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155話


 フリドールから東西南に伸びる街道。

 その周りを中心に、雪熊とかオークの群れとか、

 他の人が困りそうな魔物を狩り続けて早数時間。

 近くにいるのは大体狩り尽くした。


 うし。日も暮れて来たし、このくらいにしとくか。

 全部狩り尽くしちゃうと他の冒険者さんが困るからね。

 それに、当面のお肉は確保出来たと思うし。



 街門を通り、人で賑わっている冒険者ギルドへ。


「アルカさん、戻りましたー」

「あらぁ…おかえりなさいぃ…」

「たくさん狩ってきました。裏に持っていきますねー」

「じゃあぁ…そっちからぁ…討伐部位をぉ…確認するわねぇ…」

「あいあいさっ!」


 アルカさんに今日の成果を話した後、ギルドの裏手に回る。

 今日も解体のおっちゃんは元気そうに働いていた。


「おっちゃーん! 今日もお願いしまーす!」

「おう、来たな! しかしまた、随分な量持ってきたなぁ、おい! 解体終わるの多分明日になるだろが、前金はいるか?」

「や、大丈夫です。それより、無理しない感じでお願いしますね」

「任せとけ!」


 ぶんぶんと手を振って、もっかいギルドに戻った。

 あー。暖かいわー。


 暖炉に手をかざして暖まっていると、不意に影がさした。

 振り向くと、筋肉。少し顔を上げると、モーバさんがニカっと笑っていた。


「おう、嬢ちゃん。今まで狩りしてたのか?」

「はい、そですよー」

「こんな時間までありがとよ。これは礼だ、ほれ」


 ぽん、と。小さめな干し芋をもらった。


「おー。ありがとうございます」

「他に甘い物なんぞ持っとらんからな。ソイツで勘弁してくれ」

「私、干し芋好きですよ。実家でもよく作ってましたし」

「そうかい。そりゃあ良かった」


 日持ちもするし、美味しいし。

 しかも簡単にたくさん作れるし。

 干し芋は教会ではメジャーなおやつだった。

 砂糖とかは高いし、あっちでは滅多に使わなかったなー。


 あ、てかこの干し芋うまっ!

 蜂蜜に漬けてんのかな。すっごい甘い。

 こっちだとメジャーなのかな。今度真似してみよ。


 ……うん? てか、なんだ?

 なんか、周りからめっちゃ見られてる気がすんだけど。


 ……まーいっか。美味しいは正義だし、細かい事は気にしない。

 もぐもぐ。あ、噛むほど旨みが出てくる。


「……ねえ、お嬢ちゃん」

「むぐ? んぐ……はい、私ですか?」

「良かったらこれ、貰ってくれない? 私にはちょっと甘すぎたみたい」

「ありがとうございます。わ、チョコクッキーだ」


 しかもこれ、ちょっとお高いやつだ。

 サクサクでうまうまだ。作りたてなのかな。

 ほんのり苦いのが甘さを引き立てて良い感じ。


「……おい、お前アレ持ってたよな?」

「ああ …なあ、嬢ちゃん。こっちも貰ってくれねえか?」

「わ。葡萄(ぶどう)パンですかこれ」

「ああ、ちと買いすぎちまってな。食ってくれ」

「嬉しいです。ありがとうございます!」


 干し葡萄がたくさん入ってるやつだー。

 町のパン屋さんでも作ってたなー。

 あ、これも美味しい。黒パンだけど甘みと酸味が丁度いい。

 クルミも入っててコリコリする。

 



「……美味そうに食うな」

「……なんか、アレだな」

「……ああ。和むな」

「……ちょっと俺、菓子屋行ってくるわ」




 なんか、久しぶりにたくさん食べ物をもらった日だった。

 うん、まあ。なんか目線が気になったけど……

 美味しかったから、まーいっか。




 ……で、まあ。翌日。

 冒険者ギルドに顔を出すと、皆から温かい目で迎えられた。

 なんかみんな、私を見てソワソワしてる気がする。


「……ねーアルカさん。これ、なんですか?」

「なんかねぇ…お菓子屋さんの売上がぁ…今までに無いくらいぃ…上がったらしいわねぇ…」

「……は? お菓子屋さん?」

「みんなぁ…分かりやすいわねぇ…」


 ……どゆこと?


「みんなぁ…楽しそうでぇ…何よりだわぁ…」

「よく分かりませんけど。まあ、みんな幸せなら良かったです」

「これもぉ…英雄の力なのかしらねぇ…」


 なんか頭撫でられた。

 解せぬ。


「な、なあ嬢ちゃん」

「はい?」

「良かったらこれ、貰っちゃくれないか?」


 あれ。これ、チョコレート?

 なんで冒険者さんが?


「最近流行りでな。甘い物は疲れに効くってんで買ったは良いが、買いすぎちまってな」

「……はあ。ありがとうございます」


 なんだろ。みんなうっかり買いすぎじゃないか?

 いや、ありがたいんだけどさ。


「おい、こっちも食ってくれ」

「嬢ちゃん、すまねぇがこっちも頼む」

「暖かいココアはお好きかしら。奢るからこっちで飲まない?」

「あ、お前狡いぞ! 嬢ちゃん、こっちはケーキがあるぞ!」

「こっちはフルーツだ! 新鮮な採れたてだぜ!」


 チョコレートをきっかけに、ギルド内が湧いた。

 え、いや、なにごと?


「あらぁ…みんなうっかりねぇ…」

「いや、うっかりってレベルですか、これ」

「そういう事もぉ…あるのよぉ…」

「……そですか。よく分かんないですけど…」


 まー、せっかくなんで頂きますか。

 美味しいものに罪は無いからね。



「ほれ嬢ちゃん、これも食え!」

「わわ、ありがとうございます。おお、この辺りの果物ですか? どもです!」


 おー。変な形だけど、甘酸っぱくて美味しい。


 んで、あっちは……わ、ココアだ。寒いから嬉しい。


「お姉さん、ごちです!」

「そう、良かったわ」


 なんか穏やかに笑いながら頭を撫でられた。


 え、なんで撫でんの?

 いやまあ、別にいいけど。なんなんだ?


「おう、まだ食えるかい」

「え? はい。このくらいなら余裕で入りますよ。甘いものは別腹ですし」


 それに美味しいは正義だし。うまうま。


「じゃあほら、これも食べな」

「いや待って。さすがにホールケーキは……」


 ……あれ。案外いけるかも。

 これ、さっぱりしてて食べやすいな。


「こっちはどうだ? バームクーヘンって言ってな。英雄から伝わった菓子だ」

「ほえー……面白い形ですね。穴空いてるし、でっかいドーナツみたいだー。あざます!」


 おお、これも美味しいな。どうやって作ってんだろ、これ。

 薄いケーキを巻いたみたいな見た目してるけど、よう分からんな。


「よっし! みんな、乾杯するか!」

「俺たちの英雄に! 乾杯!」

「乾杯!」


 え、あれ? いや、私を囲んで昼間っから宴会するのやめてくれないかな。

 てか待って、英雄とかじゃないから。

 ただの町娘だから。ねえちょっと、聞いてってば。ねえ。




「みんなぁ…ほんと分かりやすいわねぇ…」


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― 新着の感想 ―
[一言] 可愛いは正義(笑)。皆んなに愛でられまくったオウカちゃんも作者さんも、どうぞ良いお年を。
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