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第96話/Queen

第96話/Queen


俺は一人騒ぎを抜け出すと、クロの背中を追いかけた。奴はそびえ立つ塔のような建物へ入っていく。ひょっとすると、ゴッドファーザーの下へ向かっているのかもしれない。

塔の中へ入ると、階段が上と下へ続いていた。クロの足音は……地下から響いてくるようだ。


「下か……てっきりボスってのは、高い所にいるもんだと思ってたがな」


だが、現にクロは下へ向かっている。俺は迷わず、地下への階段に飛び込んだ。

階段はそこまで長く続きはしなかった。ここがそもそも地面の下にあるからな。地下室もそこまで深くはないらしい。階段を下りた先には、一枚の扉があった。今しがた開かれたように、半開きでキィと揺れている。俺はノブを掴むと、躊躇なく開け放った。

バターン!


「っ!お前……!」


クロがこちらに気づいて振り返る。


「次からは、もう少し背後に気をつけるんだな。クロ、ゴッドファーザーはどこだ」


「ゴッドファーザー?あの人はここにはいない」


「なに……?なら、なぜここに来た!」


「お前に教える義理はない!」


クロはトンファーを握ると、襲いかかってきた!……のだが、動きにキレが全く無い。さっきのダメージが抜けきってないんだ。俺は両手でトンファーを受け止めると、がら空きになったクロの腹を軽く蹴飛ばした。クロの手がトンファーから離れ、ふっ飛んでいく。流石に、全力で蹴るのはあまりに気が引けた。


「グフっ」


「さっさと白状しろよ。もうボロボロじゃないか」


「う……るさい。お前の情けなんか、いらない」


はぁ。強情な奴め。なんにしても話を聞こうと、俺はツカツカとクロへ近づいた。

その時だ。タタタッと、何者かが物陰から飛び出してきた。くそ、伏兵か!


「もうやめて!」


「望むところだ、かかって……え?」


飛び出してきたのは、蜂蜜色の髪をした女の子だった。その子はクロの前に立ち、両手を広げている。


「え、キミは……?」


「クロはもう戦えないわ。あなたの勝ち。だからこれ以上は許してほしい」


「な、にを……勝手なことを」


「うるさい!誰が見たってあなたの負けじゃない!」


な、なんだなんだ。蜂蜜色の少女の勢いに、俺たち男二人はすっかり押されてしまった。


「ごめんなさい!」


少女がバッと頭を下げた。まろやかな髪がキラキラと揺れる。


「私に出来ることなら、何だってします。この人を許してください」


「おい、キュー……いい加減にしろ……!」


クロはフラフラと立ち上がると、少女をぐいと押しのけた。少女の名はキューというらしい。


「……クロ。別に俺は、そこまでお前にこだわる理由もない。お前がキリーを狙わないのであれば、な」


「なに……?」


クロは面食らったように呟いた。なにも、クロに情けをかけたわけじゃない。これは俺の勘だが、ここにゴッドファーザーはいないんじゃないか?ならクロはなぜここに来たかだが、その理由がこのキューという少女にある気がする。


「お前がキリーを狙う理由を話せ。それを聞いた上で、もう俺たちに関わらないと言うなら、俺もお前を見逃そう」


「このっ……ふざけ」


「わかったわ。それで許してくれるのね」


キューが、クロを遮って即答した。


「おい、キュー!いい加減にしろ!」


「いい加減にするのはクロの方でしょ!これ以上言うなら……」


そこまで言って、キューはおもむろにスカートの腰を掴んだ。


「私、脱ぐから。裸でこの人に土下座するわよ」


「……」


クロは絶句した。あまりの暴言っぷりに声も出ないらしい。


「……クロ。あまりこの子に恥をかかせるな。そんなものは俺も見たくない」


キューはそんなもの呼ばわりされてムッとしていたが、言い返すより先にクロが口を開いた。


「……何を、言えばいい」


「キリーのことを、妹だと言ったな。あれはどういう意味だ?」


「言葉通りだ」


「ならなおさら!どうして自分の妹を殺そうとする!」


「……あいつが、俺の妹だからだ!」


クロが激しく牙を向いた。


「あいつと家族になってから、俺は毎日が地獄だった……!」


「……どういう意味だ。キリーが生まれてから、何があったんだ?」


「ちっ……まさか、誰かに話す日が来るとはな。しかも相手がヤクザだと……未来は分からないもんだ」


クロはやれやれと頭を振ると、静かに語りだした。




「俺とあの女は、異母兄妹だ。俺の母さんは、俺を生んですぐ死んだ」


異母兄妹……いわゆる、腹違いの兄妹ってやつだ。


「母さんの死後、すぐに新しい母……あの女の母にあたる再婚相手がやってきた。その母の影響なのか、父さんがもともとそういう人だったのか……俺の物心のつく頃には、我が家はとても戒律厳しい家となっていた」


