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85話:祝勝会


 大きめの串焼き肉とオレンジジュースを買ってくると、観客席の最前列が運良く空いていた。

 お、らっきー。奥の方だと前の人が邪魔で見辛いんだよね。

 ……主に身長的な理由で。


 ちょうど試合が始まるところだったらしく、闘技場の中央で二人が向かい合っている。


『皆様、長らくお待たせ致しました。英雄の部、二回戦の出場者を紹介します』

『赤門側、一般の部準優勝者、英雄の弟子っ‼

 戦乙女(ヴァルキュリア)リリア・レンブラントっ‼』


 おお。リリアさん、周りに手ぇ振ってる。めっちゃテンション高いなー。

 アレイさんと戦う為だけに来たって言ってたもんなー。

 おーい、がんばれー。


『白門側、英雄のリーダー、特攻隊長っ‼

 疾風迅雷(ヴァンガード)カツラギ・アレイっ‼』


 うわ、歓声が凄い。でも、紹介されて肩落としてため息吐くのはどうかと思う。

 もうちょっとこう………いや、アレイさんらしいけどさ。


『奇しくも師弟対決っ‼ リリアちゃんは今度こそ師匠を超えることができるのかっ⁉

 遠慮なくぶっ飛ばしちゃえー‼』

『加護使用可能の条件だと初対決ですね。頑張ってください』

『なお、アレイは負けたら罰ゲームが待ってるからねっ‼

 頑張ってまけろっ‼』


 あ、更に肩落としてる。大変だなー。


「アレイさん、今日こそ勝ってみせます!」

「だからな、相性の問題だって言ってるだろ。リリアはもう俺より強いって」

「でも加護無しでも一度も勝ったこと無いですから! 今日は頑張りますっ!」

「あー……ちくしょう。恨むぞ、カノン」


『両者、開始線へ。ちなみにお兄様、聞こえてますよ』


「……なんつーか、不幸だな、おい」

「よろしくお願いします!」

「おう、よろしくな……くっそ、やり場がねぇ」


 頭をガリガリした後、右腕をすっと真横に上げた。


「起きろ、神造鉄杭(アガートラーム)


 右腕に蒼い魔力光が集まり、やがてそれが現れる。

 銀色の手甲に装着された巨大なシリンダー。そしてそこに繋がる鉄杭。

 背中から肩に掛けて丸い噴出口が並んでいる。

神造鉄杭(アガートラーム)

 アレイさんの持つ、意志を貫く力。


 おお。離れて見ると結構ゴツいけど……でも、アレだけを身に付けてドラゴンに突撃したって事だよね。

 他の部分、生身じゃん。防御力無いでしょあれ。

 改めて尋常じゃないよね、あの人。


 あ、リリアさんが片手剣と円盾構えた。

 どちらも既に魔方陣が浮かんでる。

 あのすっごい盾と闘技場の床斬った剣か。

 準備万端って感じだねー。


『では、二回戦、始め!』

『リリアちゃん頑張ってっ‼ アレイもたまには全力だせいっ‼』


「はいっ! 全力でお願いします!」


 盾を構えて意気込むリリアさんが叫ぶ。


「ああもう……恨むなよ?」


 アレイさんはいつも通りの様子でぼやいた。

 なんだかなー。ブレないよね、あの人。


 さて、先手はリリアさん。

 片手剣の振り下ろし。その凄まじい切れ味の刃を、アレイさんは横から叩いて軌道を変える。

 追撃の斬り上げ、仰け反って躱し、一歩踏み込んだ。

 その目の前に突き出される円盾。


 お、上手い。あれじゃ反撃のしようがないよね。


 その盾にアレイさんが右腕を突き出し、鉄杭が盾に触れる。

 ガチャリと、シリンダーが回転した。


 衝撃。


 闘技場内にドラゴンの咆哮のような轟音が響く。

 その一撃にリリアさんの円盾が魔法陣ごと消し飛ばされた。


 ……はあ⁉ 何あれ、一撃⁉

 うわ、メチャクチャだアレ。盾にかけられた魔法ごと消し飛ばしたっぽいな。

 あ、リリアさん、座り込んじゃった。


「すまん、大丈夫か?」

「あはは。腰が抜けました」


 リリアさんの手を掴んで引っ張り上げる。

 ちょっと嬉しそうだけど……あれ? そういう関係では無いんだよね?


