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第102話/Conclusion

第102話/Conclusion


リーマスの全身から、灰色の渦がどっと溢れだす。次の瞬間、ヤツの姿が煙のようにかき消えた。


「ユキ!右手ッ!」


キリーの声にハッとすると、リーマスは恐ろしいスピードで俺の側面に回り込んでいた。ヤツの手には、すでに拳銃が握られている。


「死ねぇッ!」


銃口から火花が散る。だが、その弾丸が俺に届くことはなかった。


「もう、撃たせるもんか……!」


ゴオォォー!俺たちを包むように、新緑の風が辺りに吹き荒れる。キリーの刺青の力だ。


「チッ。メス犬の分際で、厄介な能力だ」


リーマスは吐き捨てるように言うと、拳銃を放り捨てた。


「だがまさか、銃を封じただけで、この私より優位に立ったと思ってはいまい?」


「……ああ。だからお前は、厄介なんだ……!」


リーマスが凄まじい速度で突っ込んできた。俺の腹めがけて繰り出された蹴りを、なんとか防ぐのが精いっぱいだった。


「ぐっ……!」


「おらおら!どうした、防戦一方じゃないか!でかいのは口だけかね!」


怒涛のように、リーマスの攻撃が繰り出される。そして、その一撃一撃がとても重い。俺は反動で体をふらつかせながらも、攻撃をガードしていた。

……そう、ヤツの攻撃を全て、完全にしのいでいた。


「……?」


さすがにリーマスも、違和感に気付いたようだ。あれほどのラッシュをくらえば、いくら唐獅子の力と言えど、耐え切れなかっただろう。

だが、今の俺は違う。


「貴様……いったい何を」


リーマスが口を開いた、その時。俺の背後で、猛烈な光が瞬いた。


「うおっ……」


リーマスが目をくらませる。朝日だ。太陽が、金色の光を放ちながら、夜の闇をかき消していく。


「待ってたぜ……この時を!」


その瞬間、俺の背中から金色の糸のようなオーラがふきだした。


「いくぞ、リーマス!ここからが“俺たち”の全力だ!」


俺は一歩足を踏み込むと、一けりでリーマスとの距離を詰めた。その勢いのまま、跳び蹴りを放つ。


「おりゃああ!」


「ぐっ!」


リーマスは、両腕をクロスさせて蹴りを防いだ。ウィローの渾身の一振りを指一本ではじいたあいつが、腕を二本も使ったのだ。


「くっ……そがあぁ!」


リーマスの鋭い拳が飛んでくる。俺はそれを紙一重でかわすと、やつの腕に手をついてひらりと跳躍した。


「せいや!」


バキィ!無防備なリーマスの背中に、蹴りを一発決めてやった。


「ぐぉっ」


リーマスが衝撃で吹っ飛ぶ。


「やった!ユキ、すごい!」


「いや、まだだ」


読み通り、リーマスはすぐに平然と起き上がった。奴を蹴った時、まるで鉄の塊を蹴りつけたような衝撃があった。刺青の中に、防御力を上げるものもあるらしい。


「ふん……どういうカラクリか知らないが、身体能力はずいぶん上がったらしいな。少し油断したが、同じ手が通じると思わんことだ」


そう言うと、リーマスはふところから鉤爪のような武器を取り出した。


「どれだけ力があろうが、所詮お前は生身の人間だ……こいつでその肉を削ぎ落してやろう」


リーマスは鉤爪を両手にはめる。あの鋭利な切っ先なら、骨だって簡単に切り落とせそうだ。


「くたばりぞこないが!いい加減死ね!」


リーマスが爪で空を切りながら襲い掛かってきた!


「ユキ!これっ!」


「おう!」


俺は、キリーが放った得物をはし、と掴んだ。

ガキィン!


「なに?その武器は……」


「うちの用心棒から、借りたものだ!」


ブゥン!

俺はうなりを上げて鉄パイプを振り回した。爪をはじき返され、リーマスが距離を置く。

俺の背からは、金色の代わりに、蒼炎のオーラが立ち上っていた。


「その色……お前、どうなっている!なぜあの小娘と同じ刺青を持っているんだ!?」


リーマスは、明らかに動揺していた。自分だけの特権のはずだった、複数の刺青の力。それが今、俺の存在で揺るがされようとしている。


「教える義理があるか?さあ、御託はいいからかかってこい。こっからが第二ラウンドだ」


俺は片手を突き出すと、くいくいっと手招いて見せた。


「おのれ……おのれぇぇぇえええ!」


リーマスは怨嗟の叫びをあげ、めちゃくちゃに襲い掛かってきた。右へ飛び、左に回り込み、上に跳躍する。素早く動いて、俺に狙いを付けさせないつもりか。


「じゃああぁぁぁ!」


不意打ちのように、鉤爪が繰り出された。だが、孔雀の目が、それを逃すはずがない。

ギィン!