先代のアオギリ組長の日記に合った通りだ。クロの家は、異常なほど束縛が厳しかった、と。


「だが、俺は幸せだった。あの生活に満足していた。決まりを守れば、両親は俺を愛してくれた」


決まりを守れば。その時点でおかしいことに、クロは気づいているのだろうか。


「だが、あの日……父さんと母の血を継いだあいつが生まれてから、俺は少しづつ忘れられていった。父さんが特に顕著だった。母さんのことがちらつくからと、俺を視界に入れることさえ父さんは嫌がった」


「俺に言いつけられる決まりはどんどん厳しくなっていった。それでも俺は、父さんに認めてもらおうと必死だった。だがそんな時、あのジジイに出会った……」


ジジイ……先代のアオギリのことだな。日記では、クロは当時絶食に近いことをやっていたらしい。厳しい、の一言で済ませられる次元じゃない。


「あの男は悪魔だ……俺はアイツのせいで、父さんのことを信じられなくなってしまった」


信じられない?それは、目が覚めたというべきだろう。アオギリと出会ったことで、自分たちの異常性に気づいたんだな。


「俺は……置いて行かれた。父さんと母は、妹だけを選んだんだ。だが、だからこそ……俺は、あいつが許せない……!」




「そんな……置いて行かれたって。自分の子どもなのに……」


キューはクロの話にショックを受けている。


「おい、待ってくれ。ならお前は、キリーだけが親から愛されたから恨んでいるのか?それなら、逆恨みもいいところだ!」


「違う!俺が許せないのは、その先だ!」


クロはぶんっと、空を手でかいた。


「あいつは父さんを裏切った!ヤクザなんかになりやがって、家族を捨てた!俺が得られなかったものに、奴は後ろ足で泥をかけたんだ!」


「なに?違う、クロ。お前は誤解している!」


「誤解だと?どこがだ、現にアイツはヤクザに……」


「キリーの両親は死んだ。だからキリーはアオギリ組長に拾われて、ヤクザになったんだ」


「……なんだと」


クロは初めて、うろたえた表情を見せた。


「キリーの親は、殺されたんだ。そのショックで、キリーは当時の記憶を失っている。彼女は、何も覚えていないんだ」


殺された、と聞いて、クロはよろけたように数歩後ずさった。無理もない、離別したとはいえ、両親の突然の訃報だ。


「……なら、その時に家族を守るべきだった。むざむざ殺されるようなこと、俺だったらしない」


「え?無茶言うなよ。その頃のキリーは幼い子どもなんだぞ」


「だったら、父さんと一緒に死ぬべきだった!」


なん、だって……?俺は言葉を失った。こいつは今、なんと言った?


