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165話


 国王陛下に報告に行った翌朝。

 冒険者ギルドに顔を出すと、グラッドさんに呼び止められた。


「おう、ちょっといいか」

「んや。どしました?」

「お前指定で凄いのが来てるんだが……何やらかした?」


 あん? 凄いの? なんだそれ。


「なに、指名依頼?」

「いや、内容としてはギルドから王城までの護衛になる……のか?」

「はあ? 歩いてすぐじゃん」

「まあ、客室に行け。行けば分かる」

「なんかよく分かんないけど……りょーかい」


 言われた通り客室に向かうと、ドアの前でリーザさんが待っていた。

 ……何か、凄い緊張してないか?


「リーザさん、どもです。中、誰が居るんですか?」

「……えーと。うん。入ればわかります」

「はあ……んじゃ、お邪魔しますね」



 ドアをコンコンと叩き、ドアをゆっくりと開いて。



「おう、来たか。昨日ぶりじゃの」

「オウカ、来たぞ。さあ、私の嫁に来い」



 そのままパタンとドアを閉めた。




 ……いま。ここに居ちゃ行けない人達が居なかったか?

 具体的には国のトップと種族のトップが。


「……リーザさん?」

「いえ、なんか先程いらっしゃって、オウカちゃんを待ってたのよ」

「……え、これ、私ひとりですか? 他の人は?」

「残念ながらオウカちゃん一人ですね……頑張ってください」

「……うぃ。まー無視出来ないですからね」



 再度ドアを開ける。

 二人揃ってお茶を飲んでいた。

 なんか、のほほんとしてらっしゃる。


「ええと……おはようございます」

「おはよう。待っておったぞ」

「うむ。今日も麗しいな、オウカ」

「……何してんですか、こんなとこで」


 いやまじで。護衛の人はどうしたのよ。


「いや、昨日コヤツから連絡を貰っての。朝一で会うことになったんで、ついでにオウカと話そうかとな」

「ああ、折角だからな」

「フットワーク軽すぎませんか。て言うか、お城の方は大丈夫なんですか?」

「おお、そう言えば誰にも伝えとらんかったな。いかんいかん」

「……。お待ちくださいね」


 アイテムボックスから通信機を取り出す。


「オウカより、カノンさん。国王陛下、いま冒険者ギルドにいます」

『カノンです。そちらでしたか……至急戻るよう伝えてください。護衛の者が半泣きで報告に来たんですよ……?』

「うわぁ……ご愁傷さまです。あ、ちなみにエルフの族長さんも一緒です」

『なるほど……(おおむ)ねの事態は把握しました。会議室の用意をしておきます』

「お願いします」


 なんか、後ろの方から走り回る音とか悲鳴とか聞こえてたけど、気にしない方向でいこう。


「……という事なので、行きましょうか」

「ワガママに付き合わせてすまんのう」

「すまんな。世話になる」

「自覚があるなら自重してください……」


 て言うか、お偉いさん二人の護衛が私一人でいいんだろうか。

 若干不安なんだけど。




 てなわけで、王城に向かうだけの簡単なお仕事である。

 そのはず、だったんだけど。


「おう、あの店の串焼きは美味いんじゃよ。どれ、ちょっと買って来ようかの」


 秒で寄り道しないでください、陛下。


「陛下、ダメです。今日は我慢してください。私が怒られます」

「オウカ、コレはなんだ?」

「ミノタウロスの串焼きですねー。気になるなら帰りに寄ってみては?」

「何でワシはダメでファルスは良いんじゃ……」

「王様だからですね。せめてちゃんとした護衛を着けてきてください」

「どうしてもダメかのう……」


 肩を落としてしょんぼりする国王陛下。

 なんか、悪いことをしてる気分になるんだけど…


「……今回だけですよ?」

「さすが、オウカは話が分かる。店主さんや、三本おくれ」

「へい、まいど……あれ、陛下じゃないですか。朝からは珍しいですね」


 いや待って。おっちゃん、少しは動揺しようよ。

 何普通に話してんの? 国王陛下だよ?


