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第78話/Pipeline

第78話/Pipeline


しばらくすると、ドブ川はトンネルへ入り、地下へと続いていた。


「地下か……この先に処理場があるのかな」


「恐らくは……しかし、あまり深入りして良い場所ではありませんよ」


「だよな。早くキリーに止まってもらわないと」


ウィローはアクセルをふかすと、キリーたちの後ろにつける。俺は手を筒にして、大声で叫んだ。


「キリー!もう走らなくていい!追っ手はいなくなったんだ!」


「そうですよキリー!逃げ切ったんです!」


俺たちの声がトンネル内にうわんうわんとこだまする。

すると、徐々に車のスピードが落ち始めた。跳ね飛ぶ水しぶきは次第におさまっていき、やがて完全に停止した。


「キリー!大丈夫か?ていうかマトモか!?」


「意識はありますか?ていうか正気ですか!?」


「二人ともひどくな〜い……?」


キリーはぐったりとハンドルにもたれて、力なく笑ってみせた。


「だいじょーぶ。今は落ち着いてるよ。ぶっちゃけさっきまでの記憶ないんだけどさ」


「あ、やっぱり……」


「気付いたらこんな所にいるからびっくりしたよ。ていうかココどこ?」


「話せば長いが……」


その時、ドアがバタンと開いて、スーがフラフラと降りてきた。


「と、と、と、止まった?止まったの?」


「スー、そうだぞ。現に車を降りてるじゃないか」


「え?まだ走ってなぁい?だってぐるぐる回ってるよ?」


うわぁ……スーが大変だ。

車内を覗き込むと、ステリアはシートに横になって伸びていた。助手席ではリルと黒蜜が、仲良くお互いの腕を抱き合っている。あれ、所でアプリコットは?


