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21話:勇者


『勇者』トオノツカサ。

 異世界から召喚された十英雄の内、神々と渡り合える身体能力『神魔滅殺(ラグナロク)』の加護を持つ、世界最強の英雄。

 決戦の時に魔王を素手で殴り飛ばしたのは、子どもでも知っている話だ。

 十英雄の中でも突出した強さに強い正義感を併せ持つ、正に『勇者』と呼ぶべき存在だと絵本には描かれていた。

 現在は世界各地を旅して、困った人を助けたりしているらしい。


 住所不定無職。まあ、間違っちゃいないのかもしれないけどさー。


 ちなみに。地に膝を着いて頭を下げる行為を「土下座」というらしい。

 勇者さんの元の世界では最敬礼にあたるのだとか。


 聞いた瞬間、私も同じ動作をしようとして、周りに全力で止められた。

 そのまま強行したけど。



 いやだってさー。下手したら死んでた高さだったけど、まあ生きてるし。

 勇者に喧嘩売るなんて馬鹿な真似しちゃった訳だし。謝るのが筋だと思うんだけど。


 でもまぁ。

 向かい合って地に膝を着けてる町娘と勇者、それを見て笑う英雄、何とも言えない顔の騎士団員。

 凄いシュールな光景だなとは思う。


「…とりあえず、お互い謝ったって事で、立とうか」

「はい、そうしてください」

「…あ、そうだ。キョウスケさん、俺、勇者じゃない」


 相変わらず眠そうな顔で、キサラギキョウスケさんの言葉を否定するトオノツカサさん。 


「……うん? え、『神魔滅殺(ラグナロク)』のトオノツカサさんなんですよね?」

「…そうだよ」

「あー……その辺りはややこしいので、そういうものだと思ってください。

 とにかく彼は『神魔滅殺(ラグナロク)』のトオノツカサに間違いないですから」

「……はあ。わかりました」


 多分、深く聞かない方がいい奴だわこれ。

 それはさておき。


「で、今回の依頼って、結局どうなるんですか?」

「ああ、こちらのミスで中断されてしまいましたが……まだ戦いたい人、います?」


 一糸乱れぬ勢いで首を横に振る騎士団員たち。

 中には顔が青ざめてる人もいる。


 ……ちょい大袈裟過ぎると思うんだけど。


「…まぁ、あれだけやればね」

「まぁ、そうですよねえ」


 縦に頷く二人。解せぬ。

 そんな酷い事はしてない……はず。なんだけど。

 どうも途中から記憶が曖昧だから断言できない。

 戦いが長引くとテンション上がりすぎるんだよな、サクラドライブ。


「…あ。ええと、オウカさん」

「え、はい?」

「…聞きたいことがあるんだけど。どこでトオノリュウ覚えたの?」


 は? トオノリュウ? て、なんだ?


「…貴女の戦闘行動。無手ではないけど、動作が俺の流派と似てる」

「戦いかた? あー。だったら私よりリュウゲジマコトさんに聞いた方が良いです。私もよく分からないので」

「…分からないの?」


 いや、うん。首を傾げたくなる気持ちは分かるけど。

 私にも分かんないんですよ。困ったことに。


「えーと。凄い簡単に言うと、戦い方だけ私の体に無理矢理覚えさせたような感じ、らしいです」

「…そうなんだ。インストールした、みたいな感じなのかな。不思議だね」

「これはどういう事なんでしょうかねえ」


 二人して悩み顔のイケメン達。

 黙ってればイケメンなのに。惜しいなあ。


「あ、今飛竜便の返事待ちなので、それ次第で何か分かるかもしれません」

「…手紙? 直接行かないの?」

「や、流石に片道一ヶ月の距離は辛いんで」

「…空、飛んだら? あの速さならアスーラまで五時間くらいじゃない?」

「……あ」


 確かに。言われてみればそうだ。

 何で気づかなかったんだろ。


「うわあ。完っ璧に失念してました」

「…明日にでも行ってみたら?」

「そうします……」


 ほんとうっかりしてたわ。

 そうだよね。飛んで行けば割とすぐ着きそうだわ。


「…あ、でも、飛竜便出したのっていつ?」

「あー。三日ほど前なんで、そろそろあちらに届きますね」

「…だったら待った方がいいかも。マコトさん、興味があればすぐ来るだろうし」

「あぁ、そうですね。今日明日中には来ると思いますよ」


 すぐに来る? 飛竜便ですら片道三日かかる距離なのに?

