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56話:乙女のピンチ


 プリン争奪戦なんかもあって、ビストールの帰りに狩った魔物の事をすっかり忘れていた。

 なので翌日、解体してもらう為に革物屋のガレットさんのお店にやって来た。

 討伐してそのまま突っ込んでたものを店の裏の作業所に積み上げ、査定してもらっている所である。

 しばらく時間がかかるとの事だったので、その間は娘のエリーちゃんをモフらせてもらう事にした。

 もちろん、本人の許可はもらってある。

 まあ、オウカ特製プリンで買収したとも言うけど。


 ……いや、モフりが足りなかったんだよ。仕方ないじゃん。


 エリーちゃんは猫系亜人なだけあって、毛並みがふわふわでモフり心地が素晴らしかった。

 顎下や首もと、背中や尻尾の付け根などを思う存分モフり倒してみたところ、どうも若干やり過ぎてしまったらしい。

 ちょっとエリーちゃんの視線や声が怪しくなってきたので、ガレットさんのお手伝いをすることにした。


 んで、プロに手順を聞きながら切ったり折ったり剥いだりした後。

 査定が終わったので、その金額が書かれた札を持ってギルドで討伐報酬をもらおうとしたんだけど。

 血塗れで帰って来た私を見てグラッドさんがストップをかけ、着替えるまでギルド立ち入り禁止を言い渡された。

 そんな訳で、真っ昼間からお風呂に入り、ついでに洗濯した服が乾くまで暇潰ししている訳である。


 長々と状況説明してみたが、一言で纏めると。

 全裸でゴロゴロなう。おんざベッド。


 血塗れの服を洗う時に、溜まってた洗濯をまとめてやっちゃったのが原因である。

 仮に来客があった場合、シーツを巻き付けるしかない状態だ。

 社会的に大分まずい状態なので早く乾いてほしい。


「うーあー。なーんで一気にやっちゃったかなー」


 ごろごろ。ぐでー。


 いや、なんかそんなテンションだったのよ。

 一気にやっちゃえー、みたいな。めっちゃ後悔してるけどさ。

 リングに止められた時、大人しく聞いとけばよかったー。

 あーでもアレね、まったく関係ないけど今日はポカポカでぬっくいわー。

 窓から入る日差しが風呂上がりにちょうどいい感じ。

 あー、これ、むり。ねる……


〇〇〇〇〇〇〇〇


 コンコン、という音で目が覚めた。


 ……うあ。いま、何時だ?

 窓から見える空はまだ日が高い。お昼過ぎくらいかな。


 やっば。この格好で寝るのはさすがにまずい。

 何がまずいって、性格的に部屋で何も着なくなりそうなのがまずい。

 だって、来客なんてそうあるもんじゃないし。服って着るのめんどいし。


 コンコンコン。


「オウカちゃん、いる? 凄く時間かかってるみたいだけど、大丈夫?」

「ひゃいっ⁉」


 え、なんだ⁉ リーザさん⁉ あ、さっきの音、ノックか!

 うわ、やっばい!


「大丈夫です! いまちょっとまずいんで開けるの待って!」


 そうだ、着替えたらすぐ行くって言ってたんだっけ。

 やば、どうしよ。まだ服乾いてないんだけど。

 うーにゅ。ここは正直に言うしかないか。


「えーと……ごめんなさい、服全部洗濯しちゃったんで、降りるの遅くなります」

「あら、そうなの……それは困ったわね」

「どうかしたんですか?」

「オウカちゃんにお客さんが来てるの」

「え、誰ですか?」

「レンジュさん。プリンを分けてほしいって」


 おう。まじか。


「絶対阻止してください。乙女の貞操が危機なんで」


 何せ今、防御力ゼロだし。

 入ってこられたら逃げようがない。


「一応食い止めてはみるけど、あまり長くはもたないからね?」

「りょーかいです!」


 あーもーどうしよ。

 とりあえずシーツを巻き付けて、わたわたと部屋中を駆け回る。

 んーにゅ。こうなりゃ仕方ない! 最終手段だ!


「リング、炒め鍋、加熱!」

「――了解」


 ひっくり返して服を置き、熱で無理矢理服を乾かす。

 生地が痛みそうだけど、この際仕方ない。


「十分で降りるので待つ様に伝えてくださーい!」

「はーい。一応伝えておくわねー」


 絶対待たないだろうけど。


〇〇〇〇〇〇〇〇


 五分後。


「全裸のオウカちゃんがいると聞いてっ‼」


 予想通り、レンジュさんが部屋に押し掛けてきた。

 今、ドア吹っ飛んだぞ、おい。


「いません。お引き取りください」

「あっれぇ⁉ なんで服着てるのかなっ⁉」

「そりゃ着てますよ。レンジュさんが来てるって聞いたら尚更」

「ぐぬぬ……一足遅かったかっ‼」


 ギリギリセーフ。しかし、下着を乾かし忘れたことに気づかれてはならない。

 とりあえずアイテムボックスに突っ込んだけど……なんか変な感じだ。


「それよりプリンでしたっけ。もう作り置き無いんで作ったら持っていきますよ」

「そっかっ‼ オウカちゃんの部屋着姿見れたから良しとしようかなっ‼ 今日も可愛いねっ‼」


 部屋着って言っても短パンに大きめのシャツってだけで、普段と大して変わらないでしょうに。

 てかやめて、今の私をあんまし見ないで。

 いやまあ、そんな意図が無いのは分かってんだけどさ。


「……あの、前から思ってたんですけど、レンジュさんって女の子が好きなんですか?」

「女の子だけじゃないよっ‼ 真面目な話、アタシはこの国にハーレム制度を作ろうと思ってるからねっ‼」


 はーれむ? なんだそれ。


「ちなみに多夫多妻制のことだねっ‼ やっぱり好きな人みんなで結婚した方が幸せだと思うんだよねっ‼」


 おい。なんかスゲェ事言い出したぞ、この英雄。


「……えーと。まあ、言いたいことは分かりましたが、それとセクハラと何の関係が?」

「や、それは趣味だよっ‼ 可愛い子には触れたいじゃんっ‼」

「う。否定できないけど」


 悲しいことに気持ちが分かってしまう。

 さっきエリーちゃんモフり倒したばかりだし。


「……あー、まあ、過度なスキンシップは控えてください」

「ふむふむっ‼ どの程度までおーけーかなっ⁉」

「本人の許可なしにおさわり禁止」

「……ほほーうっ⁉ 許可を取ればいいんだねっ⁉」

「私は不許可ですからね」


 だからこっち来ないでください。

 その手つきと目は止めましょう。ね?

 ジリジリと後ずさり。

 少しでも距離を取りたいところだ。

 

 すると、ぽてん、と。

 ベッドに倒れ込んでしまった。


 あ、これ、やば。


「大丈夫っ‼ その内自分からお願いしてくるようになるからっ‼」


 うわ! 飛びかかってきた⁉


「あ、ちょ、ダメだってば、こらっ!」

「よいではないかよいではないかっ‼」

「だ、から、マジで……んひゃっ!? こら、やめれっ! ひゃぁん⁉」


 リーザさんが迎えに来るまで攻防戦は続いた。

 一応、守りきったとだけ言っておこう。何をとは言えないけど。


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