151話
キラキラ輝くフリドールに戻り、門番さんに挨拶をしてギルドに戻った。
やはり暖かい場所は落ち着く。
ここ、綺麗だけど寒すぎんだよね。
「あらぁ…どうしたのぉ…?」
「アルカさん、どもです。熊倒してきたんで報告に来ました」
「もう終わったのぉ…? すごいわぁ…」
「まるっと持ってきたんですけど、どこに持っていけば良いですか?」
「じゃあぁ…裏にお願いぃ…」
「はーい」
言われた通りに裏手に回ると、大きな解体場があった。
ほほう。こっちではギルドで直接解体すんのか。
「こんちわー。獲物狩って来たんで解体お願いしますー」
「おう、じゃあ見せてみな」
「これなんですけど」
アイテムボックスから雪熊を出す。
こうやって見ると中々デカイな、こいつら。
「こいつぁ……本当に嬢ちゃんが狩ったのか?」
「そですよ。二匹いたんで一緒にやっちゃいました」
「ほう……凄いな。こんだけ綺麗な状態だと買取額は期待していいぜ」
「あ、美味しいとこだけ持ち帰りで良いですか?」
「任せとけ。しっかり解体してやるよ」
「よろしくお願いしますー」
奥から若い男の人の人が数人出てきて、雪熊を抱えて持っていった。
うわぁ。大変そうだけど……手伝えることないしなー。
「じゃあまた後で顔出しますね」
「ああそうだ、嬢ちゃんこれ持っていきな。俺は食わねえからよ」
「……どもです」
半透明な飴をもらった。
なんだろ。なんでみんな飴くれんのかなー。
いや、嬉しいけど……なんか子ども扱いされてる気がして複雑だわ。
解体をお任せして、もっかい冒険者ギルドへ。
他に何か依頼が無いか見てると、お馴染みのゴブリンから冬兎や雪狼の討伐まで色々ある。
代わりに、採取依頼がかなり少ない。
もしかしたら薬草として使える植物があまり無いんだろうか。
ふむ…だとしたら王都とは逆だなー。
あっちは薬草の採取依頼の方が多いし。
「おや、オウカさん。ちょうど良かった。いま大丈夫ですかな?」
「あれ、ロウディさん? どしました?」
「いえ、店舗の話なのですが。思いの外早く着手できそうでして」
「おー。そうなんですかー」
「貴女の名前を出した途端、話がスムーズに進み出しましてな。
皆、オウカ食堂を楽しみにしているようです」
「それは嬉しいですけど……え、私ってどんな扱いなんですか?」
昨日もちょっと思ったけど……何か対応がおかしくないか?
名前出しただけで影響あるって何なのよ。
「どんなと言われましてもな。十一番目の英雄『夜桜幻想』の名は、フリドールでは知らぬものはおりませんぞ?」
「……は? なんで?」
「ここは娯楽が少ないですからな。英雄譚の類はとても好まれるのです。
特に貴女の話はほとんどの吟遊詩人が唄っております。
物珍しさもあり、噂が広まるのに時間はかかりませんでしたよ」
「はあ!? 吟遊詩人!?」
待って待って!? それってアレだよね!? 英雄の話とか唄い歩く人達だよね!?
それがなんでただの町娘の話を持ちネタにしてんのよ!
つかそれ聞いて喜ぶ人がいる方が驚きだけど!?
「私も聞いたことがありますが…何でも、百匹近いゴブリンの軍団やオーガの群れを一人で倒し、最強と名高い勇者や騎士団長と互角に立ち会ったとか。
更には身寄りのない孤児を雇って食堂を開き、ユークリアの流通発展にも力を注いでいると。
いやはや、正に英雄に相応しい唄でしたな」
……いや、ほんとに待とうか。
前半の誇張も酷いけど、特に後半。
それやったの私じゃないよね?
みんなが勝手に盛り上がってやっただけなんだけど…
何で全部私のせいになってんのよ、おい。
「いやあの……私自身はただの町娘なんですが」
「おお、オウカさんもご自身を町娘と仰られるのですな。
その謙虚さ、アレイさんを思い出します」
「アレイさん? あれ、知り合いなんですか?」
「以前雪熊の群れに街が襲われたことがありましてな。その時に助けて頂いたのです。
彼はご自身の事をただの一般人だと仰っていましたが……あのような方を真の英雄と呼ぶのでしょうな」
「あー……確かに、アレイさんっぽいですね」
前に列車でも言っていた。
戦う力があり、守りたいものがあり。
そして引けない理由があるから、戦うのだと。
うん。それは立派で凄いことだと思う。
真の英雄。確かに、それもそうだと思う。
けれど。それを私に当て嵌めるのは辞めてくんないかな。
「うーん……その吟遊詩人の唄、だいぶ事実と異なってるんですけど……」
「それは皆も分かっております。ですが、真実も含まれている。
違いますかな?」
「う……それは、そうですけど」
「であれば、オウカさんは英雄です。少なくとも、このフリドールではね」
なんか、上手く丸め込まれた気がする。納得いかん。
「そういうものだと思ってください。なに、害はありません」
「……それは、そうかもしれませんけど」
英雄かー。英雄ねー。どう考えても柄じゃないんだけどなー。
戦いとか怖いし。痛いの嫌だし。
正直なところ、サクラドライブがあるから冒険者やれてるだけだし。
あーでも。周りに恵まれてるとは思う。
知り合いはみんな、良い人ばっかりだし。
……たまにって言うか、結構な頻度で暴走してる気がするけど。
「うーん。まー気にしないことにします」
「それが宜しいかと。ひとまず、店舗の方は問題は無いですな。
あとは流通ルートや人員を整えるだけです」
「ありがとうございます。とりあえず一旦王都に戻ってから話を纏めてきますね」
あっちでフローラちゃんとかに相談しなきゃなんないし。
でもこんなに早くお店確保できるとは思わなかったな。
「分かりました。ちなみに、何日か滞在されるご予定ですかな?」
「えっと、そうですねー。せっかくなんで特産品とか色々見たいですし」
「それでしたら、実は街の西に観光地となっている草原がありまして。
この辺りでしか見れない絶景ですので、是非足を運んでみては如何でしょうか」
「お。そうなんですか。ありがとうございます」
観光地かー。それは行ってみたいかも。
フリドールでしか見れないっていうのも気になるし。
……それはさておき。
「ちなみに。食材とか調味料を売ってるお店って、どこにあります?」
私的にはこっちも気になるところだ。
王都とは違って露店がないから分かりにくいんだよね。
この辺の郷土料理とかも知りたいし。
いつでもどこでも、美味しいは正義なのだ。





