38話:ゴーレムとアイテムボックス
昨日のんびりした分、今日は朝イチで冒険者ギルドに来てみた。
別に夕飯後にまたすぐに寝ちゃって、早く起きすぎた訳ではない。
……いいんだ。寝る子は育つって言うから。
「リーザさんおはよ。炭鉱の依頼受けに来たよ」
「あら、早いわね。ちょっと待ってね……はいこれ」
渡された依頼書を読んでみる。
うん、昨日聞いたまんまだな。
炭鉱に出現したゴーレムの討伐依頼。討伐部位はゴーレムの核らしい。
備考として、通常の武器では傷が入らないほど硬いんだとか。
んー。まあ、やってみますか。
「じゃあこれもらってくね」
「怪我人が出てるみたいだからオウカちゃんも気をつけてね」
「ん。気をつけます」
笑顔で手を振って見送ってくれた。
そう言えば炭鉱って行ったことないわ。どんなとこだろ。
ま、油断しないように行きましょうか。
〇〇〇〇〇〇〇〇
王都を出て、リングの案内に従って歩くこと数十分。問題の炭鉱に辿り着いた。
うお。すっごいわ。
山が穴だらけ。木の足場が組まれてたり、所々に梯子がかけられている。
穴の中の方からがっつんがっつん、叩きつけるような音が聞こえる。
それに、暑い。
空気が籠ってる感じがする。風が無いんだ、ここ。
んーむ。炭鉱の仕事って私には出来そうにないわ。
少し汗をかきながら進むと、若干開けた場所に出た。
さてさて。この辺りに出るらしいんだけど、それらしい奴は見当たらない。
まだ先かな。狭いとこだったら嫌だなー。
ふう、と汗を拭った時。
べちゃ
あん? 何か落ちてきた?
「――オウカ、警戒を:スライムです」
「げ。そんなのいるの、ここ」
スライム。粘液状の魔物で知性は無いと言われる。
めんどくさいのが、こいつ何でも食べるらしい。
布でも鉄でも、生き物でも。同じ魔物ですら捕食すると聞いたことがある。
うーん。まあ、とりあえず、撃っとくか。
ぱんっ!
銃撃。ど真ん中に命中。
……あれ? 効いてない?
ぱんっ! ぱんっ!
両手で発砲するも、うにうに蠢めいている。
おお、まったく効いてないなー。
……あれ? これ、何気にやばくない?
「ねえ、リング。スライムの弱点は?」
「――炎です。また、物理的な攻撃は無効化されます」
「……はは。やっべぇ」
私、物理的な攻撃以外、できないんだけど。
魔力を撃ち出すって言っても物理攻撃だし。
うわ、こっちくんなっ! あぶなっ!
くっそ……一時撤退っ!
〇〇〇〇〇〇〇〇
ひとまず入口まで戻ってきた。
今まで戦って来た魔物の中でも、何気に一番やばかったかもしんない。
普通の冒険者だったら火の魔法で簡単に退治できるんだろうけど、私は魔法使えないしなー。
物理無効とかマジで天敵過ぎんだけど。
あいつが居たら先に進めないし、どうすっかな。うーん。
弱点は炎かー。
炎、火、熱……うーん。どうしたものか……あ。
いや、いける、のか?
ふむ。いっちょ試してみるか。
ダメなら全力で逃げてギルドに相談しよう。
〇〇〇〇〇〇〇〇
再び、炭鉱内の広間。
先程と変わらずスライムがうごうごしている。
おっし。リベンジだ。
「リング。炒め鍋、火力最大」
「――了解:展開します」
「……おぉらぁっ!」
大きく振りかぶった特大の炒め鍋を叩きつける。
じゅわあああああああ!
おお、溶けてる溶けてる。
やっぱり熱でもいけんのね。
……腐った肉みたいなスッゴい匂いしてるけど、そこは我慢だ。
ものの数秒でスライムは溶けてなくなった。
一応落ちてた核っぽいものを拾い、先へ進む。
……頼むからスライムはもう出てこないでほしい。いや、真面目に、匂いがね。
穴の中だし、なかなかエグいのよ、あれ。
そんな危惧も無用に終わり、目的のゴーレムを発見した。
でけぇ。そしてゴツい。私の何倍あるんだこいつ。
まあ前に見たオーガ程じゃないけど。
岩肌っぽく見えるけど、ロックゴーレムなんだろうか。
確かに堅そうだわ。
とりあえず小手調べだ。
拳銃に魔力を最大まで込める。
きぃん、と高い音。凝縮された桜色の魔弾で、胸元を狙い撃った。
一本の線のように閃いた魔弾は、意図も簡単にゴーレムを貫いた。
……え、終わり? あ、崩れたわ。
うーん。やりがいと言うか、達成感と言うか……まあ、楽だからいいか。
とりあえず核を回収して……でかっ。そして、めっちゃ重い。
んーと。しゃーない、頑張るか。
〇〇〇〇〇〇〇〇
両手で担いでえっちらおっちら入口まで運び出した。
なんだろ。ゴーレム退治よりその前後の方が大変だった気がする
ま、何はともあれ依頼達成のはずだし。とにかく帰るか。
……この重たいもの担いで。
うわぁ。重労働だなぁ。
しゃーない。台車借りるかー。
「すみませーん! ゴーレムの核運びたいんで台車かりまーす!」
「おう、持ってけ! ありがとよ嬢ちゃん! 人手はいらねぇか!?」
「大丈夫です! ありがとー!」
炭鉱のおっちゃん達に許可を貰い、王都まで台車を引いて帰ることとなった。
〇〇〇〇〇〇〇〇
「リーザさーん、ただいまぁぁ……」
「おかえりなさい……ねえそれ、手に持って帰って来たの?」
私がズリズリと引きずってきたゴーレムの核を見て、リーザさんが呆れたように聞いてきた。
いや、仕方ないじゃん。持ち上がんないんだから。
「うん。こんなにデカいとは思ってなかった」
「……ねぇオウカちゃん。もしかしてアイテムボックス持ってないの?」
アイテムボックス?
「え、何それ」
「あらー……ごめんね、教えておけばよかったわね。
アイテムボックスっていうのは、所有者の保有魔力で容量が変わるけど、物をいれて持ち運びできる魔道具よ。
生き物は入らないけど、中に入れてる間は重さも感じないの」
え、なにその便利な道具。そんなものがあったのか。
それ、もっと早く知りたかったなー……
「……それどこで買えるの?」
「冒険者ギルドか専門店だけど、どうする?」
「ここで買う。くそう、それがあればワイバーンの剥ぎ取りしたんだけどなー」
「じゃあ今日の報酬から引いておくわね。はい、どうぞ」
「おー。おりがと」
見た目、革製のポーチくらいの大きさだだ。これなら腰に付けられるかも。
試しにスライムの核を入れてみても、全く重さを感じない。
これ超便利だわ。いやー、こんなもんがあるとは。
「ありがと。これで素材の持ち運びが楽になるわ」
「いえ、むしろごめんなさいね。知ってるものだと思い込んでいたわ」
「や、よく考えたらみんな腰とかに吊るしてた気がするし」
そうだよね。考えてみたら、大荷物背負って旅してる冒険者とかあまり見ないもんね。
これは気づかなかった私が悪い。
「うーん。ちょっと一狩り行ってくるかな」
「ふふ。ほどほどにね?」
「んじゃもっかい、行ってきまーす」
とりあえず、街道沿い行ってみるか。何かいればいいんだけど。





