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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師と隠者は、己の真理を貫くか
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贖罪=生きなければあがなえない

気付いた時、おれの腕は伸びていた。

おれの手は腕は、体は、アリーズを抱きしめていた。アリーズの頭を抱えて、おれの心臓の音が聞こえるようにしていた。


「なあ、アリーズ」


「……なに」


「お前は、最悪のことだけは止められたんだって知ってるか」


「……もう最悪に近いくらい、ひどい事いっぱいしてるよ。僕の体は」


「でも、お前がやったんじゃない」


「僕だよ。体は僕の物だった。呪われてたから? 乗っ取られてたから? それで全部許されちゃいけない」


「それは、“お前”じゃない。……正直、おれは、お前がおれを殴ったり蹴ったり、罵詈雑言ってやつを浴びせかけてきたり、しまいにゃ殺そうとしたりしてたんじゃなくて、泣きたくなるくらいうれしい」


「は……」


アリーズの声が止まる。

おれはその頭を抱きしめて、そっと金色の髪をなでて、言う。


「あれが“お前”じゃなくて本当に良かった。なあ、おれが呪われたら、おれは罪を背負うのか?」


「そんなわけ、ないよ」


「じゃあどうして、それを自分に当てはめてくれないんだ? おれの勇者様。おれの大事な勇者様、どうして一番ひどい目に遭った自分を、許してやれないんだ?」


「だって殺した、だって斬り捨てた」


「だってそれで、一番苦しかったの、お前だろう?」


アリーズいわく、望まないで浴びた生ぬるい血の温度も、人を切り刻んだ感触も。

自分の体が勝手に行う非道を、一番苦しんだのは、アリーズ本人だ。


「苦しかったよなあ、辛かったよなあ。……お前はきっと、支配されている間ずっと、自分の両手を切り落としたかったよな。眼を潰したかったよな。耳を引きちぎって、鼻を削いで。足をもぎ取って。たくさんの酷い事をした手足とそれを見た目と聞いた耳と嗅いだ鼻を、無くしたかったよな」


おれだったら、そう思う気がした。

アリーズの絶望に、このたとえがすごく近い気がした。だってアリーズ否定しないんだぜ?

でも。


「でもそんな事できないから、苦しいよな、今も。でもさあ、お前は最悪のことだけはしなかったんだ。それを止めたんだ」


「なにをいっているの?」


「おれの急所に入るはずの刃を、逸らした」


アリーズがおれの腕の中で、息をのむのが分かった。周りの誰もが言葉をなくしているのも。


「お前は、お前の一番大事な相手を、剣に殺させなかった。だから、いいんだ。自分を許してやってくれよ、呪われちまった自分を。愛してやれよ、支配から逃げられたお前の体だって。それもできないって泣くんだったら」


おれは軽くアリーズの事を抱きしめて、優しい声になるようにがんばって、言った。


「おれが大事にしたいから、死なないでくれるか。許してやってくれないか」


アリーズがおれの胸に顔をうずめて、言う。


「君を殴った手だよ」


「うん、そうだな」


「君を蹴飛ばした足だよ」


「だよなあ、覚えてる」


「君にひどい事を言った口だよ」


「聞いてた」


「君を蔑んだ目だよ」


「ちゃんと見てたっての」


「でも、そう言うの?」


「いうさ。だってお前だから。喜べよ」


おれの声まで泣きそうじゃねえか、つられてるのか、と思った時。

おれとアリーズを、抱え込んだ相手がいた。


「お前たちはどうしてそう、馬鹿を突っ走るんだ」


「ディオ?」


「罪びとは死ななければならないと言う法はない。アリーズ、お前が自分が悪いと思うなら、生きて償え。悪い奴は、生きて償わなければいけない。簡単に死んで逃げるな。楽な方を選ぶな。ナナシもナナシだ。もっとほかに説得するものの言い方があるだろう」


「おれ知らねえよ、本当のことしか言ってない」


「僕死ぬなんて言ってないんだけど……」


「いいや言っている! 死ぬのは許されないなんて物の言い方、機会を見つけたら死ぬと言っているのと同じだ。似たような物言いで先走って死んだ馬鹿を、俺は何人も知っている」


「……君、僕の事嫌いでしょ、なんで庇ってるの」


「嫌いと死んでくれと思うのは違う。それに俺は、今のお前を嫌うほど知っていない。知っているのは、ナナシがここまで言ってやるほど、お前に価値があるという事だ!」


ディオの強い言葉に、アリーズが目を丸くしていた。

おれも目が丸くなっていた。おれらを両腕で抱えて、ディオが告げる。


「死に逃げるな。死なれた方が迷惑と言う物がある。あとナナシ、大事にしたいから許せとか、そう言う殺し文句はぽいぽい言うな」


「お前酷くないか?」


「さっきから見ていて、これ位はっきり言わないとお前たちに通じないとだけわかったからな」


そこで不意に、笑い声が響いた。笑ったのはララさんで、おかしくてしょうがないと言う顔だった。

それにつられたように、マイクおじさんまでにやにやしていた。


「ディオに人気が出るのが分かるね、これは」


「男前だぞ、ディオ。ついでにやっと、アリーズ寝たな」


「……本当だ。何日も意識を落さないと休息しなかったのに」


「おいまじかよ。抱っこしたら安心したのかな?」


いつの間にかアリーズは寝落ちしていて、おれは起こすに起こせないし、ディオもおれごと抱えて固まってた。


「ディオクレティアヌス、取りあえずそっちの二人を何時間抱えてられるかい?」


ララさんが変な事を言いだすが、ディオも真面目に答える。


「二時間ほどは……」


「情報をもとに、街の上層部及び神殿関係と話し合いをするからね、その間そこの馬鹿二人を見張っててくれないかい」


「見張りが必要なのか?」


「その状態で変な輩を撃退しようとすれば、ギルドの建物吹っ飛ぶよ」


「はあ」


ララさんの眼は元通りに見えるようになったんだろう。ちょっとふざけた色で、ララさんが指示を出す。


「お前もその寝台に寝転がってもかまわないから、馬鹿二人を守りな」

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