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第90話/Ambush

第90話/Ambush


ウィローはかっと目を見開いた。そこに普段のウィローの面影はない。今の彼女は、目の前の獲物しか見据えていない、血走った獣の目をしていた。


「ウィロー!しっかりしろ!」


「アアアァァァ!」


俺の声に答えることは無く、ウィローは再び突進していった。ダメだ、完全に我を忘れてしまっている。


「へ~ぇ……」


髪を振り乱し、夜叉のように迫ってくるウィローを見ても、ジェイは一切怯える様子を見せなかった。それどころか、楽しそうに笑っている。まるで新しいおもちゃを見つけた、無邪気な子どものようだ。


「ガゥア!」


ウィローが鉄パイプをフルスイングする。半月形に振られた鉄パイプが骨を砕く寸前、ジェイはひょいと跳び上がると、ウィローの肩を踏み台にして大きく跳躍した。そのまま空中で鞭を振るうと、俺が天井に開けた穴のふちに、スパイクをガチッと引っかけた。


「ヒャッホーウ!」


ジェイは引っかけた鞭を振り子のように使って、こちらへぐいんとスイングしてきた。

くそ、俺を超えられるなら超えてみろ!俺は奴を待ち構えようとぐっと拳を構えた。奴も片足を伸ばして、俺に蹴りをくらわせようとしている。いい度胸だ、返り討ちにしてやる……!


「なんちゃって。あらよっと」


「な、なに?」


スカッ。ジェイはひょいと足をひっこめた。俺の拳はむなしく宙を切る。


「てめえみてーな馬鹿力に正面切って挑むわけねぇだろ!」


ジェイは俺を無視すると、背後に着地した。くそ、そうだ。アイツは見た目と違って、頭も切れるんだった。けど、狙いは俺でないとしたら、いったいなにを……


「っ!キリー、気を付けろ!そいつの狙いはきみたちだ!」


「ごめいとうっ!」


ジェイは口でピンッと栓を抜くと、キリーたちの頭上へ手榴弾を高々と放り投げた。キリーたちが慌てて瓦礫の影から飛び出す。と同時に、手榴弾が彼女たちの背後に着弾した。

ドカーン!


「きゃあー!」


「わあぁぁ!」


爆風にあおられ、みんながごろごろと転がる。瓦礫の壁は、とうとう木端微塵になってしまった。そこにジェイが飛び込んでいく。


「みんな、気をつけろ!ジェイが向かって……」


その時、俺の真横を蒼い閃光が駆け抜けていった。


「ウィロー!」


ウィローは猛然と突進する。まずい、今の彼女は正気を失っている。このままでは……


「ガアァ!」


ウィローは腕をぐっと引くと、鉄パイプを剣のように突き出した。ジェイはちらりとこちらを振り返ると、とんっと小さく横跳びした。そして、ジェイの陰から顔をのぞかせたのは、目を大きく見開いたスーだ。俺はその時になってようやく、ジェイがニタニタ笑っているのに気がついた。


「くそったれ!ウィロー、とまれ!」


ジェイはウィローにスーを襲わせて、俺たちに同士討ちをさせるつもりなんだ。

ウィローは獲物が逃げたことに気づいていないのか、攻撃を止めようとしない。もうスーの目と鼻の先に、パイプの切っ先が迫っていた。スーがぎゅっと目をつむる。


キィン!


「クゥ!」


ウィローがパイプを引っ込め、何かを弾いた。チリンと転がったのは、釘。ステリアがネイルガンを撃ったのだ。


「ハッ……ハッ……落ち着いて、蒼孔雀」


ステリアは肩で息をしていた。かなり動揺しているようだ。まさか仲間を撃つことになるとは、彼女も予想しなかったろう。


「ウ……ガァアー!」


ウィローは吠えると、鉄パイプでステリアのネイルガンを弾き飛ばした。


「きゃっ」


「ウゥゥゥゥ……」


ウィローは低く唸りながら、ゆらりと鉄パイプを振り上げる。まずいぞ、彼女の中で攻撃対象がステリアへと移ってしまったのか。


「くっ……ウィロー、止まれ!」


俺はウィローのもとへと駆け出した。間に合うか……!?


