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26話:人探し


 昨日は意気消沈したまま宿に戻り、お風呂に入ってすぐにベッドに潜り込んだ。

 なのに、まだ眠い。

 うーん。昨日大暴れしたからかなー。

 昼まで寝ていたいところだけど、生憎今日は用事が入っている。

 王城に行って、カツラギカノンさんと話をしなければならないのだ。


 うにゅ……ええい! さっさと顔洗って歯を磨いて、着替えちゃおう!


〇〇〇〇〇〇〇〇


 王城に向かう前に、一応グラッドさんに確認を取るためにギルドに立ち寄ってみた。

 押し扉を開くとギルドにいた冒険者達が一斉にこっちを見たので、とりあえず手を振るとひそひそ話を始めやがった。

 おいこら。なんなんだ。


「おう、おはよう。許可は出てるから大丈夫だぞ」

「ありがと。ね、あれなに?」


 冒険者の塊を指さす。

 あんだけ露骨にされるとあまり良い気はしないんだけど。


「あー、あれな。何て言うか……まぁ、お前の味方だから気にするな」

「はぁ? 訳分かんないんだけど」

「……ちなみにお前、好きな食い物とかあるか?」

「何よいきなり。何でも好きだけど、甘いものと肉かなあ」


 ひそひそひそ。


「……甘いものか」

「……肉串の有名店が広場に」

「……大通りで美味いケーキを出すと評判の店が」


 ひそひそひそ。


「いや、リーザが知りたがっててな」

「リーザさんの料理は何でも好きよ?」


 料理上手だし。それに、美人さんだし。

 リーザさんの手料理ってなんか得した気分になるんだよね。


「お前それ、本人に言ってやれ」

「ん。とりあえず、王城行ってくる」

「おう。問題を起こすなとは言わん。出来るだけ穏便に済ませてこい」


 真面目な顔で酷いこと言ってんな、おい。

 私はいつでも穏便に済ませようとしてるわよ。

 トラブルの方から向かってくるだけで。


「なーんか引っ掛かる言い方だけど、いいわ。行ってきまーす」


 まぁ、気にしない方向でいくか、うん。


〇〇〇〇〇〇〇〇


「……。おいお前ら、行ったぞ」


「ギルマス、ナイス!」

「よく聞いてくれた!」

「お前ら、常備できる甘いものの選出を急げ!」

「俺は焼き菓子の店に行ってくる!」


「……お前らな。仕事しろ、仕事」


〇〇〇〇〇〇〇〇


 顔馴染みになった兵士さんに挨拶して、そのまま中に通してもらった。

 長い廊下をまっすぐ進み、前回通された部屋に着く。

 コンコン、とノックするとすぐに返事が返ってきた。

 扉を開くと中には黒髪の美女、もといカツラギカノンさんが優雅に座っていた。

 相変わらずの美形だわ。善きかな善きかな。


「どうも。先日ぶりです」

「はい、お元気そうで何よりです。噂は色々聞いてますよ」

「うわ、そうなんですか……でまぁ、早速なんですけど。カツラギアレイさんが今何処にいるか知ってますか?」

「知りません。と言うか、恐らく誰にも分かりません」


 少し温度の下がった声で、きっぱりと断言された。

 え、なに。なんか地雷踏んだか私。


「えっと、そうなんですか?」

「今まで何度も試して貰ってますが、通常時は保有魔力量が少な過ぎて探知できないらしいです。

 加護使用時は探知に引っ掛かるようですが、使用後はすぐに移動しているようで……冒険者を向かわせても空振りに終わってますね、はい」


 うっわ。目が怖い。

 顔は笑ってるのに目がめっちゃキレてる。

 瞳が光を全く反射してなくてマジ怖い。


「なるほど。探すのが大変そうですね」

「逆に何か分かったら教えて頂けますか?」

「分かりました」


 ……あ。そう言えば、試してない方法がいっこあったな。


「えーと、ちょっと待ってもらっていいですか?」

「はい? えぇ、構いませんが」


 部屋の隅に待避。

 完全に忘れてたけど、リングなら探せるかもしんない。

 ……まぁ、ダメ元で、やってみるか。


「リング。検索、カツラギアレイさん」

「――検索中……ヒットしました。ゲルニカ最北端です」

「おぉ、さすが。ってか、ゲルニカかぁ」