「みんなどうしたの?わたしよく覚えてないけど、事故ったりしてないよね?」


キリーが頭を抱えながら言う。


「事故はなかったが……」


「不思議ですねぇ。錯乱している方が運転がうまいなんて」


その時、おかしなところから声が聞こえてきた。


「うまいなんて……もんじゃないわよ……」


うわっ。座席の下から手が伸びている。そこからゾンビのように這い出してきたのは、アプリコットだった。


「だ、大丈夫か?アプリコット……」


「だいじょばないわよ……冗談抜きで三途の川が見えたわ……」


「ここがドブ川だけに?」


「はっ倒すわよ!」


今にも俺に噛みつきそうなアプリコットを、スーがよしよしとなだめる。


「ま、まぁまぁアプリコットちゃん……けど、とりあえずみんな無事でよかったよ」


「そうだな。キリーがあれだけ妙技を決めてくれなかったら、きっと今頃みんなお陀仏だ。ありがとな、キリー」


「ま、怪我の功名ですかね」


「え、そーお?うふふ」


キリーは照れくさそうに鼻の頭をかいた。


「じゃあ、引き続き運転はわたしが……」


「それはよせ!」「やめてください!」


「ええー?」


俺たちがきれいにハモったところで、青白い顔をしたリルが車から降りてきた。


「……とりあえず、ドライバーを交代するのには賛成だよ。ところで、この先どこへ行く?」


どこへ……俺は、虚ろに伸びるトンネルの先を見渡した。が、真っ暗だ。


「このトンネルは、どこに繋がってるんだろう」


「先には下水処理施設があるはずですよ。さっきの門はその為のものでしょうし」


「ふむ。だとしたら、この先に行っても出口はなさそうだね。かと言って、また来た道を引き返すのは賛成しづらいかな」


それもそうだ。門にはクラッシュしたマフィアの車が山を築いている。燃え盛るのろしを見て、仲間が集まっているかもしれない。


「もしかしたら……」


ウィローが顎に手を当てながらつぶやく。


「処理場から流れる水は、郊外に排出されるようになっているはずです。そしてその水路は、首都の地下に網目のように張り巡らされているとか」


「へぇ……なんでそんなことになってるんだろう」


「雨天時の洪水対策だとか、いろいろ噂は聞きますね」


「なら……このトンネルも、そのうちの一つ?」


「可能性はあります」


「となれば、外に繋がる別の道に出られるかもしれないね。このまま奥に進んでみないかい?」


「……それがよさそうだな」


この暗がりを先に進むのは少し気が引けるが……戻るよりはススメ、だ。


「よし!ならステリア、調子は平気か?」


「……そう見えるなら、眼科に行って」


「はは……ドライバー交代なんだけど」


「……わかった。これ以上犠牲者は増やせない」


ステリアはむくりとシートから起き上がった。キリーは「さっきは褒めてくれたのに……」とぶつくさ言いながら、運転席を交代した。


「さて、ユキ。私たちはこのままバイクで行きましょう。ハンドル代わってください」


「え?ああ。いいけど、なんで俺なんだ?」


「ま、まあいいじゃないですか。ユキも運転できるみたいですし」


特に不満はないが。俺はバイクにまたがると、その後ろにキリーがぴょんと乗った。腰にしっかり手が回され、ウィローの体がぴったりくっつく。

う……なんだかこの前の夜のことを思い出しそうだ。いかん、集中集中……


「……」


ところで、冷ややかな視線を感じるのはなぜだろう。首筋にチクチクと……


「よ、よし!じゃあ行こう。俺たちが先行するから、続いてくれ!」


ブロンとアクセルをふかすと、俺はごまかすようにバイクを走らせた。




それからどれくらい走っただろうか。暗いトンネルの中じゃ外の時間もわからないし、目に入るものは延々続くコンクリの壁だけだから、距離感もつかめない。


「……ん?」


バシャバシャ水をかき分けながら走っていると、前方の水の中にきらりと光るものがあった。水の反射だろうか。


「ユキ?どうしました?」


「いや、なんかあるような……」


俺はゆっくりブレーキを踏んで、スピードを緩めた。あとから続くステリアたちも車を止める。

確か、さっきこの辺りに……近づいてみると、やはり黒いものが水中で光を反射している。


「なんだこれ……」


靴の先で小突くと、硬い感触。ちょっと気は引けるが、俺は水に手をさして、それを拾い上げてみた。


「これって……」


「……拳銃、ですね」


それは黒光りする拳銃だった。くろがねの銃身は、ヘッドライトに照らされてぴかぴか光っている。


「新しいな」


「ですね……どうしてこんなところに……?」


その時、ぷっぷ、とクラクションが鳴った。


「唐獅子!どうしたの?」


「あ、すまないステリア!拳銃が落っこちてたんだ!」


「拳銃?」


「ああ……」


「あ!ユキ、見てください!」


へ?ウィローが鉄パイプで指し示すほうを見ると、暗闇の中に、ひっそりと別の水路が口を開けているのが見えた。


「やっぱり脇道があったんです!もしかしたら外に繋がってるかも知れません!」


「おお!ステリア、別の道が見つかった!行ってみよう!」


「え?ちょっと、銃の話は……もう、唐獅子!」


俺たちが意気揚々と水路へ入っていくと、ステリアはブー!と一つ抗議のクラクションを鳴らして、後についてきた。

脇道の水路はずいぶん狭く、車一台がやっと通れるくらいの幅だった。おまけに空気が淀んでいて、ひどくカビ臭い。

息詰まる思いでバイクを走らせていると、やがて前方に待ち望んでいたものが見えてきた。

光だ。


「やった!出口だ!」


「ビンゴです!はぁ、息が詰まって死にそうでしたよ」


新鮮な空気が流れ込んでくる。カビ臭さとは無縁の、外の匂いだ。