「親を守るのが子の役目だ。それができなかったなら、せめて最後を共にすべきだ。アイツは務めを果たせていない」


「……ふざけるな!だったら、今キリーが生きていることが罪だと言うのか!だから殺すとでも!」


「俺は、ヤツがのうのうと生きていることが許せない……親のためなら、子は命を張る。ヤクザだって、根っこは同じはずだ」


「お前のは度が過ぎた献身だ!俺たちはお前のように盲目的じゃない」


「目が見えていないのはお前らの方だ!やはりヤクザとは相容れないようだな……!」


一触即発のピリピリした空気が漂う。どうして奴はこう頑ななんだ?俺はふっとたずねてみた。


「おい。お前は、なんだってそんなに親に尽くすんだ」


「なに?」


「お前らの親……ゴッドファーザーを信じる理由はなんだ?」


「ふん……父さんは俺に居場所をくれた。それで十分だ」


居場所、か……俺が、キリーたちから貰ったものだ。俺だってキリーたちを大切に思っている。クロにも、守りたい理由があったんだな。しかし……


「だからって、他人を殺めていい理由にはならないだろ」


「お前は甘い。俺には覚悟がある。たとえ何を犠牲にしてでも、家族を守り抜く」


「だったら俺にだって覚悟はあるさ。お前とは違う方法で、キリーたちを守り抜いてやる」


「この……」


やはり俺たちは、どうやっても相容れないらしい。

そんなピリついた空気の中、ぷぷっと、場違いな笑い声が聞こえてきた。


「あ、ごめんなさい。笑うつもりじゃなかったの」


キューが慌てて口を押えて、手をぶんぶん振っていた。


「ただ、二人があんまり似てたから」


「似てる?コイツとか?冗談はよしてくれ」


「ううん。二人とも全然混じりっ気が無くて、どうやってもそりが合いそうにない。白と黒そのものだなって」


「……それのどこが似てるんだよ」


「あら、わたしは似てると思うんだけどな。……さて、クロ!」


「……なんだ」


キューに呼ばれたクロは、不機嫌そうにむすっとしていた。俺と似ていると言われたことが気にくわないらしい。こっちだってそうだ。


「クロは、命がけでファミリーを守るべきだって言ったわよね。それは、ほかのメンバーもってことかしら」


「当たり前だ。ファミリーである以上、当然の責務だ。みんなだってそう思っている」


「それは、わたしも?」


その時見たクロの奇妙な表情は、なかなか忘れられなかった。

クロの十字の瞳が、虚空を見つめるようにきゅうと引き絞られている。目は何を見ているわけでもないのに、忙しなく動き回っていた。


「お前も……いや、お前は……?」


ど、どうしたんだ?クロの様子が明らかにおかしい。さっきまでとは一変している。

キューが、目を見開くクロを激しく揺さぶった。


「クロ!しっかりして!」


「うぉ……キュー?なんだ、何してる?」


クロは鬱陶しそうにキューの手を振り払った。自分の身に起きたことに、気づいてないみたいだ。


「やっぱり……」


キューはもの憂げな表情でクロを見つめた。彼女は蜂蜜色の瞳を数回瞬かせると、こちらへ振り返った。


「ヤクザさん。あなた……名前はなんて言うの?」


「え?俺か?」


キューがコクリとうなずく。どうしたんだ、突然。俺がユキだと答えると、キューは俺の名前を数回つぶやき、うん、と自分の胸をおさえた。


「ユキさん。聞いてほしいの。私はキュー、ファローファミリーのボスの娘よ」


「え」


「ば、おい、キュー!」


クロが大慌てでキューの口をふさぐ。なんだって?キューがボスの……ゴッドファーザーの娘?

キューはジタバタと暴れて、クロの手にガブリと噛み付いた。


「いってぇ!」


「ぷはっ。クロ、邪魔しないで!」


「バカを言うな!ヤクザなんかに知られたら、お前がどれだけ危険になるのかわかるだろ!」


「わからないのはどっちよ!この人が悪い人なわけないじゃない!もしそうだったら、今ごろ私もクロもとっくに死んでるわ。クロの言い分もきちんと聞いてくれてるのが、何よりの証拠じゃない!」


キューはそうでしょ、とばかりに俺をちらりと見た。……したたかな娘だな。これで同意すれば、俺は手が出せなくなるじゃないか。


「はぁ……納得はしてないが。とりあえず、今きみたちをどうこう、という気はないよ」


俺の答えに、キューはにっこりと笑った。

ま、これが正直なところでもあるしな。とりあえず、今はこの戦争を終わらせるためにも、ゴッドファーザーの情報が欲しい。その娘だと言うキューなら、なにか知っている可能性は十分あるだろう。


「だが、キリーに手を出すと言うなら容赦はしない。そこは忘れないでくれ」


「ええ、わかった。ちゃんと言い聞かせておくわ」


「おい……」


クロは抗議の声を上げようとしたが、キューはそれを完全に無視した。


「それで、話を戻すけれど。わたしのお父様は、ファローのボスだって言ったわよね」


「ああ……本当なのか?」


マフィアのボスの娘にしては、キューは幼過ぎるように見える。ひょっとするとキリーと同じくらいじゃないか?