 ゲルニカは王国から遥か北にある魔族の大陸だ。

 王都からだと数ヶ月以上かかるし、探しにいくとなるとかなり大変だな。

 とりあえず、カノンさんに教えておくか。


「カノンさん、なんかゲルニカの最北端にいるみたいなんですけど……何とかなりますか?」

「ゲルニカ? どうやって……いえ、それよりもそれは確かなんですか?」


 怪訝な顔をされた。まぁ、そうだよね。

 そんなお顔もまた美人で良き良き。

 ただその目はやめてくんないかな。割とマジで怖いんで。


「恐らくは。今まで外した事がないので」

「分かりました……ところで、他の人でも探せますか?」

「経験上、亡くなってる方以外は大丈夫だと思います」

「念の為にコダマレンジュの捜索もお願いできますか?」


「――検索中…ヒット。ゲルニカ最北端。カツラギアレイと共に居ます」


「あー。カツラギアレイさんと一緒に居るみたいですね」


 ピシリ、と。

 空気の凍りつく音が、聞こえた気がした。


「……ふふふ。なぁるほど……? やはりまだ一緒に居ましたか。ふふふふふふふふ」

「……あの?」

「失礼。少し取り乱しました」


 いや、少しって……背筋が凍ったわよ、私。

 英雄の中でもこの人はマトモだと思ってたのに。何か裏切られた感じだ。


「さて、突然で申し訳ありませんが、私はこの後カエデさんと一緒にお兄様を迎えに行こうと思います」

「あ、じゃあ上手くいったら教えてください」

「ええ、喜んで。ではまた」


 スカートの裾を摘まむ貴族風の礼をして、すたすたと行ってしまった。

 ……触らぬ神に祟りなし。私も帰るか。


〇〇〇〇〇〇〇〇


 王城から帰る途中、色んなとこから視線を感じた。

 けど、振り返ると決まって目を逸らされる。

 なんなのよ、まじで。


 特に冒険者っぽい人が見てくる気がする。

 ただ見てくるだけで害は無いけど、なんか気になるなー。

 うーん。問い詰める訳にもいかないし、どうすっかな。

 まーいいや。ギルド行けば視線も減るでしょ。


〇〇〇〇〇〇〇〇


「おう、お疲れさん」


 がしっ! ぶらーん


「でぇい!」


 げしっ! ぽとっ


 後ろ襟を掴まれたので、腕を踵で蹴り上げるとそのまま落とされた。

 よし。いつまでもやられてばかりの私じゃない。ざまあみろ。


「いきなり掴むなっつってんでしょうが」

「毎度やらかすお前が悪い。つうか今度は何をしでかした?」

「失礼な。何もないわよ」

「……なに? 本当か?」

「本当よ」

「お前、成長したなあ」


 なんかしみじみと呟かれた。

 ほんと失礼だなこの強面マッチョ。


「どういう意味よ、全く……あ!」

「なんだ、どうした?」

「いや……二つ名の話するの忘れてた」

「あぁ、なるほど。だがもう遅いと思うんだがな。ほれ」

「あん? あによ」


 渡された紙を見てみる。なんだこれ、新聞かな? 


 そこには見出しにデカデカと。

「新たな英雄! 夜桜幻想(トリガーハッピー)とは⁉」と書かれていた。

 私の似顔絵付きで。


 ぐしゃり、と握りつぶす。


「……ぶっころ」

「リーザ!」

「はいはい! 新作のハニーシフォンケーキ、召し上がれ!」


 無理やり口に突っ込まれた。


 うわ、美味しい。すごいこれ、ふわっふわなのにとろける……!


「これは革命だわ……!」

「はーい。たくさんあるからいっぱい食べてね」

「リーザさん超愛してる」


  もっきゅもっきゅ


     もっきゅもっきゅ


        もっきゅもっきゅ


「……おいリーザ。一応新聞社に一報入れとけ。あいつ、何かやらかすかもしれんからな」

「予想済みの反応だったので、既に連絡してます」

「さすがだな」

「ふふ。オウカちゃんの好みも分かってきました」


 なんか言ってるけど、美味しいからどうでもいいや。


「……食ってるな」

「……ああ、凄い勢いで食ってるな」

「……俺も娘がほしいなあ」

「……分かる」


 うまうま。


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