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第76話/Chase

第76話/Chase


「よーし……みんな、準備はいい?」


「ああ」


「うん」


「ばっちりよ」


「えーと……こういう時ってどうするのかな。円陣でもしとく?」


「いいよそんなの……早く行こうぜ」


「そだね。じゃ出発!」


早朝。俺たちメイダロッカ組は、一人ずつ事務所の扉をくぐった。最後のウィローが出ると、扉にカチャンと鍵をかける。ウィローは錆びの浮いた扉をそっと撫でると、優しくつぶやいた。


「……また戻ってきますから。少しの間、待っていてください」


下に降りれば、ステリアとリルが表で待っていた。


「や。おはよう。調子は良さそうだね」


「ああ。リルに……ステリアも来てくれるんだな」


「当然。リルが行くのに、私が行かないわけが無い。それに……」


ステリアは、もじもじと髪を撫でる。


「いちおう……私もメイダロッカ組の一員だと思ってるから……」


「ステリア……」


これで七人だ。ところで、最後の八人目はどこに……


「はぁっ、すみません遅れました!ふぅ……」


たたたっ、と駆けこんできたのは黒蜜だ。


「ちょっと、遅いわよ?警察が遅刻なんていいのかしら」


「うっさいっすね……悪かったっすよ……」


「大丈夫だ黒蜜、俺たちも今来たところだよ。それより、何かあったのか?」


「センパイ……ええ、実は……」


黒蜜はポケットから、一枚の紙きれを取り出した。


「これ、電報か?」


「そうっす。今朝私の寮に連絡がありまして……」


「……レッシャ ケンエツ シヨウ キケン SIS……」


「どういうこと?列車が見張られてるから使うなって?」


「それに、SISってなんだろう?」


「SIS……スーパー・インタンデント・セクレタリーの事かと。つまり……」


「警視長官。リーマスからの警告だな」


「あ、ウチもそうだと思うっす。さすが、よく知ってるっすね」


黒蜜はコホン、と咳払いした。


「どうにも、最近汽車でのトラブルが頻発してるそうなんっす。ガラの悪い連中が乗客に絡んでるようで」


「だったらなんなのよ。よくある事じゃない」


「路線が問題なんすよ。トラブルのあった汽車は、全て“プレジョンに入る”車両だったんです」


「な……何よそれ。それじゃまるで……」


「誰かにプレジョンへ入られるのが、よっぽど嫌みたいだな」


「ええ。恐らくマフィアの連中が、ウチらみたいな反抗勢力を警戒してるのかと」


プレジョンから逃げていく分には構わないが、戻ってくるヤツには容赦しない、ということか……


「ふ、ふん!そんなの気にしてられないじゃない!プレジョンに行くには、汽車しかないんだから……」


「ですが……先日、とうとう死傷者が出てるっす。凶器は拳銃。犯人は動機として、刺青があるから撃ったとだけ供述してるそうです」


「え……」


「……汽車を使うのはやめたほうがよさそうだな、チッ。連中、なりふり構う気は無いらしい」


刺青だけで撃ち殺すなんて、ほとんど無差別みたいなもんじゃないか。


「でもでも、じゃあどうしよう?プレジョンまで、歩いてたら何日かかるかな……」


ひーふーみー、とスーが指を折る。たぶん、両手を使っても足りないんじゃないか。


「徒歩は現実的じゃありませんね……汽車以外の移動手段を見つけなくては」


「え?そんなの簡単じゃん」


何を慌ててるんだと、キリーはぽかんと言った。


「キリー?策があるのか?」


「あるも何も、アレがあるじゃない」


キリーは、くいっと事務所の裏手を指差した。そっちにあるのは、スクラップ置き場と車庫……ま、まさか。


「車で行こうよ。これならそんなにかからないでしょ?」


「ええー!」


「キリー!辿り着く前におだぶつになりますよ!」


俺たちが必死に慌てる中、キリーのドライビングテクニックを知らないアプリコット、ステリア、黒蜜とリルは訝しげにしていた。


「別にいいじゃないの。あんたたちが店に来た時も車だったでしょう?」


「いや、あの時も大変だったんだよ……」


