけられるとは、相当な術の集まり方だな」


ディオがやけに感心していたけれど、そんな風に血を追跡する術っていうのがあること自体、おれには信じられないものだった。

体の中に入った他人の血を追跡って……普通考えないだろ。


「おいお前ら! 申請終わった、手形だ!」


マイクおじさんが三枚の手形を渡してくる。そしてさっさと行けと転移陣のある部屋の鍵を開けてくれた。


「どうかアリーズが変な事やらかしてませんように……せめて傷が浅い方でお願いします……」


「神頼みをしても無駄だ、神はアリーズに味方する」


神頼みをしたくなったおれに、無駄だと言うようにディオが、慰めるように肩を叩いた。




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