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184話


 オウカ食堂本店。

 今日はシフトが入ってる日なので堂々とお店に入り、厨房で昼の仕込みをしている。


 野菜の皮をむいて、肉や野菜を切って調味液に浸し、せっせと調理していく。

 昼になったら休憩を挟んでカウンターの子と交代。

 最近はみんな慣れてきたもので、カウンターも厨房もどちらも兼任出来る子が増えてきた。

 ついでに最近、配達サービスも開始したので、みんな楽しそうに仕事をしている。

 

 この配達サービス、店側にもお客さん側にもかなり人気がある。

 お店の子は配達すると大体お菓子を貰ってくるし、お客さんからしたら小さな子が頑張って運んでくる姿を見て癒されるんだとか。

 まあ、皆が幸せならそれでいいけどさ。なんだかなーって思わなくもない。


 王都の一角で集団生活してた子達もお店に慣れてきて、みんな頑張って仕事をこなしている。

 大変そうだけど、肉付きも戻ってきて、笑顔が増えてきている。

 たまにみんなで他の孤児の子がいないか探し回って、見つけたらフローラちゃんに報告して雇い入れているようだ。


 段々と良い方向に変わってきている。

 お店も、みんなも。とても良い事だ。


 てか既に私ノータッチだし。

 いい加減フローラちゃんは店長を名乗るべきじゃないかな。



「あのー……すみませーん。注文よろしいですか?」

「あ、はい! いらっしゃいま……せ?」



 お客さんの声に応えて慌てて視線を戻すと。

 見覚えのある金髪のお兄さんと赤髪のお姉さん。

 魔王軍四天王の二人の姿があった。

 ルウザさんは真面目な顔でメニューを見ていて、フレイアさんは困ったような笑顔をしている。


 いや、何してんだ、こんな所で。


「オウカだったか。注文して良いか?」

「えーと……まあ、どうぞ」

「では俺は唐揚げ弁当をもらおう」

「私も同じものを……その、お願いします」

「はーい。唐揚げ二丁!」


 中に注文を告げて、改めて二人を見る。

 服装もゲルニカの時と同じ。ルウザさんは刀を提げている。


「で、何してんですか?」

「いや、王城に行く前に腹ごしらえをしようかとな」

「私はルウザさんに無理やり連れて来られました……」

「え。王城って……レンジュさんですか?」

「ああ。また立ち会いたいと思ってな。今度こそ(めと)ってみせよう」


 あー。そういや何か言ってたな。勝ったら求婚するって。

 レンジュさんの方も、自分より強ければ求婚を受けるみたいなこと言ってたらしいし。

 物騒なアプローチだなー。


「私はやることもないので、皆さんとお話でもしたいなーって」

「あー。話す機会もありませんでしたからね」

「皆さん優しそうだったので、少し楽しみです」


 んー。こうやって話してみると普通のお姉さんなんだけどなー。

 あ、でもよく見ると服の裾が揺らめいてる。やっぱり炎の精霊なんだなーこの人。


「あれ? てか、フレイアさんって普通にごはん食べられるんですか?」

「あ、はい。温度は調節できるんですよ」

「なるほど……あ、お弁当お待ちです!」

「ありがとうございます……はい、お代です」

「どもども」


 大銅貨を直接受け取ったけど、確かに熱くは無かった。

 んーむ。なんかよく分からんけど凄いなー。


「ああ、それでだな。オウカに頼みがあるのだが、時間はあるか?」

「あるっちゃありますけど……なんです?」

「王城へ案内してくれないか。俺達だけでは門前払いされる可能性があるからな」

「……えーと。できればお断りしたいんですが」

「ふむ。ならば、この場で土下座でもしたら良いか?」

「やめてくださいね!?」


 なんて事言い出すんだこの人!?

 そんなんされたらめっちゃ目立つじゃん!


「だーもー……分かりました。昼の仕事終わってからで良いですか?」

「ああ。よろしくお頼み申す」

「無理言っちゃってごめんなさいね?」

「いや、まあ、うん……いいですよ、別に」


 まだちょっと立ち寄りづらいけど……いい加減顔出さないと心配されそうだからなー。

 ま、ある意味ちょうど良いかなー。


「んじゃそこらで時間潰しててください。一時間くらいでピーク過ぎると思うんで」

「心得た。ではまた後程」

「また後でー」


 ルウザさんはくるりと回って歩いていき、フレイアさんは小さく手を振ってからその後を着いて行った。

 ……頼むから、変なトラブルは起こさないでね。




 さて。お昼時も終わってお客さんの波も引いてきたし。

 そろそろ二人を迎えに行って王城に向かうとしよう。


 ……って。思ってたんだけどね。



 なんか、冒険者達と一緒になってわいわい盛り上がってる金髪が居るんだけど。

 何してんだあの人。

 あーほら、フレイアさん、輪に入れなくて寂しそうにしてんじゃん。


「ルウザさん、何してんですか?」

「おう、すまぬ。英雄の話で盛り上がってしまってな。いや、話の分かる御仁(ごじん)ばかりだ」

「兄ちゃんも分かってるじゃねえか! 今度は酒でも飲みながら話そうぜ!」

「ああ、是非にとも。では達者でな」

「兄ちゃんも頑張れよ! 応援してっからよ!」

「ああ、(かたじけ)ない!」


 朗らかに別れを告げ、こちらに歩み寄ってきた。フレイアさんもその後に続いて来ている。

 仲間に入れてちょっと嬉しそうなのが不憫(ふびん)だ。

 そういやこの人、いつも不運に見舞われてるっぽいこと言ってたもんなー。

 優しくしてあげよう。うん。


「待たせたな。さあ、案内を頼む」

「すみません、お願いしますね」

「あいあいさ。んじゃ、行きましょっか」


 てな訳で、改めて。魔王軍四天王の二人を連れて、王城へ向かう事になった。


 ……てかこれ、本当に大丈夫かな。

 私、怒られたりしないよね?



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