げんなりとあの時のことを想い返す。できればあんな目には遭いたくないが……

しかし、ウィローはぶんぶん頭を振ると、俺とスーにそっと耳打ちした。


「ですが……背に腹はかえられないのも事実ですよ。最悪ステリアも運転できますし……」


「うん……そうなんだよなぁ」


「だだだ、だいじょうぶだよユキくん!きっと平気だって、たぶん!」


スーが目をぐるぐるにしながら言う。


「説得力がびっくりするほど無いが……けど、それしかなさそうだ。みんな、腹を括ろうか」


「おっけー!任しといて!汽車なんか追い抜くくらい速く走るから!」


「いいじゃない。どうせならガンガン飛ばしちゃってよ」


「ちょっと。交通規則を守らなかったら即逮捕っすからね」


「あんたね……」


賑やかにはしゃぐみんなを俺たち三人だけが遠く見つめていた。


「ユキ、スー。信じましょう、神はいるはずです」


「神さまって、ヤクザも救ってくれるのかな……」


「神って言うくらいだ、そんなみみっちいことはしないだろう……」



やはり神はいたのか、車中の旅は思ったよりは快適だった。と、言うよりは、脅威となる要素が無かったと言うべきか。

市街地のごちゃっとした道路はステリアに運転してもらったことで、俺たちは安全にパコロを脱出することができた。そして今は、荒野にまっすぐ引かれたハイウェイを、キリーが爆走している。さすがに一本道じゃ、キリーの脅威のドライビングテクニックもなりを潜めるようだった。


「凄いすごい!この車、こんなに馬力あったっけ!?」


「こいつ、廃車寸前だったよな!?なんでこんなに元気なんだよ!」


俺が叫ぶと、ステリアは得意げに胸を張った。


「前に、ちょっとだけいじっておいた。マシンパワーはぐんと上がってるはず」


「ん〜っ!さいっこう!一度こんだけかっ飛ばしてみたかったんだぁ!」


はしゃぐキリーを、ステリアは遠い目で見つめていた。ちなみに、彼女の膝にはウィローが乗っている。狭い車がゆえの、苦肉の策だった。


「そのかわり代償もあるけど……」


「……おいステリア。ボソッと言ったけど、しっかり聞こえたぞ」


「別に大したことじゃない。エンジンが強くなっても他が据え置きだから、相対的にブレーキが弱くなっただけ」


「けっこう大したことだな!?」


「ききき、キリーちゃん!あんまり飛ばしちゃダメだよ!」


「えー?なにスー、聞こえないよー!」


ブロロオォォォン!


「いやあぁぁぁ!」


「ぐえぇ。スー、首が……」


そして俺の膝の上には、半狂乱のスーが座っていた。うぐぐぐ……


「あ、あんたたち……よくそんなに元気よね……」


窓際で青い顔をしているのはアプリコットだった。


「けほっ。あ、悪い。騒がしかったか?」


「いいえ。かえって気が紛れるわ……」


アプリコットは車酔いで目を回していた。猫は車が苦手だって聞くが、ひょっとすると彼女もなのだろうか。


「ちょっと、うるさいっすよ!暴れないでください!」


助手席の黒蜜が振り返る。そんな彼女は、リルに後ろから抱っこされていた。


「黒蜜君、そんなにツンツンしないで。何が気に入らないんだい?」


「……あなたの膝に乗らなきゃいけないのが、この上なく屈辱的なんすよ」


「そう?私は嬉しいよ、妹ができたみたいじゃないか」


「冗談じゃないっす!ウチはセンパイだけの妹っすよ!」


「……リル、私、いるんだけど。娘でも妹でも、なんなら姉にもなるけど」


「あ、ス、ステリア。違う違う、そうじゃなくて」


「いたたた。ステリア、痛いです。食い込んでますよ!」


「……緊張感のかけらもないな」


「あはは……」


俺の膝の上で、スーが力なく笑った。




異変が起こったのは、その日の夕方のことだった。

一日中走り続けた俺たちは、首都プレジョンの目前まで迫ってきていた。

長かった車中の旅もそろそろ終わりかと、俺が大あくびをした時、スーが声を上げた。


「……ねえ、あれ。何だろう?」


「ん?」


スーが指差した方向には、よだれを垂らして眠るアプリコットがいた。


「違うよぉ!そっちじゃなくて、あーっち」


目の前に広がる荒野に目を凝らす。

ん?なんだあれ……はるか向こうで、もやもやと動くものがある……土煙?


