第80話/Discovery
第80話/Discovery
「……ふんっ」
パキン。小気味いい音を立てて、鉄の扉が外れた。
「よし……これでいけそうだな」
俺たちは町のはずれにある、小川の土手に立っていた。繁る雑草に埋もれるように、その水路への入り口はあった。
「わぁ……真っ暗だね」
キリーが奥を覗いて言う。水路の奥では、漆黒の闇が口を広げていた。
「ライトはあるんだよな?」
「あ、はい。わたしが持ってるよ」
スーはカバンをごそごそやると、一本の懐中電灯を取り出した。
「けど、これ一つしかないんだ。まさか地下に行くとは思ってなくて……」
「仕方ないさ。先頭が持って歩くことにしよう。ところで、誰がいちばんに行く?」
俺が話を振ると、みんなは一斉に一歩後へ引いた。
「……俺が、行こうかな」
みんな一斉にうなずく。なんだろう、理不尽さを感じる……
ライトをつけると、頼りない明りが水路の中を照らす。中は思ったより狭い。一人ずつ縦に並んで歩くしかなさそうだ。
「みんな、離れないでついてきてくれよ」
そう言うと、後ろのキリーがぎゅっと俺の腰をつかんだ。
「ユキ、これでいい?」
「ああ。なるべく声はかけるが、足元に注意してくれ……行くぞ」
俺たちはそろりそろりと、水路の中へ進み始めた。
浅い水路の中を、ピシャピシャと歩く音だけが響く。暗くて足元がおぼつかないせいで、俺たちの進行ペースは亀の如き遅さだった。
「ひゃあ!」
うわ、びっくりした。
いきなりスーが大声を上げた。
「いいい、今なにかが!何かが手に!」
「……スー、それ多分あたしの尻尾だわ」
「そう!ふわふわだった!……あれ?」
……この暗さのせいで、相当参っているな。
その時、前方にチカリと、光るモノが見えた。
「みんな!静かに!」
俺が鋭く叫ぶと、みんなはビタッと足を止めた。
「向こうで何かが光ってる……」
「ほんとだ……なんだろう?」
「反射……ではなさそうですね。灯り……でしょうか」
灯り。それが単なる照明ならいいが、こちらと同じように、懐中電灯の光だったら……
「ライトを消すぞ。このままじゃこっちも丸見えだ」
俺は一声かけると、ライトのスイッチを切った。あたりが一瞬で闇に包まれる。前方の僅かな光源だけが、おぼろげに周囲を照らしていた。
「どうする……あれがマフィアだったら、俺たちは飛んで火に入る虫けらだ」
「けど、今のところ動いてないっぽいよ?」
「それに、今さら戻るっていうのも……」
確かに、俺たちの事なら、さっきのスーの声で絶対気付かれているだろう。その上でアクションがないということは、あえて気付かないフリをしているか、ただの灯りに過ぎないのか……
「……よし。もう少し近づいてみよう。ゆっくり、慎重にいくぞ」
ライトは消したままで、俺たちは再びそろそろと前進し始めた。
前方の光は相変わらず頼りなく、近づいてるのか遠のいてるのかも分からない。
「……ちょっとすみません。いいっすか?」
声を立てたのは黒蜜だった。
「どうした?」
「そろそろ何か見えるかも知れないっす。前にいってもいいっすか?」
ああ、そういえば黒蜜は、目が良いんだった。彼女なら何か分かるかもしれない。
黒蜜はそろそろと前に進みでると、前方をジッと睨んだ。
「……人は、いなそうっす。電球みたいな……上からぶら下がってるっすね」
「お、そうか」
やがて俺にも、寂しく吊られた裸電球が見えてきた。
「こんな所に灯りが……」
「……どうやらセンパイの睨んだ通り、普通の下水道じゃなさそうっすね。見てください」
黒蜜の指差した方には、点々と光を放つ電球がポツリ、ポツリと続いていた。
「ただの地下道に、電灯なんて用意されてないっすよね」
「ここを通る者がいる……ってことだな」
これはひょっとするかもしれないぞ。
俺たちは光に誘われる蛾の如く、ポツポツと続く電球を追っていった。
やがて、奇妙な音が聞こえてきた。
「なんの音だ?」
「どこかで聞いた事あるような……なんだったっけ?」
ドウドウと、地鳴りのような音……先に進むにつれ、音はどんどん大きくなっていった。
そして不意に、延々続いていた狭い水路が途切れた。いや、正確には壁の一部が途切れたんだ。
「な……どうなってるんだ、これ」
俺たちの眼前に、何もない空間が突如として口を開けた。だが正確には、そのはるか下へと空間が続いている。
「これは……」
眼下には、広大なスペースが広がっていた。コンクリ打ちっぱなしの壁には無数の穴が開き、そこから水が流れ落ちている。ドウドウという音は、そこから発せられていた。
そして、その巨大な空間の中心には、これまた大きな建造物がそびえ立っていた。無機質なそれは、岩をくり抜いた要塞のようだ。
「あれが……マフィアのアジト?」
これほどでかいとは……ウィローも口をあんぐり開けている。
「ここまで巨大な施設を作れるなんて。マフィアの財源は無尽蔵なのでしょうか」
「まさか、そんなことは……」
しかし、そう思わずにはいられないのも分かる。地下にこの規模の空間を作るには、どれだけの時間と経費がかかるのだろう。
「も、もしかしてわたしたち、とんでもない人たちを相手にしてるんじゃ……」
スーが不安そうに目を泳がせる。
「……とりあえず、もう少し近づいてみないか。詳細がわかれば、もしかしたら……」
俺が辺りを見回した、その時だった。
「オマエら!そこでナニしてる!」
つづく




