188話
目を覚ますと、目の前にそこそこ大きなお胸と、その先に美女のお顔があった。
ふむ。これはあれかな、日頃頑張っている私へのご褒美かな。
頭の後ろも柔らかいし。膝枕、最高。
しかし、あのお胸はどうやって成長させてるんだろうか。
カノンさん、細身なのに。
よし。ちょっと触ってみるか。学術的好奇心ってやつで。
決して疚しい気持ちからではない。
言い訳完了。では早速。
「オウカさん、起きましたか?」
「すみませんでしたぁっ!!」
「え、はい? どこか変なところでも打ちましたか?」
「……あーいえ、何でもないです」
焦ったー。ギリギリセーフ。
身を起こすと、私が倒れた訓練場の端にある休憩用のベンチだった。
てか、ずっと膝枕しててくれたんだろうか。女神か、この人。
……あ、いや、女神だとアレだな、うん。
訂正。聖女か、この人。
何気に母性に溢れてるしなー。普段は、だけど。
「あの……なんで拝んでるんですか?」
「や、気にしないでください。ご利益があるかもしれないので」
「……はぁ。大丈夫ならそれで良いですが」
「大丈夫……ではないですけど、痛みとかは無いです」
まーかなりふらふらすっけど、いつもの事だし。
「まだ顔色が悪いですよ? もう少し横になった方が良いかと」
「え、膝枕継続ですか?」
「いえ、客室を用意します」
「そんな、添い寝だなんて!」
「レンジュさーん! お呼びですよー!」
「いやほんとごめんなさい、それだけは勘弁してください!」
「冗談ですよ。みんな食堂にいますので」
冗談でもやめてほしい。いや、悪戯な笑顔を見れたから良いんだけどさ。
……ん? てか、食堂?
私がここに来たの、昼過ぎだったよね?
「あの。私が倒れてどのくらい経ちました?」
「ざっと二時間ほどですね。なかなか起きないので心配しました」
あ、確かに日が沈みかけてる。
つまり二時間も膝枕しててくれてたのか。聖女すぎるでしょ、カノンさん。
「すみません、お手数おかけしました」
「いえ、考え事をしていたので大丈夫ですよ」
「考え事ですか?」
「はい。ちょうど良いので聞いてみたいのですが、宜しいですか?」
「なんです? 身長以外なら答えますよ?」
「オウカさんは、この世界をどう思いますか?」
……うん? ちょっと聞かれてる意味が分からないんだけど。
世界? って、この世界のことだよね?
「そもそも。私たちのいた世界では存在して居なかったのですが……魔力とは、何なのでしょうか」
「……え?」
「不自然な進化を遂げた魔物。少女でも岩を砕ける身体強化。
魔法とは物理法則を無視したものですが……では、その元になっている魔力は、どこから来ているのでしょう」
魔力がどこから来てるか? え、でもそれって。
「んっと。生き物はみんな魔力を持ってるんじゃないんですか?」
「みたいですね。ですが、どうやって魔力を作っているのでしょうか」
……えーと? どゆこと?
「私たちの世界では医学が発展していて、人間の構造はほとんど理解出来ているんですよ。ですが、魔力を作る臓器、というものは存在しません」
「あーそっか。魔力のない世界ですもんね。じゃあ、こっちの人の体の中にはそれがあるんですかね?」
ん? いや、待てよ?
「あれ、じゃあカエデさんとかハルカさんは?」
「そうですね。私も異世界出身ですが、簡単な魔法なら使えます」
「……なるほど? じゃあこの世界自体に魔力があるとか?」
「そうなりますね。ですが、そこでまた一つ謎が浮かびます。
何故女神は、わざわざ魔法の無い世界の人間を召喚したのでしょうか。
戦闘能力で言うなら明らかにこちらの世界に劣っていますから」
一部例外はありますが、と小さく呟き。
「カエデさんが分かりやすいですね。あちらの世界では極普通の一般人だったようです。実際運動能力はかなり低いですし」
「……確かにそうですねー。この世界の人に加護を与えた方が効率良さそうですよね」
「はい。例えば前騎士団長のオーエンさんが『韋駄天』を持っていれば、恐らく世界最強だったでしょうね。
という事は。わざわざ異世界から召喚する何らかの理由があったという考えが妥当でしょうね」
……うわぉ。そこに辿り着くんだ。
なるほど。つまり、この話を私にしてきたのって。
「えーと。もしかして、バレてます?」
人差し指を口元にあて、しーですよ、と呟いた。
うわ、可愛いな、カノンさん。
でも。内緒ってことは多分、同じ結論なんだろうなー。
確かにこりゃ迂闊に言えないわ。
魔王を倒すためには『神造鉄杭』が必要だったとして。
『神造鉄杭』を使える人間がこの世界に居ないから、使える人間を異世界から召喚した、とか。
そして、それが事実なら。
他の九人は。その召喚に巻き込まれただけになるんじゃないだろうか。とか。
……いやこれ、だいぶヤバい話じゃないか?
「あの。なんでその話を私に?」
「……さあ。何ででしょうね。ただ単に誰かに話したかっただけかも知れませんし……」
顎に手を当て、少し考える素振りをしながら。
「オウカさんが女神の真意に気がついているから、かもしれませんね」
にこりと、笑った
「……あはは。バレてました?」
「私の目を欺くには演技力が足りませんでしたね」
ニッコリと微笑むカノンさん。それはまるで少女のようで、でも底の見えない笑顔だった。
あー……隠し事してるのはバレバレだったか。
確かに、ゲルニカでの一戦の後。
『神造鉄杭』を模倣出来たことから、私は同じ結論に辿り着いていた。
そして多分、女神の真意に関しても。
うわぁ。さすがカノンさん。てか、どこまで気付いてんだろ。
ノーヒントでよくそこまで辿り着いていたな。
さすが一人で王国の政治経済を回してるだけの事はあるわ。
「さて、これで私たちは共犯者ですね」
「ですね。皆には内緒で」
「そうですね。ここだけの秘密です」
「やー。どうせなら、もうちょい色っぽい話が良かったです」
「それはまたの機会に。さて、食堂に向かいましょうか」
「あ、お供しますー」
軽やかに歩みを進めるカノンさんに付き従い、王城の廊下を歩いて行った。
んーむ……この人には勝てそうにないなー。
頭が良すぎてヤバいし。
まあでも、悪い方向じゃないから、いっか。
とりあえず、飯だ飯。





