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186話


「あ、じゃあフレイアさんって鉄も溶かせるんですかー」

「ええまあ。魔法銀(ミスリル)も素手で加工できるので、彫金師として生活してます」

「へー。そだ、このバレッタ、手作りなんですよ」

「あらー。素敵ですねー。これ、桜がモチーフなんですか?」

「ですです。王都に着いてすぐ作ったんです」

「オウカさんは才能ありそうですねぇ……」



 のんびりとお茶をしている私とフレイアさん。

 話してみると本当に良い人で、付き合いやすいタイプだ。

 穏やかだし、話してて和む。



「ツカサ君、次は何食べる?」

「…いや、自分で取れるから」

「遠慮しないでっ! ねっ?」

「…えーと。じゃあ、チョコクッキー」

「はい! あーん!」

「…美味い」



 こっちは人目をはばからずイチャイチャしているツカサさんとエイカさん。

 と言うか、エイカさんが一方的にアプローチしてる感じだけど。

 頑張れ、恋する乙女。



「そんだけ強いのにまだ鍛錬してるんだねっ!!」

「なに、超えるべき者が世界最強だからな。故に、鍛錬は欠かせぬ」

「あははっ!! 頑張り屋さんだねっ!!」

「お前に言われると複雑な気分だな……」

「何せ天才だからねっ!! どやぁっ!?」

「うむ。やはり良い女だな」



 そしてこちらは何やらよく分からない雰囲気のレンジュさんとルウザさん。

 二人とも朗らかで、先程まで真剣勝負をしていたようには見えない。

 てかどやってるレンジュさん可愛いなー。言わないけど。




 そんな穏やかな昼下がりに。


「……オウカさん。ちょっとこちらへ。説明を求めます」


 カノンさん達が帰ってきた。


 あ、やべ。あの雰囲気は激おこだ。

 ……とりあえず、行くか。



「どもです。てか何で私指名なんですか?」

「この現状、どうせオウカさんが絡んでいるんでしょう?」

「その信頼が今は辛いです……」


 私ならやると信じきっている目だ。

 いや、大正解なんだけどさ。


「えーと。なんかいきなり店に来て、王城に案内して欲しいと頼まれまして」

「それで連れてきたんですか? 魔王軍四天王を二人も?」

「危なくはないかなーって」

「……見たところ危険性は無いようですが。もう少し危機感を持ってください」


 危機感持ってますよ。今バリバリ仕事してます。


「と言うか、あの二人は何故こんなに馴染んでいるのですか……ここは一応敵地なのでは?」

「んー。そういや、そこんとこどうなのかな……ルウザさーん! フレイアさーん!」

「おう、英雄殿のお帰りか。お邪魔している」

「あ、おかえりなさーい」


 快活な笑顔のルウザさんと、ニコニコ幸せそうなフレイアさんが、揃ってこちらにやってきた。


「あの、お二人的にここって敵地になるんですか?」

「……うん? 何故だ?」

「や、だって。二人とも魔王軍四天王でしょ?」

「ああ、そういう事か。俺は強さを求めていただけで、四天王になったのは成り行きだ。実質はただの剣士に過ぎぬ」

「私はそもそも辞めたがってたのに、周りに無理やり働かされてましたから……」

「だそうですよ、カノンさん」

「……なるほど。またそういうパターンですか」


 オウカさんが絡むと世界が平和になりますね、とため息をつかれた。

 え、なに、私のせいなの?


「オウカちゃんはあれか、周りを善人にする加護でも持ってるのか?」


 呆れた顔で頭を掻きながら、アレイさんが呟いた。


 いやいやいや。


「んな訳無いでしょ。英雄でもあるまいし」

「英雄だろ、お前」

「は? ただの町娘捕まえてなんて事言うんですか。撃ちますよ?」

「ただの町娘は魔王軍を一人で潰したりしねぇよ」

「然り。オウカは英雄だろう」

「あの、私もオウカさんは英雄だと思ってました」

「なんて事言うんですか!?」


 魔王軍四天王にも言われた!?


 いや待て、その認識はおかしいから!


