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74話:夜中の来訪者


 あのあと一旦ビストールに戻り、冒険者ギルドにオークの軍隊(レギオン)の討伐報告をしておいた。

 ちょうど通りかかった商人さんから情報が入っていたようで、集団討伐の手間が省けたと喜ばれてしまった。

 討伐証明部位の提出がメチャクチャ面倒だったけど、ビストールのギルド職員やお肉屋さん達が手伝ってくれたので案外早く終わって助かった。


 てか職人の解体速度、まじ凄い。

 血抜きも専用魔法っぽいやつでぱぱっと済ませてしまい、一匹当たり十分かからずにバラしてしまうのだ。

 私の三倍ほどの速さである。

 職人さん、恐るべし。


 オーク肉は全部回収したかったけど、ビストールにも卸してほしいとお願いされたので、今回の持ち帰り分は半分になってしまった。

 それでも相当量あるのでしばらくは困らないと思うけど。


 ただ、拾っておいた装備品。

 ハイオークの持っていた斧は中々レアな物らしく、軍隊(レギオン)が使ってた武器や防具も魔法で強化されててそれなりに高値になるらしい。

 これらに関して、ちょっと揉めた。


「いやだから。ここで狩ったんだからここに卸すべきじゃん」

「しかし王都の方が高く買い取ってくれるからな。そっちに持っていった方が良いだろ」

「でも、ここで売った方がビストール的には助かるんでしょ?」

「それはそうかもしれないが、街を救ってくれた恩人に損はさせたくない!」


 そうだそうだ、と周りが囃し立てる。

 ぐぬぬ。頑固者めー。


「……分かった。じゃあこうしましょう。これは王都に売りに行きます。その代わり、みんなはこれを受け取ってください」


 アイテムボックスに収納しておいたオウカ食堂のお弁当を取り出した。


「王都にある私のお店のお弁当です。これなら宣伝にもなるし、いいでしょ?」

「……しかし」

「しかしもカカシもない! とにかく受け取ってください! 美味しいから!」


 勢いに任せてその場にいる人全員に押し付けた。

 よし。これで問題なし!


「この話はこれでおしまい! いいですね?」

「……仕方ないな。これで手を打とう」

「もしお礼がしたいってんなら、他の誰かに優しくしてあげてください。その方が私は嬉しいです」

「分かった。そうするとしよう……しかし、変わった子だな」


 何か最近よく言われるなそれ。

 まー何はともあれ、美味しいは正義だ。

 美味いもの食べれば大体のことは何とかなる。


「んじゃそゆことで。また来ますね」

「おう、じゃあまたな」


 素材の買取額だけ受け取って、大きく手を振ってギルドを後にした。


〇〇〇〇〇〇〇〇


 冒険者ギルドの外に出ると、日暮れが近かった。

 でも明日の事もあるし、宿も取れそうにないから頑張って王都に戻る事にした。


 王都に着いた後、冒険者ギルドにオークの軍隊(レギオン)を潰したことを報告して、素材や武具を卸したりしていたら時間が夜中近くになってしまった。

 この時間だと仕込みが出来ないし、明日の特製弁当は残念ながら無しだ。

 美味しいご飯を食べてお風呂を済ませて就寝……しようとしたところで、思わぬ来客があった。


 ノックの音にドアを開けると、アスーラから住み込みで働きに来ている子達の中でも一番小さな子が、大きなぬいぐるみを抱えて立っていた。

 しかもめっちゃ泣いてる。


「あれま……ミールちゃんだっけ。どったの?」

「ごめんなさい……一人でねるの、こわくて」

「……おおう。よく最上階(ここ)まで上がってこれたわね」

「くまさん、いるから」


 あ、よくみるとこのぬいぐるみ、クマか。

 すっげぇモコモコしてんな、こいつ。


「なるほど。くまさんいても一人で寝るのは怖いのね」

「あのね、まどがね、がたがたって……」

「あー。今日は風があるからなぁ」


 確かに今日は窓がガタついている。怖いと感じるのも無理はないかもしれない。

 どうしたもんか。てか、眠くて頭が回らない。


 ……ふむ。そんなら、寝るか。


「おーし分かった。私も眠いから一緒に寝よう」

「……いいの?」

「いいよー。でも毎日はダメだかんね?」

「……うん。ありがとう!」


 二人してベッドに潜り込み、胸をとんとん叩いてあげると、ミールちゃんは案外呆気なく眠ってしまった。

 小さな子どもの体温が心地よく、そういや教会のチビ達とよく雑魚寝したなーと思い出す。

 見たところ、この子もまだ十歳以下に見える。


 この子が孤児院に入った経緯なんかは知らないけど、あまり楽しい話ではないだろう事くらいは想像が着く。

 この子も色々あったんだろう。

 一人で眠れないことを、ごめんなさいと謝るくらいには。


 思わず頭を撫でると、細い髪がさらさらと指の間を流れた。


 そういや私もこのくらいの歳で働きだしたなー。

 教会からの通いだったけど、似たような子は大勢いた。

 あの頃は働ける場所があるだけでも運が良かった。

 それに、帰ればご飯があって寝る場所があった。

 私を教会に預けたオーエンさんは、その辺りも考えてくれていたんだろうか。


 おかげで今の私がある。

 教会を出た今でも、美味しいご飯を食べて、夜になったら帰る場所がある。

 安定した仕事とは言えないけど、それでも働いてお金を稼いでいる。


 ……まあ、あまり普通じゃない生い立ちを知る事になったりしたけど。

 それでも総合的に見て、毎日幸せな日々だと思う。


 そしてこの感謝は、次の子ども達に引き継いでいかなければならない。

 そうすることが恩返しになるのだと、シスター・ナリアから教わった。

 私自身も、周りが笑顔で溢れている方が楽しいし。


 例えそこに、私がいなくても。

 偽りの英雄。偽りの生命。ただの消耗品。

 それはきっと、みんなを幸せにするためにあるのだから。


 キリキリと悲鳴を上げる弱い私の心は、静かに押し殺した。


〇〇〇〇〇〇〇〇


 そんな事を夜中まで考えていたせいでめっちゃ寝坊した。

 しかもミールちゃんを巻き添えにして。

 そのせいもあり、二人してキッチンのリーダーを任されているフローラちゃんに怒られるのであった。

 はい、ほんとすみませんでした。


 てな訳で現在。二人でキッチンの隅っこで大人しく野菜の皮剥きをしている次第である。

 たまに通りがかった子がびくっとしてるのは、多分私の事を知ってるんだと思う。

 一応、名前だけとは言え店長がこんなとこにいたらびっくりするよね。

 ほんとごめん。でも、皮剥き終わらないとまた叱られそうだから勘弁してね。


「お姉ちゃん、皮剥き上手だね」

「そりゃ十年くらい毎日やってたからねー」


 慣れた手付きでニンジンの皮を回し剥く。

 包丁は動かさず野菜を回すのがポイントだ。


 これが終わったら後は芋だけなので、頑張って昼前には終わらせよう。


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