163話
テストが終わって二日間。
実家でのんびり過ごして、再び王都へ戻ってきた。
帰宅する前にとりあえず冒険者ギルドに顔を出すと、笑顔のリーザさんにお出迎えされた。
「ども。戻りました」
「おかえりなさい。テストはどうでした?」
「何とかなりました!」
「それは良かったです。ところで、なんですけど」
「……え、何ですか? 嫌な予感がするんですけど」
この流れは知ってる。
何か頼まれる時のやつだ。
「いえ、なんて言うか……採取依頼と常駐討伐依頼が溜まってまして」
「ありゃ。珍しいですね」
「王都の近くの森にエルフが住み始めたらしいんですよ。それで、こちらにも影響が出てるんですよね」
「……行けと?」
「実は国王様直々の指名依頼でして」
……陛下。絶対楽しんでるでしょ。
いやまあ、いいんだけど。
命令とかじゃなくても、あの方のお願いなら引き受けるし。
「まあ、話し合いってんなら行きます」
「一応あちらには、国王様からの手紙を渡してくれたら大丈夫です。
ただ、好戦的と言うか……話を聞いてくれないらしいです」
「うっわあ。また面倒くさそうな……まーとりあえず行ってきますね」
「ありがとうございます」
リーザさんはニコリと笑顔で見送ってくれた。
なーんか、陛下のお願いって断りにくいんだよなー。
凄い方だし、尊敬出来るし、優しいし。
それに、私を頼りにしてくれてるのが分かるもんなー。
……しゃーない。とりあえず、森に行くか。
エルフ。森人とも呼ばれる。
外見が美しく、耳が長い。
ほとんどのエルフが弓と魔法に優れている。
そして、話が通じない。
別に自分達の方が優秀だと思ってるとか、そういう理由ではなく。
ただ単に思い込みの強い種族なのだ。
かなり突飛な考え方をするらしい。
実際、エルフのファシリカさんは、中々にぶっ飛んだ人だった。
なので、まあ。
こうなるのは何となく分かっちゃいた。
「貴様! この里に何の用だ!」
「里に害を成すなら容赦はしない!」
「エルフの秘薬は渡さんぞ!」
日が遮られるほど深い森の中。
現在、十人くらいの武装したエルフに取り囲まれている。
みんな殺気立っていて、凄い威圧感だ。
多分この人たち全員、かなり強い。
うん。こんな人達に囲まれたら、そりゃまあ逃げるよね。
……私の場合、もっと怖い思いした事あるから慣れてるけど。
んー。しかし、どうしたもんかなー。
とりあえず、素直に用件を伝えてみるか。
「あのー。私、手紙を持ってきただけなんですけど……誰に渡したら良いですか?」
「手紙だと? 本当なら見せてみろ!」
「はい、どぞ」
「……なんだ、本当に手紙だな。何が書かれている?」
「知らないです。王都の国王陛下からエルフさん達に渡して欲しいとしか聞いてません」
分かったなら弓を下ろしてくれないかなー。
「……嘘は無いようだな。では少し待て。族長を呼んでくる」
「なんだ、ということは客人か? 我々の敵ではないのか?」
「なんで敵対しなきゃなんないんですか。私は仲良くしたいですよ」
「そうか。ならば我らは友だ。歓迎しよう」
「えーと。ありがとうございます……?」
みんな揃って弓を下ろしてくれた。
うん。悪い人たちではないんだよな。ファシリカさんの時も思ったけど。
なんかね、ちょっと面倒臭いけど、話が通じないって訳じゃないんだよね。
かなり分かりにくいけど。
「友よ。もてなしたい所ではあるが、いま里に備蓄が無くてな。すまない」
「あれ、そうなんですか」
「この森は我らの故郷程ではないが恵みに溢れている。しかし、それでも足りんのだ。
森の規模の割には魔物も少ないからな」
あー。王都の冒険者ギルドから定期討伐依頼出てるからなー。
その辺、ちょっとグラッドさんと話してみるか。
「それ、王都戻ったら話してみます。なんとかなるかもしれません」