「オウカちゃん、は。そろそろ、認めるべきだと。思う、よ?」

「カエデさんまで!? あれ、私の味方は!?」

「残念ながら誰もいませんね……」

「そんな馬鹿な……あ、レンジュさん! レンジュさんは私の味方ですよねっ!?」

「…………えっと。ごめんねっ!!」

「まさかの裏切り!?」


 レンジュさんなら味方になってくれると思ったのに……


 てゆかマジで、周りの評価がおかしいだけなんだってば。


「うーにゅ。解せぬ……あ、それより、買い物行ってたんですか?」

「ええ、ちょっと服を買いに街まで」


 ほほう? この二人を連れて、服を買い行っただと?


「カノンさん、それデートですよね? ねえ、デートですよね?」

「楽しかった、よ」

「よしアレイさん、ちょっと向こうでお話しましょうか」

「何でだ!?」

「うるせぇハーレム野郎。風穴空けてやる」

「理不尽すぎねぇか!?」


 どちらかとは言わない。両方よこせ。

 美人(カノンさん)美少女(カエデさん)に挟まれてデートとか……

 自分だけずるい!


「あの……毎度思うのですが、オウカさんってやはり女性が好きなのでは?」

「可愛いものと綺麗なものが好きなだけです!」

「うわ、本人たちの目の前で断言しやがったな、こいつ」


 あ、二人とも照れて俯いてる。

 やっぱ可愛いなー。もっと言いたくなるじゃん。


「だって! 美女と美少女じゃん!」

「……まあ、見た目のレベルが相当高いのは認めよう。中身はアレだが」

「お兄様、一言余計です」

「アレイさん、は。失言が多いよ、ね」


 あ、なんかちょっと空気が重くなった。

 んー。私は中身含めて可愛いと思うんだけどなー。


「ふむ? アレイ殿はどちらと結婚されているのかな?」

「両方ではないでしょーか。仲良さそうですしー」

「いやいや!? 妹と妹分だからな!?」

「ほう。それはまた……いや、嗜好はそれぞれ。俺からは何も言うまい」

「真実の愛の前には多少の障害なんて関係ない……素敵ですねぇー」

「いや待てお前ら、何かがおかしいだろ!」


 この場合、おかしいのはアレイさんだと思う。

 てか何が不満なんだ、この男。


「……そうですね。手っ取り早く既成事実を作ってしまえば良いだけの話ですね」

「私はその……恥ずかしいから、カノンさんの、後がいい、な」

「待て、お前ら何の話を……おいカエデ、体が動かないんだが? なぁ、冗談だよな?」

「さぁお兄様。私の寝室へ行きましょうか」

「ちょっと、ドキドキする、ね」


 うわぁ。カノンさん、ガチな顔してる。

 そして頬を染めたカエデさんはただただ可愛い。


「法律など後から変えてしまえば良いのです。さぁ、行きますよ」

「大丈夫。絶対動けないか、ら」

「レンジュ! ツカサ! 助けてくれ! 頼むから!」

「…話がよく分からないけど、助けた方が良いのかな?」

「ツカサ君、そんなことよりこっちのクッキー、美味しいですよ?」

「…あ、ほんとだ」

「にゃははっ!! アタシは後で参加しに行くねっ!!」


 この場にアレイさんの味方はいないようだ。

 いやまー当たり前だけど。


「ちょ、お前ら、この……来い! 『神造鉄杭(アガートラーム)』!」


 おお。カエデさんの拘束を振り切った。やるなーアレイさん。

 カノンさんの障壁もぶち抜いて逃げてったなー。

 ……しかしまー。なんて勿体ないことを。


「逃しましたか……やはりお酒を飲ませて泥酔させる方法が一番でしょうか」

「私はまだ、飲めないか、ら。難しいか、な」

「ふむ。プランを建て直しましょうか」

「そうだ、ね。みんな、また今度、ね」


 ……プランて。なんか日増しに過激になってないか、あの人たち。


 まーいいや。触らぬ神に祟りなし。とりあえず、紅茶が冷めないうちに飲んじゃおう。

 お菓子も美味しいし。良きかな良きかな。


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