「ぐっ……」


「捕らえたぞ……!」


俺の突き出した鉄パイプは、鉤爪の間を正確に縫い、やつの動きを止めていた。ギリギリと、金属同士がこすれる音が響く。

単純な力比べなら、俺もリーマスも互角だ。そう簡単には、この硬直を崩せそうにない。


「なら、きみの力を貸してくれ……!」


俺の背中を、まるで濡れた鴉の羽のような、輝く漆黒のオーラが覆った。


「なにっ……」


俺の刺青が変わったのを見て、リーマスが一瞬気を取られた。その一瞬のパワーバランスの乱れを、鴉は敏感に感じ取った。


「そこだ!」


パイプを捻り、ぐいと振り抜く。するとあれだけギチギチと固まっていた鉤爪が、いとも簡単に吹き飛んだ。


「ぐああぁ!」


手甲をはじき飛ばされ、リーマスが手を抑えてうずくまる。ガラァンと、はるか遠くに鉤爪が転がった。


「ど、どうなっている。なぜ……」


「どうした。もうギブアップか?」


俺は、うずくまるリーマスの目の前に立った。リーマスに実質的に通った攻撃はさっきのだけだ。その割にずいぶん呻いているところを見ると、こいつは打たれ慣れていないのかもしれないな。


「ぐぅ……」


リーマスは恨めしそうに俺を見上げるも、すぐにへにゃりと愛想笑いを浮かべた。


「あ、ああ。もう降参だ、勘弁してくれ……」


へ?リーマスは、あっさりと負けを認めた。


「……とでも言うか!おらぁ!」


リーマスは突然飛びかかると、俺のみぞおちめがけて拳を突きだした。

が、俺の姿は、薄桃色の煙となって掻き消える。


「な、なに!?どこへ消えて……」


「……呆れた男だな。プライドってもんはないのか?」


俺はあさっての方向を探すリーマスに、背後から声をかける。


「い、いつのまに!」


「最初からだ。さっきのは、あんたの見た幻だよ。幻覚、とでもいうのかな」


俺の背からは、怪しい霧のような、梅色のオーラが立ち込めている。猫の刺青は、こんな使い方もできるみたいだ。


「どうだ、本当に降参してみたら。これ以上策を弄すのは、見るに堪えないぞ」


「おっ……おの、おの、おのれぇぇぇ……」


リーマスは鬼のような形相を浮かべている。ここまでこけにされたのは初めてのようだ。


「ぬうぅ!」


リーマスが、ダダダッと俺に背を向けて走り出した。逃げた?いや、違う。その先には、キリーがいる!


「てめぇ……堕ちるところまで堕ちたな!」


俺もリーマスの後を追って飛び出す。だがそれを見て、リーマスはにやりと笑った。なんだ?