「嘘じゃないわ。……証拠を出せ、て言われると困っちゃうけど」


だが、クロのあの反応を見るに、でまかせではないのだろう。


「……なぜそれを俺に言う?そいつの言う通り、きみの危険を増やすだけだ」


「ユキさん聞いてもらいたいことがあったから。わたしのお父様、ゴッドファーザーについて」


っ!俺とクロが、同時に反応した。今、最も重要な情報だ。


「さっきユキさんも見た通り、ファローファミリーはお父様を中心に、とてつもない忠誠心で成り立ってる組織よ」


「ああ」


正直、予想以上だったが。ジェイやさっきのクロといい、もはや狂信的だ。

だが、ずっと疑問に思っていた。ジェイのような男ですら、ゴッドファーザーには命をも差し出さん勢いだった。そこまでのカリスマを生み出す人間とは、一体どんな人物なのだろう。


「ゴッドファーザーとは、何者なんだ?なぜそこまで信奉されている?」


「それは……」


キューが言い淀むと、クロがすかさず口を挟んだ。


「父さんは偉大な人だ。お前が考えるような、邪悪な人間じゃない!」


「……ああ。きっとそうなんだろう。だが、それには理由があったはずだろ。ゴッドファーザーが偉大な理由は、なんだったんだ?」


今度はクロが言い淀む。だが、そこが妙なのだ。理由の一つくらい、言えたっていいはずだろ?それに、いまのクロの様子は、単に言葉に詰まったというより、もやがかかったように記憶が出てこないようだった。


「……お父様は偉大よ。偉大な人だった」


キューはひと言一言、慎重に選ぶように口を開いた。……だった?


「……引っかかる言い方だな。過去形か?」


「……お父様は、ファローファミリーの守護神と呼ばれていたわ。ヤクザたちに首都を追われた時も、連日のように襲い来る敵からファミリーを守り抜いたのよ」


これは……先代が、まだ鳳凰会のトップだった時のことか。先代はこの時、首都のあらゆる敵対勢力を排除したと言っていた。ファローファミリーも当然、その攻撃を受けていたんだ。


「それからお父様は、ファミリーで細々とでも生きていけるように、みんなを匿ってた。わたしたちはずいぶん小さい組織になってしまったけど、それでもわたしたち家族は、毎日なんとか暮らしていたわ」


貧しかったけど、楽しかった……キューは昔を懐かしむように、優しい表情で言った。

しかし、クロの顔は対照的だった。


「そうだ。あの時から俺たちは、隠れながら生きていかざるを得なくなった……!」


ギリ、と歯を鳴らすクロ。粛々と積み重ねてきた怨嗟が、静かに湧き上がっているようだ。


「クロ!それでもわたしたち、幸せだったじゃない。忘れちゃったの?」


「幸せ……?それは、ヤクザどもから首都を取り返したときのことだ。俺たちが地下に追いやられている限り、幸せなんかやってこない」


「クロ……やっぱり。みんなあの日から、おかしくなっちゃったんだわ……」


クロはキューの言っていることがまるで理解できない、と言う顔だ。どうにもクロとキューとで温度差があるようだな。俺はキューに問いかける。


「キュー。きみの話を聞く限りでは、当時のファローファミリーは、今のように武闘派の組織じゃなかったみたいだが」


「ええ……こうなってしまったのは、あの日……わたしの兄である、『ケイ』兄様が居なくなってからなの」


「兄?」


キューの兄と言うことは、ゴッドファーザーの息子。ヤクザなら若様と呼ばれ、組の中でも重要な存在だ。その兄が、居なくなった?


「ある日、わたしたちの仲間が警察に捕まりかけたの。ケイ兄様はそれを庇おうとして、警察と乱闘になったらしいわ。兄様は仲間を逃がそうと、おとりになって警察に追われていった。それが……兄様の姿を見た最後になってしまった」


「捕まった、のか?」


「わからない。兄様に関する情報は、何一つ公表されなかったの。捕まっているのか、今もまだ逃げ続けているのか……」


キューはあえて言わなかったんだろうが、そこには第三の可能性もあったはずだ。つまり、もうケイは生きてはいないという……


「その日から、お父様は変わってしまった。めったに人前に出なくなったし、口数もとても減ってしまった。娘のわたしでさえ、もうずっと姿を直接みてないわ。わたしは、兄様を失った悲しみがお父様をそうさせてしまったんだと思ってた。兄様とお父様は血の繋がりはなかったけど、実の息子のように可愛がってたから……」