「ふふん。今日は護衛も特別なんじゃよ」

「お、オウカちゃんも一緒かい。そんならちょいとサービスしとくか」

「えーと……あざます」


 そんな普段の調子で言われても困るんだけど。

 どんだけ顔見せに来てんだ、陛下。


「そりゃありがたい。美味いところを頼む」

「陛下、うちのは全部絶品ですぜ」

「確かに。こりゃすまんかったな」

「はいよ、串焼き三本。お代はいつも通り王城に請求したら良いですかい?」

「おお、すまんがそれで頼む。いつもありがとうな」

「陛下に食って貰えるんだ、なんて事はないですや」



 ……いつも通りらしい。

 お城の人たち、苦労してんだろうなー。


「ほれ、オウカもファルスも、食べると良い」

「わ。ありがとうございます」 

「ありがたく頂こう…む、確かに美味いな」

「じゃろ?この街は美味いものが多いからの」


 言いながらホクホク顔で串焼きを頬張る国王様。

 うーん。こうやって見ると普通のお爺ちゃんなんだけどなー。

 お? この串焼き美味い。塩加減がちょうど良いわ。



 三人でモグモグしながら歩く。

 めっちゃシュールじゃないか、この状況。

 王様と、エルフの族長と、町娘が並んで串焼き食べてるとか。

 改めて、なんなんだ、この状況。


 とか、現状に対して悩んでいると、前の方から大声が聞こえてきた。



「泥棒だ! 誰か捕まえてくれ!」


 八百屋のおっちゃんの叫び声。

 見ると、小さな男の子がリンゴの山を抱えて走ってくる。

 ……王都で泥棒って、珍しいな。


「陛下、ちょっと下がっててもらえます?」


 言いながら拳銃を取り出し、非殺傷モードで足を狙い撃つ。

 見事に命中。少年はその場ですっ転んだ。


「おう、オウカちゃんありがとよ! おら、立て!」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 後ろ襟を掴まれて捕獲されながらも、必死で謝る少年。

 けれど、リンゴだけは手放さない。


 んー。なんか訳ありっぽいな。

 そんな中、陛下がゆっくりと前に出てきた。

 いやいや、危ないから下がっててほしいんだけど。


「ああ、すまんの、店主さんや。この子はワシがお使いを頼んだんじゃよ。しかし、お代を払うのを忘れていたようじゃな」

「国王陛下!? しかし……」

「申し訳なかったのう。城の方に請求してもらえんか?」

「……陛下がそう言うなら。おいお前、次は無いからな!」


 そう言って男の子を地面に降ろして、八百屋のおっちゃんは渋い顔で去っていった。

 ……ふうむ?


「さて、ちょいと向こうの広場まで付き合ってくれんかの?」

「……分かりました」

「陛下?」

「オウカもちょっと付き合っておくれ」

「んー。まあいいんですけど。私も聞きたいことありますし」

「ファルスも。すまんが少し時間をくれんか」

「私は構わん。気が済むまでやるといい」

「助かる。では行こうかの」


 少年の背中に優しく手を当てて、陛下は穏やかに微笑えんだ。




 広場で話を聞いたところ。

 この子は孤児院にも入れず、路地裏で集団生活をしているらしい。

 自分が一番年上で、他の子の食べるものを手に入れるために盗みを働いたようだ。


 かなり衝撃的な話だった。

 でも、そっか。孤児院も無制限に子どもを養える訳じゃないもんね。

 こんな子がまだたくさん居るんだろうか。


「むう……それはすまなかったのう。ワシがそこまで把握出来ておらんじゃった」

「違う! 陛下は悪くないんだ! 仲間の何人かは孤児院に入れてもらってる!

 俺達はただ、運がなかっただけなんだ……!」

「とりあえずそのリンゴは持って帰るが良い。住む場所についてはワシが何とかしよう」


 本当に申し訳無さそうに、彼の頭を撫でながら言う。

 この方が言ってるんだ。すぐに住む場所については何とかなるだろう。

 ……けど。私が気になってるのはそこじゃなくて。



「ねぇアンタさ。仕事は?」

「……どこも雇って貰えなかった。俺がまだ小さいから」

「その様子じゃご飯も食べれて無いよね?」

「皆もう二日も食べてない。だから、悪いと思ったけど盗んだんだ」

「ふむ……陛下、ごめんなさい。寄り道します」

「ほう。構わんが、どうする気じゃ?」

「子どもがお腹空いてんなら、やる事は一つです」




 住処にしている路地裏に案内してもらうと、十数人の子ども達が物陰に隠れていた。

 ……なるほど。思ったより多いな。

 こんなにたくさんの子達が、路頭に迷ってたのか。


「ほらアンタら、集まれ! 飯食うぞ!」


 アイテムボックスからストックしてた白パンとオークの串焼き、それにオウカ食堂のスープを出して並べる。

 幸いな事に量は足りそうだ。


「……お姉ちゃん。これ、食べていいの?」


 見た感じ一桁台の男の子が、不安そうに聞いてきた。


「さっさと食べちゃいなー。聞きたいこともあるし」

「……ありがとう。ありがとう!」


 みんなで地べたに座り込んで、凄い勢いで食べだした。

 ……痩せ方見る感じ、まじで普段から全然飯食ってないな、この子達。

 ほとんどの子がボロ布を来て、埃や泥で汚れている。


 親も住む場所も無い。そんな子たちが日々を生き抜く為に集まって、ここで生活しているのか。

 王都にも、こんな場所があった事を、もっと早く知りたかった。


「で、仲間はこれで全員?」

「うん……ありがとう。美味しかった」

「おっけ。そんなら、ちょっと全員着いて来い」

「……待ってくれ! 騎士団に連れていくなら、俺一人にしてほしい!

 コイツらは何も悪いことしてないんだ!」

「は? あー違う違う。いいから、着いて来な」



 ぞろぞろと裏通りを抜けて、全員を目的地まで連れていった。


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