「ね?風でも吹いてるのかな」


「……だが、それにしちゃ大きすぎないか」


「ユキ、スー。反対側にも同じものがあります」


ウィローが逆側の窓を睨みつけていた。

両端に煙?なんだ、まるで挟まれてるみたいだな……?


「……!キリー、気をつけろ!なにかがおかしい!」


「え?それってどういう……」


その時だった。


ブロオオォォォン!ババババ!ブンブンブン!


地を揺るがすんじゃないかというほどの爆音が、あちこちから聞こえてきた。


「きゃあ!」


「なな、何!?なんなの!」


「ちくしょう、みんな気をつけろ!」


もうもうと立ち込める土煙の中から、真っ黒な点がいくつも湧いてくる。

それは、黒塗りの車と、バイクの大群だった。


「……マフィア共の、お出迎えだ!」


やつらは俺たちの車と平行に走りながら、じりじりと間合いを詰めてきた。このままじゃ取り囲まれるのも時間の問題だ。


「キリー、飛ばせ!囲まれちまう!」


「わかった!」


グン、と車が加速した。だがマフィアたちも同じくスピードを上げる。俺たちを先頭に、無数の車が矢尻のように荒野を疾走していた。


「くそ、やつら、こんなところまで張ってやがったのか!?」


「そんなばかな!私たちがいつ来るかもわからないはずですよ!」


その時、一台の単車がスピードを上げてきた。そいつは俺たちの車の横につけると、おもむろにフルフェイスを脱ぎ捨てた。


「あいつ……!」


白い髪が風に暴れている。その瞳には、十字の虹彩。先代の日記ではクロと呼ばれていた、十字の男だった。


「待っていたぞ、女!」


クロは憎悪を燃やした瞳で、ハンドルを握るキリーを睨んだ。


「貴様たちが来る予感はしていた。お前を殺さんと欲する俺に神の加護が……」


「あーもううるさいなぁ!今忙しいんだから、後にしてよ!」


饒舌に語るクロを、キリーはバッサリ遮った。


「……いいだろう!まず先に、お前を殺してやる!」


クロは懐に手を突っ込んだ。引き抜いたその手に握られているのは……拳銃だ!


「みんな、伏せろ!」


ダギュン!パリーン!


撃ち込まれた弾丸は、窓ガラスに無数のヒビを走らせた。


「キリー!大丈夫か!?」


「フーッ、フーッ……だいじょうぶ、当たってないよ」


そういうキリーは相当しんどそうだった。拳銃恐怖症の彼女は、いま意識を保つのがやっとのはずだ。ちくしょう、この状況じゃあ運転を代わることもできない!

クロに続いて、マフィアの車が何台か横づけしてきた。車窓からは、拳銃を持つ腕が何本ものぞいている。


バキュン!ガキン!チュイン!


「くそ!やつら、やみくもに撃ってきてますよ!」


「ちぃ!」


これではうかつに顔も出せない。だがそれがなかったとしても、飛び道具のない俺たちじゃ、文字通り手も足も出ない。


ドカン!


「きゃあ!」


一台の車が、体当たりをかましてきた。車内が大きく揺れる。


「くっ!また来ますよ!」


ガツン!ギャリギャリギャリ!

今度は車体をぶつけると、そのままグイグイ押し込んできた。金属同士が擦れる壮絶な音が響く。

さらに、マフィアは車の窓を全開にすると、そこから体を乗り出してきた。

まずい、こっちの窓はさっき粉々にされたばかりだ。乗り移る気か!?


