28話:お祭り
目を覚ますと、まだ早朝なのに街が騒がしかった。
それに人々の歓声が聞こえる。
なんだろ。お祭りか何かかな。
一階に降りるといつもよりお客さんが少ないのに、おかみさんはニコニコと上機嫌だった。
「おばちゃん、おはよー」
「あら、おはよう」
「なんかあったの?」
「それがね、二年間行方知れずだった英雄様が戻られたらしいのよ」
おっと。もしかして、これはあれかな?
「もしかして、カツラギアレイさんの事?」
「そうそう! 勇者様達が魔王を倒してすぐ居なくなって、一旦戻ったと思ったらまたすぐ旅にでちゃってねぇ」
……それ、カノンさんから逃げただけじゃないかなあ。
何となく、あの人怖いんだよね。勘でしかないけど。
でもそっか。戻ったって事はお城にいるのかな。
「それに騎士団長も戻られたらしいのよ。もう王都中でお祭り騒ぎよ」
「……騎士団長?」
そう言えば会ったこと無かったけど、王都に居なかったのか。
話の流れ的に、こないだ検索したコダマレンジュさんかな。
いや、そんな事よりも。お祭り騒ぎ?
「ね、おばちゃん。お祭りって事は、屋台がただになったりする?」
「さすがにそれはないけど、いつもより安くはなるんじゃないかい?」
「おー! それはいいね!」
む。いや待った。おばちゃんの美味しいご飯と屋台のご飯、どっちを取るか。これは重大な問題だわ。
うーむ……とりあえず、屋台を見て回って考えるか。
うっし。そうと決まれば、まずはギルドに顔だしてみよう。
〇〇〇〇〇〇〇〇
という訳で。古ぼけた冒険者ギルドにて。
「おはよーございまーす!」
「オウカちゃん、おはよう。外の騒ぎの事聞いた?」
わーい、リーザさんだ。今日も美人さんだなー。
なんか機嫌も良いっぽいし、良きかな良きかな。
「うん。英雄が帰って来たんだよね?」
「そうそう。騎士団長と、その騎士団長を武術大会で倒した英雄様」
「……え、カツラギアレイさんってそんな凄い人なの?」
「凄いと言うか……うーん」
腕を組んで唸るリーザさん。お胸が凄いことになってる。
あ、こら、周りの男ども! 覗き込むなっ!
「十英雄の一人、『疾風迅雷』のカツラギアレイ。実質的に英雄達のリーダーだった男だ」
奥からぬうっと出てくる強面マッチョ。
グラッドさんが周りに鋭い視線を飛ばすと、周りが一斉に目を逸らした。
なんかアレだよね。グラッドさんってみんなのお父さんっぽいよね。
「グラッドさんおはよー。リーダーって勇者じゃないの?」
「いや、トオノツカサはコダマレンジュと並んで最強だが、リーダーではない。よく勘違いされているがな」
「ふーん。そうなんだ」
「……まぁ、お前とはある意味、話が合うと思うぞ」
そっかー。まあ、多分近い内に呼ばれると思うし、急ぐ必要はないか。カノンさんも教えてくれるって言ってたし。
それよりも、今は屋台だ。
「とりあえず私は屋台を回ってくる予定だけど、何か急ぎの仕事とかあったりする?」
「いや、特にないな。楽しんでこい」
「ふふふ。まかせて! いってきまーすっ!」
親指を立てて見せ、全力でギルドを駆け出た。
〇〇〇〇〇〇〇〇
ギルドを飛び出して二時間。結構な量の屋台を回った。
しかし、ワイバーンの肉があんなに美味いとは。て事はドラゴンはもっと美味しいんだろうか。
でもさすがに全部回るのは無理だわ。胃袋的に。
食べ物系以外にも様々な露店が出ていて、そこを冷やかしながら歩くだけでも楽しい。
中々に珍しい物とか置いてあるし。
宝石とか、魔道具とか、異種族の道具とか。
まぁ、喋る指輪より珍しい物は無かったけどね。
「――不服申請:あれらと並べないでください」
「お。ごめんごめん。あんたはこの世界で唯一の相棒よ」
「――不服申請を取り下げます」
「あれ、なに、照れてんの?」
「――否定」
「にひ。あんた、どんどん人間っぽくなるわね」
「――不服申請」
こいつも段々と変わってきたなあ。最初はお化けかと思ったけど。
いや、今でも姿が見えないって所は一緒か。
んーむ。どうにかなんないのかね、これ。
傍から見たら独り言になってるんだよねー。
「……あ。ねえ、ふと思ったんだけどさ。マップを表示できんならあんた自身も表示できるんじゃない?」
「――肯定:可能ではあります。ですが、表示に適したデータが未作成です」
「お。そんなら今度作っといてよ。そっちの方が楽しそうだし」
「――了解致しました」
おー。ちょい楽しみが増えたな。
そういや声は中性的だけど、リングの性別どっちなんだろ。
ま、それも見たら分かるか。早く見てみたいな。
しかし、街のみんな、すごい楽しそうだ。
英雄の帰還かー。うーん。なんだかなー。
召喚された英雄、ってみんな言うけど、それって別の世界に住んでた人を無理矢理こっちに呼んだって事だよね。
元の世界での生活とかあったと思うんだけど……その辺りどうなんだろ。
本人達に聞いてみたい気はするけど、興味本意で聞ける話じゃないもんなー。
私だったらどうだろう。
いきなり別の世界に呼ばれて、さあ魔王を倒せ、とか言われたら。
多分ぶちギレて暴れるな、うん。
ホルダーに収めた拳銃、コキュートスとインフェルノを軽く叩く。
この子達との付き合いも長くは無いけど、密度は濃い。随分とお世話になっている。
この子達もリングみたいに喋れたら面白いのになー。
……いや、流石に喧しいかな?
故郷を離れても、私は一人のようで一人じゃない。
リングがいる。コキュートスとインフェルノがいる。
グラッドさんやリーザさんも気にかけてくれる。
宿のおばちゃんも良くしてくれる。
それは、繋がりだ。それをいきなり絶たれるのは、辛いだろう。
カツラギアレイさん。
これだけ人がいる世界で、たった十人しかいない異邦人のリーダー。
五年前。彼はこの世界に来て、何を思ったんだろうか。
吟遊詩人の英雄譚のように勇ましく振る舞ったのだろうか。
それとも。私の考えたように、憤ったのだろうか。
空を眺める。
白い雲が一つ、浮かんでいた。
さっき買った串揚げをかじる。美味しい。
英雄って、なんなんだろうなー。
とか、なんとなく、考えた。





