174話
フリドールを後にして、その足でビストールへと向かった。
空を飛べば早く着くとは言え、少し疲れた。
到着後、そのままイグニスさんのお宅に向かうと、庭先に見慣れた魔族の姿があった。
「イグニスさーん」
「おお、オウカであるか。丁度良いところに来たな」
こちらの呼び掛けに気付き、大袈裟な仕草で両手を広げてくれた。
「海中作業型ゴーレム君の件であるが、今日から作業に入る予定である」
「わ。それってこないだの丸いヤツの新しいのですか?」
「あれより小さめではあるがな。見ていくか?」
「ぜひぜひ」
「では着いて来るが良い。こちらだ」
案内してもらった先には、大きな倉庫みたいな場所があった。
イグニスさんの後を追って中に入ると、日の当たらない暗がりの中で、丸っこい岩の塊に手足が生えたようなゴーレムがたくさん。
大きさは私より少し小さいくらい。
三十体はありそうなそれらは、全て同じ形をしている。
「これだ。前回の反省を活かし、遠隔で命令を出せるようにしてある」
イグニスさんが右手を上げると、ゴーレム達が揃って右手を上げた。
うわ、可愛い。なんかこう、おもちゃみたいだ。
「コイツ一体で馬五頭分の力がある。耐久性にも優れており、海の中でも地上と同じように動けるのが特徴だ」
「それ、かなり凄くないですか?」
「魔導列車型ゴーレム君に並び、吾輩の最高傑作でるな」
どうだとばかりに胸をはり、自慢げに語るイグニスさん。
実際、かなり凄いと思う。
これなら水の中に列車の線を引いていくのも大丈夫そうだ。
「さすがです。作業にどのくらい時間かかるか分かりますか?」
「さて。やってみないと分からないが……まあ、一ヶ月といったところであるかな」
「え、はやっ!?」
普通ならアスーラからゲルニカに行くだけでも一ヶ月はかかるのに。
そこから更に遠いフリドールまで作業しながらで一ヶ月しかかからないのか。
優秀すぎないか、この子達。
「何せ一般の冒険者より性能が高く、休みなく動けるからな」
「うわぁ。さすが天才!」
「もっと褒めて良いぞ。そうすると吾輩が喜ぶ」
「最高です! ありがとうございます!」
「うむ。悪い気はしないのである」
さすがゴーレム造りの第一人者。英雄に並ぶって言われるだけあるわ。
「さて、吾輩はコイツらを連れてアスーラに行こうと思うのだが、オウカはどうする?」
「うーん……今からだと遅くなりそうなんで、今日は遠慮しときます」
さすがに今からだと王都に戻るのが遅くなりすぎるし。
「そうか。吾輩はしばらくアスーラに滞在する予定だ。何かあれば冒険者ギルドに顔を出して欲しい」
「分かりました。よろしくお願いします」
「うむ、任せておけ」
腰に手を当てて胸を張り、ちょっと楽しそうにそう言ってくれた。
本当に頼もしいな、この人。
「あ、そういや代金なんですけど、お幾らくらいですか?」
「うむ? いや、元手はかかっておらんし、趣味のようなものだからな。特に必要はない」
「いやいや、こちらからお願いしてるんで。魔導列車の分も合わせて払いますよ」
何せこれだけの事をしてもらってる訳だし。
元手が無くてもその技術に対してお代は払いたいところだ。
「ふむ……であれば、一つ頼み事をしても良いか?」
「え? はい、私に出来ることなら」
「以前見せてもらった魔力光。あれをもう一度見せて欲しい」
「それは大丈夫ですけど……そんな事でいいんですか?」
「ああ、実に興味深かったからな。是非ともお願いしたい」
……なんかよく分かんないけど、そんな事でいいなら。
「リング、頼んだ」
「――Sakura-Drive Ready.」
「Ignition」
暗がりの中、鮮やかな桜色が舞い上がる。
「これでいいですか?」
「ああ。それと、これを持って欲しい」
これは……ステッキか? 棒の先に水晶みたいな球が着いている。
「魔力の質と量を計る魔導具でな。少し計測してみたいのだ」
「分かりました」
ステッキを両手で握る。
すると、先端の水晶が桜色に光輝いた。
眩しさを感じるほど明るいそれは、中央部分だけ、少し黒い。
「ふむ。やはりであるか」
「何がですか?」
「以前も感じたことであるが、オウカの魔力には魔族と似た特性があるようだな」
「……魔族と?」
確かに、心当たりはある。
私の魔力の源は魔王の欠片だ。
そして、魔王の魔力は、魔族の人と同じく黒かったらしい。
「実に興味深いな。オウカは魔族ではなかろう?」
「魔族ではないですが、私の魔力は魔王由来なので、そのせいかと」
「……なんと。よもや、そのような事があるのか。いやはや、世界は広いのであるな」
感嘆した様子で頷くイグニスさん。
私にはよく分からないが、彼にとっては何らかの成果があったようだ。
「とりあえず、これで良いですか?」
「ああ、データは取れたのでな。協力感謝する」
「いえ、このくらいならいつでも言ってください」
サクラドライブを解除する。
室内を照らしていた桜色と共に、魔力光が散っていった。
「んーと。他に何か無いですか?」
「いや、今のところは無いな。もしかしたらまた頼むかも知れんが」
「了解です。あ、でも、お礼代わりにお菓子置いていきますね」
「それは嬉しい。オウカの菓子は美味いからな」
アイテムボックスから幾つかの焼き菓子を取り出して手渡す。
イグニスさんはとても嬉しそうな様子で、それらを自分のアイテムボックスに収納した。
「それでは、吾輩は少し急ぐのでな。また会おう」
「はい、お気を付けて」
「うむ。ではな」
丸っこいゴーレム達を全部アイテムボックスに入れ、しゅたっと手を挙げてから空を飛んで去って行った。
相変わらず、面白い人だなー。
さてと。日が暮れる前に王都に戻るとしよう。
出来れば王城にも顔を出したい所だけど……先にご飯かなー。