「アアァァァア!」


「っ!」


「いやぁ!」


ウィローの咆哮とスーの悲鳴がこだまする。

ガキン!


「ウゥゥ……!」


「冷静になれよ、ウィロー……らしくないぜ」


間一髪、俺はウィローの鉄パイプを後ろから押さえて、羽交い絞めにした。


「ウゥ、ウ」


「よく見ろ、彼女はステリアだ。敵じゃない……」


「ウぅ……ステ、りあ?」


ガラァン。ウィローが落とした鉄パイプが、地面にはねた。よかった、正気を取り戻したみたいだ。


「なぁんだよ。つまんねえな」


ハッと我に帰る。ジェイが崩れた瓦礫の山の上で、面白くなさそうに剃り上がった頭をかいていた。


「どうせやるなら、味方同士で殺し合いでもしてくれよ。せっかくのショウが興ざめだぜ」


「このっ……ふざけんな!」


瓦礫の山を蹴飛ばすと、ジェイはひらりと宙返りしてかわした。


「よっと。お、なんだ?次はお前が相手か?」


「上等だ!受けて立って……」


「ユキ。大丈夫です……私が行きます」


俺を制して、ウィローがゆらりと立ち上がった。


「ウィロー。平気なのか……?」


「ええ……さっきは少し混乱しましたが、もういけます」


少し……?どう見ても正気じゃなかっただろう。しかしウィローは、俺の制止を聞く前に、鉄パイプを握りしめて飛び出して行ってしまった。


「なんだ……結局おチビちゃんなのかよ?」


「黙りなさい……いいえ、私がその口を閉ざしてあげましょう!」


「おーおー。けど、いいのか?また仲間を斬っちまうぜ?」


「……黙れと、言っている!」


激しい憎悪と共に、ウィローが突進する。対照的に、ジェイはからかうようにカラカラと笑っていた。


「カカカッ!図星だからって怒んなよ!」


「うるさい!」


ジェイの振るった鞭をかわして、ウィローが一気に距離を詰める。ジェイはカウンターでキックを放つが、ウィローはそれを鉄パイプで受け止め、手刀で脛をなぎ払った。


「がぁッ」


ジェイがどたんと転がった。ウィローは奴の腹を踏みつけ、鉄パイプを振り上げる。


「死ね……!」


「キャアアア!やめて、ウィローチャン!」


今叫んだのは、スーじゃない。ジェイが裏声で叫んだのだ。およそ似てもいない声だったが、ウィローはびくりと動きを止めてしまった。


「カカカカッ!やっぱ超気にしてんじゃんか、よ!」


パシーン!


「くああぁ!」


ジェイは一瞬のうちに起き上がると、パーンとウィローを鞭打った。スカートが破れ、腿から血が溢れる。


「ぐっ……」


「おらおら、どした?もうギブアップか?それとも今度はあっちのコを叩いてみるか?」


ジェイはわざとらしく床を鞭打つと、ニヤニヤとスーのほうを向いた。挑発してるんだ。

だが、そのあからさまな誘いにも、ウィローは気付いていないようだった。


「ふっ……ざけるな!」


「よせ、ウィロー!」


ウィローの動きがビタッと止まる。今のは俺じゃない。俺をまねたジェイの言葉を、真に受けてしまったのだ。再び鞭が翻る。


「ぐあっ!」


「キキキッ!よーく見ろよ。もしかしたら、お前の大事なお仲間かも知れないんだからさ?」


ウィローは、完全に翻弄されていた。さっきみんなを襲いかけたことが、かなり響いているようだ。恐怖が、彼女の切れ味をなまくらにさせているようだ。


「ひゃははは!おら、おらぁ!もっと舞えよ、踊ってみろよ!」


「くぅっ……調子に、ノルナァァァァ!」


ウィローは絶叫すると、飛んできた鞭に鉄パイプを真っすぐ突き立てた。細身のパイプでは、しなやかな鞭を防ぎきることはできない。鞭がパイプ、ウィローの腕と絡みつき、その切っ先が彼女の頬を掠めた。鮮血の流れる顔で、それでもウィローは、ニィっと笑った。


「コレデ、ツカマエタ……!」


ウィローは自分に絡まったままの鞭を、強引に引っ張り始めた。ギチギチと鞭が食い込むが、まったく気にしていないようだ。


「くそっ……はなしやがれっ……」


「アアアアア!」


ブチブチブチィ!