だが、出口の目前まで行くと、新たな問題が見えてきた。


「これは……」


「……まいったな」


水路の出口、いや、この場合は入り口か。そこには、がっちりと鉄格子がはまっていたのだ。さっきといい、ほんとうに厳重な措置だ。

俺たちの後からステリアたちの車も追いついた。バイクならまだあれだが、車はとても通れそうにないぞ。


「ユキ、外せませんか?」


「ああ。やってみよう」


俺は鉄格子をがっしり握ると、ぐっと引っ張ってみた。かなりしっかり固定されているらしい、ものすごい手ごたえだ。


「ふんっ」


俺が力んだその時だ。

ミシミシ!格子の根元からトンネル全体へと、コンクリにひびが入った。


「うおっ」


「ユキ、ストップ!下手すると崩れかねません!」


俺は慌てて手を離した。


「まいったな。ゴリ押しが効かないんじゃ、お手上げだ」


「……しかたありません。みなさん、車はここに置いていきましょう」


ウィローは振り返ると、ステリアたちにも聞こえるように呼びかけた。

キリーが窓から身を乗り出す。


「え!ウィロー、どういうことなの?」


「見てのとおりです。この格子は車では抜けられません」


「そんな……この子を置いてくの?」


キリーはオンボロの車を見つめる。なんだかんだ言って、頑張ってきてくれた車だ。キリーはたいそうこの車を気に入っていた。


「キリー……今生の別れと言うわけじゃないさ。全部かたが付いたら迎えに来よう。なぁに、こんなところ誰も来やしない、絶好の隠し場所さ」


「ユキ……」


「そうですね。すみませんが、今はそれが最良です。私たちが、きちんとたどり着かないと」


「うん……そうだね」


キリーは名残惜しそうだったが、わがままを言うことはなかった。

みんな車を降り、最後にステリアがエンジンを切る。最後に、キリーが愛おしそうに車体を撫でた。


「……少しの間、待っててね」


俺たちもバイクを降りると、鉄格子の前に立った。手をかけると、慎重に力を込める。

ギギギ……格子が歪み、人ひとりが通れるほどの隙間ができた。


「よっ……と」


順番に外に出ると、そこはどこかの街中に流れる小さな水路だった。トンネルの中にいる間に、外はすっかり夕暮れ時になっている。


「ユキ。あそこにはしごが」


「よし。とりあえず、上に上がろうか」


はしごを上りきると、リルはかばんからばさりと地図を取り出した。


「さて、ここはどこだろうね。誰か、あたりに手掛かりになる物はないかな?」


手掛かりか……俺たちは手分けしてキョロキョロと歩き回った。闇雲に逃げてきたから、今プレジョンのどのあたりにいるのか見当もつかない。

ほどなくして、あっ、と黒蜜が声を上げた。


「センパイ!見てください」


黒蜜が指さしたのは、電柱に張られたボロボロのチラシだった。だいぶ傷んでいるが、辛うじて『ドットメータウン店・新装開店!』と読み取れる。


「ドットメー……それが、ここの名前かな」


「ぽいっすよね。リル、どうっすか?」


「ちょっと待っておくれ……あった、ドットメータウン。うん、地理的にも間違ってなさそうだ」


リルが地図を指差す。プレジョンの端の方に、小さくここの名前が記されていた。


「そして、目的のピップスポットはここだよ」


二町ほど隣の場所を、リルの指がトントンと叩く。


「思ったより距離は離れていないよ。タクシーでじゅうぶん行けるね」


「おお、ラッキーだったな。すぐにでも向かえる、が……」


そこまで言って口をつぐんだ。さっきのカーチェイスのせいで、みんな疲れ果てている。


「……今日はもう休んで、明日にしようか」


「さんせ〜い……」




「それで、結局こうなるんだな……」


俺はでっかいベッドの上であぐらをかきながら、ぐるぐる回る部屋を眺めていた。正確には、回っているのはベッドの方だが。


「きゃははは!すごーい、このベッド回るよ!」


「こっちはミラーボールがありますよ。場末感満載ですね」


「あれ、ユキ?どうしたんだい?」


「……なんでもないよ、リル。慣れってのは怖いもんだな」


俺たちはまたもやそういうホテルに押しかけていた。ここはフロントに人がいなくて助かった……

リルは近くの引き出しをガラッと開けると、中をしげしげと眺めた。


「すごいなコレ。どう使うのかさっぱりわからないよ」


「……頼むから、大人しくしてくれないか」


「ははは。君からすると悩ましい空間かな?」


「別に、いつもと変わらないよ。だからきみも普段通りにしてくれ」


「ん、わかった。実は少し緊張していたんだ」


リルはパタンと引き出しを閉めると、ベッドにぼすっと寝っ転がった。


「くくく。緊張だなんて、リルも可愛いとこがあるじゃないか」


「ふふ、言うね。そういう君はずいぶんと手慣れてるみたいだけど」


「そうだなぁ。初めてではないからかな」


「は?」


答えたのはリルじゃない。黒蜜だ。


「センパイ、今のどういう意味っすか?」


「え。いや、言葉通りで……」


「だから、どういう意味ですか。誰と来たんすか。ていうかいつですか」


「く、黒蜜?顔が怖いぞ?」


「……あーあ、ユキ。地雷踏んだね」


リルがさも面白そうにくつくつと笑う。


「リル、分かってるなら助けてくれよ!」


「さあ?私にはさっぱりわからないな」


「く……」


「センパイ!今ウチが話してるんすけど!」


「ひぃ!」


な、なぜこんな目に……誰か助けてくれぇ!

結局黒蜜のツノが引っ込んだのは、その日の深夜になってからだった。


つづく

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