やつはさっとかがみこむと、さっき放り捨てた拳銃を拾い上げた。


「かかったな、馬鹿め!」


リーマスは勢い余って飛び込んでくる俺の眉間に、銃口を突きつけた。


「いくらこの風の中でも、ゼロ距離で撃たれれば一たまりもあるまい!」


奴は、“撃ち出された弾丸”が砂塵になるのを見ていたのだろう。つまり、ごく近距離であるなら、銃が有効であると見抜いていたのだ。


「ユキ!危ない!」


「これで終わりだ!死ねえええ!」


だが。

結果として、銃弾が撃ち出されることはなかった。なぜなら、銃そのものが、灰塵と化したからだ。


「ば、馬鹿な……」


俺の全身を、若草色の風の鎧が包んでいる。その鎧が、銃を一瞬で風化させてしまった。


「ど、どうなっている!なぜお前が、その女と同じ刺青を使えるんだ!?」


俺はうろたえるリーマスの胸ぐらを掴むと、そのままぶんと放り投げた。


「キリー、なるべく俺の後ろに。こいつ、何をしでかすかわかったもんじゃない」


「うん。だいじょーぶだよ、ユキがいるもん」


「あ、おう」


照れ臭くなって、俺はごにょごにょ返事をした。それよりも、リーマスだ。

あいつは愕然とした表情で、その場にへたり込んでいた。目の前の現実が受け入れられないようだ。


「あ、ありえん!この権能は、私だけのものだ!それがなぜ、たかだかヤクザふぜいが使えるのだ!」


「お前と同じじゃないさ。俺のは、たった五色だけだ」


俺の背には、黒、梅、金、蒼、翠の光がまたたいている。それらは混ざり合い、虹色の輝きを放った。リーマスの灰色のオーラとは対照的だ。


「この墨は、この世でもっとも頼りになる五人から譲り受けたものだ。それが、俺とお前の差だよ」


「……ふざけるな!そんな理由で、この私が、この私がぁ……」


その時、リーマスは何かを思いついたように、はっと目を見開いた。


「く、くくく。やはり、私は負けてなどいない。最後に勝つのは、この私だ」


リーマスは、ゆらりと体を起こした。何を企んでいる?


「小細工は無しだ。単純な力でお前を叩き潰してやる」


ぐっと姿勢を低くすると、リーマスは陸上選手のように地面に両手をついた。やつの背後に、灰色のオーラが渦巻いていく。まるで点火寸前のジェットエンジンのようだ。


「この一撃は、どんな力をもってしても受けきれまい……避けても無駄だぞ。その時は、女を串刺しにしてやる」


リーマスは、俺の背後のキリーをねめつけ、薄笑いを浮かべた。


「さあ、どうする?女を見殺しにして逃げるか?それとも、おとなしく諦めるか?どちらにしても、お前らは生きて返さんがね。ヒッヒッヒ、ヒーハッハハハハハ……」


「残念だが、そのどちらにも乗る気はないな」


リーマスの高笑いを遮って、俺はきっぱりと言い放った。拳をバキリと鳴らし、リーマスと正面から向かい合う。


「お前を倒した上で、生きて帰らせてもらう。その一撃とやら、受けてやる……こい!」


俺の一括が、空気をビリビリと震わせる。それが導火線となって、リーマスに火をつけた。


「どこまでも……どこまでも!クズふぜいが、調子に乗りやがってえぇぇ!いい加減に、くたばれえええぇぇぇ!」


ドォン!灰色の煙を爆炎のように噴き出し、リーマスの拳が飛んでくる。俺も呼応するように七色の光を解き放つと、拳を突きだした。


ドガアァァァァァアン!


俺たちの拳がぶつかり合うと、ものすごい衝撃波が、俺たちを中心に巻き起こった。床が砕け、空気までも吹き飛んだ。


「ぐおぉ……」


「ぬうぅ……」


俺たちの拳は、空間に縫い付けられたかのように、ぴったりと固まった。俺たちのパワーは、ほとんど互角だ。だが……


「ぐっ……!」


僅かだが、俺が押されている。


「はっはぁ……!お前の力は、さっきのつばぜり合いで把握させてもらったのだよ……!確かに私たちの力は同等だ。だが、十分に力を溜めた後なら、それも覆る……!」


リーマスが、勝ち誇った笑みを浮かべる。


「これで、終わりだ……!」


「……ああ、確かにそうだ」


リーマスの愉悦の表情が引きつった。


「俺とあんたの力は、互角“だった”……!」


ゴオォォォ!

七色に輝く、刺青の光。その中から、ひときわ力強くまたたく、深紅の焔が燃え上がった。


「そ、その光は……!」


「忘れたか、リーマス。俺の背負った、刺青を!」


グオオォォォ!

咆哮のような唸りを上げ、唐獅子のオーラが俺の全身を包み込んだ。今や唐獅子は、紅だけではない。五色の光を帯びて、虹色に輝いていた。その力強い双眸は、まっすぐに敵を睨んでいる。