となると、ケイは養子、みたいな存在だったのだろう。裏社会ではそこまで珍しくもない。キューとゴッドファーザーの間の年の差も、母方が違うとかそんなだろう。


「そしてその日を境に、ファミリーの雰囲気は少しずつ変わっていった。戦いを好み、力を蓄えるようになったの。だけど、わたしはある時から、“おかしな違和感”を感じるようになった」


違和感だって?俺はたまらず口を挟む。


「どういうことだ?きみの兄さんを失ったことで、ファミリー全体が殺気立っていったのか?」


「そうよ。けど、そこが変だったの。普通、どれだけショックなことが起きても、組織がガラッと雰囲気を変えるなら、それなりの抵抗とかがあってもおかしくないじゃない?」


それはそうだ。だがキューは、だけど、と首を振った。


「その時、異論を唱える人は一人もいなかったの。わたしを含めて、そのことに誰も違和感を覚えなかった」


「え……」


こうして当時を振り返っている、キューすら?俺がちらりとクロの様子を見ると、クロも酷く混乱しているようだ。


「わたしがそのことに気付いたのは、ずいぶん経ってからだったわ。そしてその時に、さっきの違和感を覚えたのよ。未だに、自分でも信じきれないんだけど……」


キューが、すぅと大きく息を吸う。緊張を抑えるように胸に手を当てると、まっすぐに俺を見つめた。


「わたしは、お父様が別人のように“変わってしまった”んだと思ってた。だけど、違う。お父様は、別人に“すり替わった”んじゃないかって」


……なんだって?別人に、すり替わる?


「バカな。いくら姿を見せないからって、組織のボスを見まごうはずがないだろう。それも、組織全体が?」


「ええ。けど、実際にそれはおこった。誰一人として、そのことに気付かなかった。わたし以外、今日の今日まで」


「……待ってくれ。それじゃあ、ファローファミリーはトップの首がすげ変わったのに誰も気づかず、組織が変化するのにも誰も異論を唱えなかった、ってことか?」


「ええ。そうなるわ」


「それこそ冗談だ。そんなこと、起きっこないじゃないか。まさか、洗脳じゃあるまいし……」


そこまで言って、俺は口をつぐんだ。なぜなら、キューがそのとおりだ、とばかりにうなずいたからだ。


「そのまさか、よ。それに近いことが起こったとしか、考えられないわ」


「……おい!いい加減にしろ!」


クロがもう我慢ならん、とキューに詰め寄った。


「何を根拠にそんな戯言を!キュー、いったいどうしたんだ」


「クロ。わたしはただありのままを話しているだけよ。状況的に、それしか考えられないの」


「じゃあお前はどうなんだ!洗脳とやらがあったとして、なぜお前はそれがないと言える!」


「わたしはお父様の娘よ。そりゃ、半分しか血は流れてないけど……自分の父親くらい、見分けられるわ」


キューの確信に満ちた態度に、クロはぐっと言葉を詰まらせた。


「それに、クロだっておかしく感じることがあるでしょう?少なくとも、違和感くらいあるはずよ」


「それは……」


「わたしはその小さな積み重ねが、無視できないほどに大きくなっているのよ。これ以上、無視することはできないわ」


キューはきっぱりと言い切った。しかし、それだと大きな疑問が残る。


「キュー。それだとしたら、一体誰がゴッドファーザーに成り代わったんだ?」


「そう、そこなのよね。洗脳なんて簡単できることじゃないし……けど、心当たりはあるの」


キューはそこで一拍おくと、おもむろに口を開いた。


「その人は……」


「おしゃべりは、そこまでにしてもらおうか」


え?


ダーン!


「ぁ……」


何がおこったんだ?

俺の目の前で、キューが糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。俺はキューに駆け寄ろうとしたが、その瞬間、喉の奥から熱いものが吹き出してきた。


「ゴホッ……!」


地面に、パタタッと赤いものが落ちる。血だ。見れば、俺の胸は真っ赤に染まっていた。


つづく

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