「きゃあ!痛いいたい!」


スーの髪が引っ張られている。マフィアは片腕だけ突っ込むと、すぐそばにいたスーに掴みかかったのだ。


「スー!てめぇ、離しやがれ!」


俺がマフィアの腕を掴むと、マフィアはいっそう強く腕を引いた。スーの体がドアに打ち付けられる。それを見て、マフィアは笑っていた。汚い歯を剥き出しにして、ニヤニヤと顔を歪めている。


「この野郎……!」


俺が腕を握り潰すと、メシリと嫌な音がして、マフィアの手は離れていった。


「スー!大丈夫か!」


「う、うん。だいじょうぶ、だよ」


そう言うスーの声はかすかに震えていた。彼女の美しい金髪が、パラパラと数本抜け落ちる。目にいっぱいに涙を湛えながら、それでも彼女は気丈に強がって見せた。


「やろう……トサカに来たぞ」


またも体当たりしようと、他の車が近づいてくる。

いいだろう、そっちがその気なら、相手になってやる!

俺はドアを目一杯開くと、近づいてくるマフィアの車を思い切り蹴りつけた。

バゴン!

車はボディを大きくへこませ、慌てて逃げていった。

だが困ったことに、その反動で俺たちの車までグラッと揺れてしまうのだ。


「きゃあ、ちょっとユキ!車がひっくり返えるわよ!」


「わったた。すまない!」


く、これじゃ怪力が使えない。

一度追い払っても、すぐに次が迫ってくる。これじゃキリがないぞ!


「……ユキ、私が出ます。付いてきてください」


「え?」


付いてこいって言ったって……

と思ったのもつかの間、ウィローはドアを大きく開けて、ぴょんと外に飛び出した!


「うわっ!ウィロー!?」


コンコン。ん、上から音が……あ、車の屋根に上がったのか。けど、何をするつもりだ?そんなとこに居たら恰好の的だ。

それを見てか、早速一台のバイクがスピードを上げてきた。運転するマフィアの手には拳銃が握られている。


「ウィロー、危ないぞ!」


次の瞬間だった。

ぎしりと車が揺れると、ウィローはふわりと跳躍した。そのままバイクの後方にストンと着地する。


「おわっ……」


「すみませんが、退いてもらえますか」


ウィローは男の首元に鉄パイプを突っ込むと、そのままぽいと投げ捨てた。空になったハンドルを、ウィローが握る。


「ユキ、これを借りましょう。こいつなら自由に動けます!」


「えぇ!バイクに飛び移れって言うのか!?」


「ついてきてくださいと言ったでしょう?ほら、早く!」


くそう、なるようになれだ!

俺はスーを膝から降ろすと、ドアの淵に立った。


「ゆ、ユキくん!無茶しないでよ!」


「スー、悪い。どうにも……無茶しなきゃいけないみたい、だ!」


俺は思い切り飛び出すと、ウィローの背中に必死にしがみついた。飛び込んだ勢いでバイクがぐらりと傾く。


「うわああぁぁ!」


倒れた拍子に、俺の耳すれすれまで地面が迫った。

小石が顔のすぐ下で跳ねている。


「なんの、これしき……!」


キキキィィィイイ!

タイヤから煙を噴き上げて、ウィローはなんとか車体を立て直した。


「ふ、ふう。寿命が縮んだぞ」


「結果良ければ何とやらですよ。では、ユキ。ハンドルは頼みます」


は?

言うが早いか、ウィローは器用にシートの上に立ち上がると、くるりと宙返りして俺の背後に着地した。


「どぉ!?ウィロー、俺バイクの乗り方なんか知らないぞ!」


「大丈夫ですよ。車より直感的に操作できますから」


「いや、しかし……」


「ほら、ハンドルを握って。曲がりたい方向に体を倒すだけです……よ!」


ゴイン。な、なんの音だ?振り向きたいが、怖くてできない。


「ユキ、あなたと私で、こいつらを一掃しましょう」


「うん?」


「キリーは今、かなり限界のはずです。すんでのところで、意識とハンドルを握りしめているのでしょう……」


そう……だろうな。銃声だけでも顔を真っ青にするほどだ。しかも、今回は車を操縦しなきゃならない。


「これ以上、キリーに負荷は掛けられません。もしそうなったら……その前に、奴らを叩き潰すんです。行けますか?」


「……くそ、もう文句も言えないじゃないか。わかったよ、やってやる!」


「そう言ってくれると思ってました!ユキ、気張りますよ!」


つづく

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