「くっ!ば、ばかな……!」


「そうさ。単純勝負の、力馬鹿。後にも先にも、俺にはこれだけだ!」


俺の紅蓮の拳が、リーマスを押しのける。ついに耐え切れなくなったリーマスは、パアンと拳を弾かれ、宙に舞い上がった。


「ぐあぁぁ!」


俺は腰を据えると、獅子のオーラを両腕に集中させた。


「リーマス!俺はお前を許せない理由が、三つある!」


リーマスが木の葉のように落ちてきた。俺は狙いを定める。


「人の命をもてあそんだこと!」


ドコォ!俺の右拳が、リーマスに突き刺さる。


「自分の部下ですら、計画の駒として見捨てたこと!」


バゴン!左の拳が、さらに追撃を放つ。


「そして最後に……」


俺は両腕を引いた。握り合わせた両手に、紅いオーラが集まっていく。やがてそれは、唐獅子の頭を形どった。


「ウチの組長を、馬鹿にしたことだッッッ!」


獅子の双拳がリーマスを噛み砕いた。リーマスは白目をむき、錐もみしながらぶっ飛んでいった。


「ぐがっ……!」


ゴロゴロ転がったリーマスは、ボロ雑巾のように動かなくなった。


「はぁ、はぁ……倒したか」


「ユキ!やった、すごいよ!」


キリーがぴょんと抱きついてきた。


「おっと。ああ、けどここからどうしようか」


「え?どういうこと?」


「リーマスを……やつを、このままにしておいていいのか」


キリーは頭にハテナを浮かべていた。俺は優しくキリーの髪を撫でると、伸びて動かないリーマスへ視線を向けた。


「やつは、危険だ。放っておけば、また今回のようなことを企むかもしれない」


「……そうだね。これで諦めるとも、思えないよ」


「ああ。だがやつは紛いなりにも、警視長官だ。今回の一件だって、明るみに出る前にもみ消されてしまうだろう。そうなると、やつを止めるには……」


俺は、最後のほうを濁した。だがキリーには、はっきり伝わったようだ。


「ここで、殺すしかない」


「……ああ」


正直、それしか思いつかなかった。世間に訴えてみたところで、証拠も根拠もないヤクザの話など、誰が信じるだろう?なら、今ここで、やつを止めるしか……


「ユキ。わたしは……ここで殺すのは反対だよ」


「キリー……」


それは、俺だってそうだ。記憶をはっきりと取り戻した今、犯罪への抵抗感はより強まっている。だが、それ以上に、“今の俺”がいる。だって、今の俺は……


「でもね。わたしたちは、ヤクザなんだ。一般人でも、ましてや善人でもない……なんて、今さらだよね」


キリーはふわりと笑うと、すっかり伸びたリーマスへと目を向けた。


「ユキ。あの人をどうするかは、わたしに任せてくれないかな。たぶん、ユキは納得できないと思うけど……けど、みんなを不幸にはさせないつもりだよ」


「そうか……わかった。きみを信じる」


「ほんと?」


「ああ。じゃなきゃ、きみをここまで連れてきたりしないさ」


「あはは……ごめんね、むり言っちゃって」


俺が刺青の力を取り戻してから、キリーは俺のそばにいるの一点張りだった。血を抜かれた影響で立っているのもやっとなはずなのに、キリーは俺の腕をつかんで離さなかった。

「さっき俺を一人で行かせて、死ぬほど後悔した。少なくとも今は、一歩たりとも離れるつもりはない」

結局俺は、根負けする形でキリーといっしょにここにやってきた。

だが、単純に押し切られただけじゃない。その時、俺の中には、確かに新たな想いが産まれていた。


「俺はきっと……きみたちを、自分のことを、信じ切れていなかったんだ。だからいつも、きみたちが傷つくことを、きみたちを失うことを恐れて、怯えていた」


「うん……それはきっと、わたしも同じ。みんなを失って、一人になることに怯えてた。だけど、今は違う。ユキは必ずわたしを守ってくれるって信じてるし、わたしも必ずユキを守るって信じてる。だから、もうユキを一人にしたくない。そう思ったの」


キリーは、俺の腕をぎゅっと抱いた。


「ユキ、ありがとう。ユキと出会えなかったら、わたし、誰かを信じることも、自分を信じて、闇に向き合うこともできなかった」


「礼を言うのはこっちさ。きみがいなければ、俺はきっと、この世界で生きてこられなかった……きみのおかげだ。ありがとう」


キリーは、目を弓なりにして笑った。

俺を見上げるキリーと目が合うと、頭一つ小さなキリーは目いっぱい背伸びをした。至近距離で見つめるキリーの瞳に、俺が映りこんでいる。

どちらともなく、俺たちはまぶたを閉じた。


「……っは」


「……ずっとこうしてたいけど、あんまり遅いとみんなが心配しちゃうね」


キリーはそっと俺から離れると、未だにピクリとも動かないリーマスへと顔を向けた。


「ユキ。あの人のこと、下まで運んでくれる?」


「ああ……だけど、どうするんだ?」


「うん。わたしは、あの人を裁きに掛けようと思うんだ」


裁き?どういう意味だろう。キリーはいったい、何を企てているんだ?


つづく

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