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146話


 お昼時。

 オウカ食堂でこっそり夜の分の仕込みをしていると、カノンさんから通信機で呼び出しをくらった。

 お説教かと思ったけど、どうやら違うらしい。

 王城の訓練所に来て欲しいとの事だったので、とりあえず行ってみた。


「……は? 手合わせ、ですか?」

「お兄様が気になることがあるようなので、お願いできますか?」

「……まあ、カノンさんの頼みなら。相手は誰ですか?」

「ハヤト君に頼もうかと」

「げ。んー……まあ、分かりました」



 という訳で。

 いつかの再現のように、長い黒髪を後ろで束ねた英雄と向かい合っている。

 但し、私は拳銃で、ハヤトさんはその辺の木の枝を持って。


「んでは。全力で行くんで、手加減してくださいね」

「これ以上どうやって手加減せえと……」

「え、だってハヤトさん、木の枝(それ)で岩とか斬れますよね?」

「いやいや、んな訳ないやろ」


 おお。突っ込まれた。さすが全自動ツッコミ英雄。


「でもレンジュさんは斬れるらしいですよ?」

「あの人と一緒にせんどいてや」

「どっも英雄だし、変わらない気がしますけど」

「ならオウカちゃんも音速越えられるんか?」

「や、私はただの町娘なんで」


 言いながら、拳銃を抜く。

 いつ見ても隙がないな、この人。

 かと言ってピリピリしてる訳でもなくて、とても自然に立っている。


 天賦(てんぶ)の才で剣を振るう英雄。

 前回はまるで太刀打ち出来なかったけど、こんだけハンデがあれば。


 ……一発くらい、当てられるといーなー。




「リング、頼んだ」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」



 桜色が舞う。いつもの光景。

 散りばめられる魔力光の中、構える。

 腰を沈め、左手を突き出し。

 右手は肘を上に逆手、顔の横。

 戦闘準備、完了。


「あーもー……しゃーない。やろかー」

「では、行きます。一緒に、踊ってくださいね」



 地を駆ける。低く、低く。

 遠距離からの銃撃は避けられる。ならば、近接距離から叩き込む。

 身を低くしながら飛び込み、まずは足元。

 体で覆い隠して見えないはずの銃撃を、半歩下がるだけで躱された。



「うわ、こわっ!? いきなりかい!!」



 加速。膝を突き出すも、受け流される。

 そのまま宙返り、逆さまになった視界の中、銃底を振り下ろす。


 容易く止められた。木の枝で。

 当たる瞬間に枝を引き、勢いを殺された。

 その奥に見える、悪戯な笑顔。


 ブースター起動。無理矢理押し込もうとするも、力を流された。

 前転しながら着地。

 回りながらの足払いは、軽く跳んで避けられた。



 全て、読まれている。これが『剣士』シマウチハヤトか。

 召喚された三日後に前騎士団長と互角に渡り合った、剣の申し子。

 強い。さすが、英雄。


「やっぱ当たりませんか」

「狙いがえげつないなー……怖い怖い」

「とりあえず一発でいいんで、当たってくれません?」

「いや、無理無理。死んでまうわ」


 よく言う。当たっても受け流せるくせに。

 ならば、これならどうだ。


「行きます、よっ!!」


 一足飛びに距離を詰め、左の銃底を突き出す。

 内側に流された。体の中で力を流し、回転。

 右足の後ろ回し蹴り。仰け反って避けられた。


 その腹を狙い、体を捻って左足の回し蹴り。

 やはり、木の枝で受け止められた。想定内。

 左足を軸にして地面と平行に回転。

 ブースター起動。加速した右の銃底を叩きつける。

 死角からの一撃。奇襲は、遅れて流れた彼の長髪を掠った。


 もう一押し。加速、回転。左銃底、左蹴り、右踵。

 全て回避される。でも、体勢が崩れた。

 狙い通り。地を蹴り飛ばし、前に跳ねる。


 剣の間合いの内側。両手の拳銃で、近距離からの射撃。

 最善のタイミングでの、奇襲。




「おおっと。あっぶなー」




 それを。

 枝の持ち手を使い、魔弾の軌道を逸らされた。



 マジでか。

 剣ならともかく、木の枝で近距離からの魔弾を逸らされるのは流石に想定外だ。

 

 驚きに一瞬動きが止まる。その隙を突き。



「もろたっ!!」



 両手の拳銃を弾き飛ばされた。


 サクラドライブが、切れる。その寸前。




「どっせぇい!!」





 桜色が舞い散る中での、勢いに乗ったドロップキック。


 咄嗟に振り上げられたハヤトさんの左腕を蹴り飛ばし。


 私は頭から地面に落ちた。




「………っ!! いったあっ!!」



 両手で頭を抑えて転がり回る。

 分かっちゃいたけど、めっちゃ痛い!

 

「……あー。大丈夫か?」

「めたんこ痛いです……でも、当ててやりました!」

「お、おう。せやな」


 勝利のブイサインを突き付けると、軽く引かれた。

 ふーんだ。いいもんね、一発当てたし。


「いやー……前のレンジュさんの時も思ったけど、躊躇(ちゅうちょ)なく捨て身の攻撃するんやなー」

「あれは二度とやりません。絶対に」


 死ぬほど怖かったからね。

 それに、あの時と今回は違うと思う。

 外しても死なないし。


「そゆとこ、アレイさんに似とるよなー」

「あんなのと一緒にしないでください」

「俺から見たら同類や」

「そんな馬鹿な」


 だから私は龍に単騎特攻なんてしないってば。


「……んで? アレイさん、なんか分かったんか?」

「お疲れさん。分かったと言うか、分からないと言うか」

「んー? どゆことです?」

「いやな。オウカちゃん、魔王のカケラ持ってるんだよな?」

「らしいですねー」

「なのに、魔力光に黒が混じってないんだ」


 うん? 黒?

 確かに私のは薄紅色だけど。


「俺の魔力光は元々青かったんだが、魔王を撃ち抜いた時にアレの魔力が混じったみたいでな。

 それ以来、魔力光に黒が混じって蒼色になったんだ」

「へー。あ、そか。私の魔力光、黒くないですね」

「それが分からん。魔王が元になってるなら黒が混じるはずなんだが」

「んー。我ながらよく分かんないですねー」


 てゆかイマイチ分かってないことが多いんだよね。

 リングに聞いても知らないみたいだし。


「まあ、マコト辺りに聞いてみるか。オウカちゃんも一応気にかけててくれ」

「あいあいさー。ところで、頑張った私にご褒美とか無いんですかね、カノンさん」

「ご褒美、ですか?」

「ハグとかキスとか」

「……ええと。頑張りましたね。よしよし」



 頭を撫でられた。

 ……まあ、うん。中々のご褒美だし、良しとしよう。




「ところで皆さん、お昼は食べましたか?」

「いや、まだやな」

「んしゃ、オウカ食堂王城支店、オープンしまーす」


 今日もストックを大放出してきた。

 

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