とうとうジェイの鞭は根元から引きちぎれてしまった。その反動でぐらりと体を傾けたジェイに、ウィローが猛スピードで突っ込んでいく。

ジェイはとっさに懐から銃を引き抜いたが、その照準が合うよりも、ウィローのスピードのほうが上だった。

鉄パイプがジェイの腹に吸い込まれる!


「ガアアァァ!」


「ぐっ……ゴホォ!」


口から血を吹きだして、ジェイがすっ飛んでいく。奴は廊下の端までぶっ飛び、その先で壁に叩きつけられた。


「仕留めたか……?」


「ウゥゥゥゥ……!」


だがウィローは低く唸りながら、鋭く前方をにらみつけていた。

すると彼女の睨んだ通り、ジェイは壁に手を付きながら起き上がった。だがその足取りはふらつき、相当のダメージを感じさせる。奴はヨロヨロと這い進み、わきの通路へと逃げ込んでいく。


「ニガスカ!」


ウィローは鬼のような形相でジェイを追っていく。


「ウィロー!」


俺の声も届かず、ウィローは通路の奥へ消えてしまった。


「ちっ、また暴走しだしてる……!」


「ユキ、ウィローを追おう!」


「ああ!」


俺たちはウィローの後に続いて、細い通路へ入っていく。ジェイはそんなに早くは走れてないはずだが、道中奴に追いつくことはなかった。というのも、通路のあちこちに、何かが爆発した跡が残っているのだ。時おり、道の先からズズン、と地響きのようなものが聞こえていた。


「……どうやら、ここにも罠か何かが仕掛けられていたようだね」


リルが苦虫を噛み潰したような顔で言う。


「ああ……それを承知で、ウィローはつっこんでるみたいだな」


断続的に続く地響きは、ウィローが罠を踏みつける音か。今の彼女には、目の前の標的のことしか映っていないんだろう。罠と分かっていながら、強引に突っ走っているんだ。血飛沫の跡がないから、怪我はしてないようだが……


「……急ごう。いくら何でも、無茶苦茶すぎる」


他に脇道はなかったから、見失ってもいないだろう。俺たちは黒こげの廊下をひた走った。

そのまま進んでいくと、通路は大きな扉の前で止まっていた。


「この先か」


「他に部屋もなかったわ。途中に抜け穴でもなければ、ここを通ったはずよ」


「だな。ようし……」


俺は取っ手に手をかける。分厚い扉だが、唐獅子の力の前では暖簾みたいなものだ。鍵も掛かっていない。俺は扉をはじけ飛びそうな勢いであけ放った。


「っ!ウィロー!」


部屋の真ん中に、ウィローが立っていた。

そこは会議にでも使われる部屋だったようだ。中心には大きな円卓が置かれていたようだが、戦闘に巻き込まれてしまったのか、無残にも真っ二つになっている。そして俺たちの向かい側、辛うじて残っている一脚に、ジェイが座っていた。


「んだよ、やっと来たか。これでギャラリーがそろったな!」


ギャラリー?なんのことだ?


「ジェイ!おとなしく諦めろ!逃げ場はない、追い詰めたぞ」


「追い詰めた?おいおい、冗談だろ?……お前らが追い込まれたのによ」


何?その時、ウィローの正面、壊れた机の下から何かが飛び出してきた。ウィローはとっさに鉄パイプを振り上げる。が、その動きは途中で止まってしまった。


「やああぁぁぁ!」


トーンの高い声で飛び込んでくる、小柄な伏兵。その頭には、犬の耳が生えている。まさかこいつは……


「待て!お前、ソーダじゃないか?」


つづく

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