『勝者、カツラギアレイ! 流石ですお兄様!』

『うわっ‼ 容赦無さすぎじゃないかなっ⁉』


「うるせえ、こっちも必死なんだよ。無茶振りすんな」


 実況席に向かってぼやくアレイさん。

 ……てか私、あの人に似てるって言われたけど、あんなに人間辞めてないと思う。


〇〇〇〇〇〇〇〇


 その後、祝勝会とか言って冒険者ギルドで飲み会が開催された。

 お酒飲めないからひたすら食べてたんだけど、気が付いたら料理作ってたのは何故なんだろうか。

 いや、いいんだけどさ。ちょっと釈然としないだけで。

 ただ、アレイさんとリリアさんも一緒にキッチンに立ってるのは意味分かんない。


「一応言っておくが、今日のは相性の問題だからな。

神造鉄杭(アガートラーム)』はあらゆる防御を貫通する効果があるんだ」


 鍋を振りながら苦笑いし、英雄がリリアさんに弁解している。

 リリアさんはキラキラした目でアレイを見詰めている。

 なんかこう、シュールだな。


「おお、凄いですねそれ」

「攻撃面はな。こっちの防御力は生身と変わらないから先に当てられたらアウトだ」

「うわあ。ピーキーすぎませんかそれ。あ、塩ください」

「ほいよ。文句は女神に言ってくれ」


 塩を振り入れて味を微調整。

 うむ。これで良し。


「いや、会う機会も無いですって……はい、あがりました」

「おう。こっちも……よし、いいか。一緒に持ってくぞ」

「お願いします。もう一品仕上げちゃうんで」


 拳銃型デバイス製の炒め鍋を振りながら醤油を回し入れる。

 少し焦がすのが美味しさの秘訣だ。

 鉄鍋と違って軽いから片手で振れるのが便利だよね。


「………………仲良さそうですねぇぇぇぇ?」


 不意に真後ろから。恨めしそうな怨嗟の声が聞こえた。


「うわぁ⁉ え、カノンさん⁉」


 なに、こわっ。前髪垂らしてるとこわっ。


「……もしやオウカさん、お兄様に気があったりとか」

「は? いや、ないです、けど」

「……ほんとうに?」

「あり得ません」

「……それはそれで腹が立ちますね」


 髪を整え、ため息を吐かれた。

 いや、どうしろと。


「……まあいいでしょう。ところで、今回はありがとうございました」

「え、今度は何ですか、いきなり」

「出場していただいて本当に助かりました。お陰さまで久しぶりに、こうして自由な時間が取れています」

「あー。なるほど、そりゃ良かったです」


 王国で一番忙しい人だもんなー。

 少しでも休めたんなら出場した甲斐があったね。


「このお礼はいずれ」

「はあ。別にいいんですけどねー。あ、そだ。話は変わるんですけど。

 うちで働いてる子が寝てる間に転移っぽいことしてるんですけど、何か分かります?」


 ちょうど良いのでミールちゃんの事を聞いてみた。

 何かを聞くならカノンさんに限る。


「……無意識化での転移ですか。聞いたことはないですが、少し調べてみますか?」

「お願いします。ところで、アレイさんほっといていいんですか?」

「はっ⁉ すみません、私行きますね!」

「あ、はい。それじゃ」

「では!」


 おー。走ってった。元気だなーカノンさん。

 まーとりあえず、追加のご飯作っちゃいましょうかね。

 どうも全部食べ尽くされたっぽいし。


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