 何かの魔法だろうか……まあ、英雄を普通の枠に当て嵌めるのは無理があるのかな。


「んー。じゃあ数日待ってみます」

「…うん。それでさ」

「はい?」

「…ちょっと、手合わせしたい」


 ……は? 何言ってんだこの勇者。


「いやいや、全力でお断り致します」

「…全力は出さないし、キョウスケさんも居るから大丈夫。少しだけだから」


 えええ……やだよ、何で意味もなく殴り合いしなきゃなんないのよ。そういうのは男同士でやんなさいよ。

 てかこの人に殴られたら跡形も残らないと思うんだけど。


「オウカさん。こうなったら彼は聞きませんよ。

 闇討ちされるより、今終わらせた方がいいかと思います」


 いや、ニコニコ笑いながら物騒な事言わないでください。


「闇討ちって、そんなまさか」

「四六時中追いかけられる事になりますよ?」


 なんつー迷惑な。

 ほんとに英雄なんだろうか、この人。


「……じゃあまあ、少しだけなら」

「…よし。やろうか」


 勇者が構える。武器は無い。

 腰を落として左手を前に、右手は肘を上にして逆手に頭の横に。

 確かに、私の構えとそっくりだ。


「……リング」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」



 陽炎のように立ち上る、桜色の魔力光。

 あまり本意では無いが、仕方ない、


「では、私と踊ってください、英雄様」


 まずは先手を取る。疾駆、眼前で屈み込んで視界から消え、同時に胸元目掛けて発砲。

 しかし、放たれた魔弾は普通に腕で止められた。

 うわ、あれに反応すんのか。てかどんだけ硬いんだこの人。


 まだ止まれない。右に跳ね、乱射。

 しかしその全てを弾かれ、距離を詰めて来る。

 バックステップじゃ追い付かれる。ならば。

 逆に斜め前に体を滑り込ませ、牽制の射撃。 

 しかし一瞬たりとも止まらずに繰り出される掌打。

 真上に跳び退き回避。追撃の蹴りを両手の銃底で受けると、凄まじい衝撃で弾き飛ばされた。

 駄目だ。下手に受けたら防御ごとやられるな、これ。


 ブースターで真下に加速して着地。

 再度放たれた掌打をそのまま屈んで避け、足を撃つが、無傷。

 大分デタラメだ、この人。

 ならばと間接を狙撃。肘、手首、膝を狙い撃つ。

 こちらはやや効果あり。この辺りを狙うしかないか。


 駆ける。左右にフェイントを入れ、跳ね回る。

 ブースターで加速しながら方向転換、再度関節を狙って射撃。

 しかし、今度は射撃を見てから弾丸を避けられた。そのまま勢いを殺さず接近してくる。

 動きが速い。迎撃しなければ。


 くるりと回転して勢いをつけた銃底を叩きつける、ように見せかけ、回避したところへ本命の発砲。

 眉間にヒット、一瞬怯んだ隙に距離を離す。


 この人、無敵になる魔法でもかかってるんだろうか。

 殆ど銃撃が通らないんだけど。

 何をどうしたら勝てるのか、全く想像がつかないわ。


 そして不意に。勇者が満足そうに構えを解いた。


「…なるほど。アレイさんだ」

「ああ、確かに。どちらかと言えば彼に近いですね」

「…いま何処にいるんだろうね」

「最新情報がゲルニカでしたっけ」


 ……なんだ? なんかいきなり真面目な顔で話し始めたんだけど。

 とりあえず、終わりってことでいいのかな。


 拳銃をホルダーに戻す。

 身に纏っていた桜色が霧散して行く中、二人に声をかけた。


「……あの。終わったんなら帰っていいですか?」

「…あ、うん。今やっても意味がないのが分かったから」

「はぁ。よく分かんないですけど、お疲れ様です」

「…お疲れ様。またいつか、手合わせしようね」

「あはは、絶対嫌です。ではまた」


 不自然に見えない程度に急いで離れる。

 これ以上絡まれるのは勘弁だ。


「ジオスさん、私帰っても大丈夫ですよね?」

「はい、本日はありがとうございました。ご苦労さまです」

「どもです。では!」


 一応ジオスさんに確認してから、足早に王城を後にした。

 あのまま残ってたら何されるか分かんないし。

 うーん。男の人って戦ったりすんの好きだよねー。いや、全員じゃないだろうけどさ。


 しかしまー、英雄って。もう三人も遭遇してんだけど。

 なんてーか……最近の私の日常、濃いなー。


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