「おお、それは助かる」
「ただ細かいことは偉い人達で話し合ってくださいね。詳しいことは分からないんで」
「ああ、後で族長に伝えておこう」
「……とりあえず、私が持ってる食材置いていくんで、皆さんで食べてください…よっと」
アイテムボックスに収納しておいた食材を半分くらい出した。
お肉、野菜、お魚。
アスーラやビストールで仕入れた食材のオンパレードだ。
これだけありゃしばらく分にはなるでしょ。
「なんと。これは助かるが……良いのか?」
「良いも悪いもないでしょ。困ってるんなら助け合う、それが我が家の教えです」
誰かが困っていて、自分に余裕があるなら、できる範囲で助ける。
そしてそれは、巡り巡っていつか自分に返ってくる。
それがこの世界の決まりだと、そう教わってきた。
綺麗事だって事は分かっている。それでも。
私の憧れた人の生き方だから。
私はそれを、正しいと思っている。
「友よ。名をなんと言う」
「オウカです」
「オウカ。我々は受けた恩は忘れない。必ず報いると誓おう」
「あー……できれば、他の困ってる人達を助けてあげてください。そっちの方が嬉しいです」
「そうか……ならば我々はその考えを尊重する。貧しきものを助け、困窮するものを導こう」
胸に手を当てて、頭を下げられた。
確か、エルフの人の敬礼的なものだったと思う。
同じ動作で頭を下げると、少し嬉しそうな顔をされた。
「ほう……黒髪か。客人よ、そなたは英雄か?」
そんな中。
奥の方からやって来た、一際美しい男の人に声を掛けられた。
この人が族長さんかな?それにしちゃ若く見えるけど…
エルフの見た目と年齢は一致しないらしいからなー。
「私はオウカ、ただの町娘です。英雄ではありません」
「そうか。私はファルスだ。それで、手紙を読んだのだが」
「ありがとうございます。何て書かれてました?」
「そちら側に争う意思は無い。我々と共存したいと、そう書かれていた。
しかし、何を持って信じれば良い?」
……んー? ふむ。難しい事はよく分かんないけど、信じる理由かー。
「まー、なんとなくで良ければ」
「話してみよ」
「騎士団では無く私一人で手紙を持ってきたこと。それが証明になりません?」
「ふむ。その心は?」
「戦う意思があるなら私一人を寄越さないはずです。王国騎士団や英雄を向かわせればそれで終わりですから。
それをせず、一人の冒険者に手紙を預けたこと。それが国王陛下が貴方たちを信頼している証かなーと」
まあぶっちゃけ、最悪の場合でも私一人なら飛んで逃げればいいってのはあるだろうけどね。
「……なるほど。娘、いや、オウカ。
お前は聡いな。それに心が強く、その芯まで美しい。
正に英雄に相応しいと言えよう」
「は?」
「嫁に来い。我々の同胞となってほしい」
「何言ってんだアンタ」
あ、やべ。素で突っ込んじゃった。
「その強気なところもまた良し。どうだ、私と番にならないか?」
「お断りします」
「そうか……ならば、また今度求婚しよう。ともあれ、要件は分かった。私自ら王都へ赴こう」
いや、もう求婚はいらないんだけど。
この人、笑顔から表情変わらないからマジか冗談か分かりにくい。
「え、てか王都に来てくれるんですか?」
「オウカは一人で我々の元へ来てくれた。ならば私も応えるべきだろう」
「そうですか。ありがとうございます」
「よろしく頼む。では、今日はこの辺りにしようか」
「はい。ではまた」
「ああ。再会を楽しみにしている」
さてさて。とりあえず、これで依頼は完了、と。
……でもこれ、国王陛下に直接報告しなきゃならないんだよね?
うわぁ。いや、すごい良い人なんだけど、恐縮しちゃうんだよなー。
うん、まー、仕方ない。
気は進まないけど……行くか。





