144話
「話は理解した。つまり、スクラップドールズってのは人造英雄の事なんだな?」
「セッカちゃんがそれっぽいこと言ってたよっ!!」
あと私の偽物はType-2って呼ばれてたかなっ!!」
「ふむ……少し厄介だな……」
王城。客室。
いつものように英雄達と私だけ集まっている。
そんな中、アレイさんが苦笑しながら言った。
「予想通り、偽英雄は十人いる可能性が高いってことだ。て事は、ツカサが出てくる」
「考えたくも無い事態ですね」
うわ。確かに、それはやだな。
ツカサさんの偽物とか、絶対会いたくない。
「仮に襲ってきたら本物をぶつけるが……問題は場所だな」
「荒地ならまだしも、王都の近くで戦ったら街が崩壊します」
たしかに。街、壊れちゃうもんね。
「だな。まあ、その時はカエデに転移してもらうか」
「分かった、けど」
「…魔法耐性。俺は敵意のある魔法は効かないよ」
「転移魔法なら行けると思うが……無理そうならツカサ、思いっきり殴り飛ばせ」
「…任せて。得意分野」
ほう。この人、物理だけじゃなくて魔法も効かないのか。
マジで無敵じゃん。さすが勇者。
「となると……面倒なのがマコトだな。何してくるかまったく読めん」
「まあ、本物も読めない所がありますからね」
「性格もそうだが、加護の範囲が広すぎる。最悪、上空から爆弾の雨を落としてくるぞ。
マコトに遭遇したら通信機も使えなくなる可能性があるしな……搦手に関しては最強だからな、アイツ」
え、何それ怖い。
まーどんな道具でも作れるって事は、何でも出来るって事だもんね。
……改めて、英雄ってヤバいなー。
「……んで。オウカちゃんは何してんだ?」
「ふぁっ?」
何って……ご飯作ってるだけなんだけど。
炒め鍋を振り、中身を舞わせる
そこに合わせ調味料を入れ、更に振ると、独特な香りが出てきた。
こっちらもうちょい炒めたら完成。
「アレイさんも食べます?」
「もらう……いや、そうじゃなくてな。何でいきなり料理なんてしだしたんだ」
「んー……まあ、思うところがありまして。お礼も兼ねて」
ご飯作ってると嫌なこととか吹っ飛んでくからね。
それにほら、レンジュさんにもお礼したいし。
かと言って二人きりだと何されるか分かんないし。
「はい、オークのピリ辛味噌炒めと鶏モモ肉の揚げ焼き、蒸し野菜のサラダごまドレッシング仕立てにポタージュスープでっす」
「…これ、ご飯が進むやつだね」
「ちょっと調理場からもらってこよっかなっ!!」
「あ、炊いたやつありますよ。食堂でも使ってるんで」
アイテムボックスから炊飯釜を取り出す。
炊きたてほかほかのまま収納出来るから便利だよね。
「……オウカちゃんも飯に関しては万能だよな」
「美味しいは正義ですからね。手は抜きませんよ」
「ね。もう、食べてもいいか、な」
「はい。ではご一緒に」
いただきます。
ご馳走様でした。
いやー……相変わらず、よく食べるなー。
お代わり分も綺麗に食べてくれるし、作りがいがあるわ。
あ、とりあえず、お皿洗っちゃおうかな。
「皿洗いまでここでやるのか…」
「すぐ洗った方が楽ですからねー」
「……まあとにかく、連絡を欠かさないようにな。特にオウカちゃんは出来るだけ気をつけようか」
「はーい。あ、デザート食べます? 冷やした桃のゼリーがありますけど」
今度は冷やしておいたデザートを取り出す。
いやー。便利だわ、これ。
温度変わらないのっていいよね。
「……もらおうか」
「他のみんなの分もありますよー。レンジュさんはこっち」
「わおっ!! これイカの塩辛じゃんっ!! ちょっとお酒取ってくるっ!!」
「お、いいな。俺の分も頼む」
「はいはーい。あと特製プリンは……全員ですね。りょーかいです」
とりあえず。今日も美味しいは正義だ。
てな訳で。
冒険者ギルドに立ち寄り、キッチンを借りて料理の続きを行っている。
「はいはーい。片っ端から持ってってくださいねー」
「オウカちゃん、今日は大盤振る舞いね」
「今日は料理の日なんですよ。うい、ガーリックシュリンプ、あがりましたー」
エビのニンニク炒めだ。これ、お酒のツマミとしても人気なんだよね。
「あら、エビ? 珍しいわね」
「アスーラで仕入れた新鮮なやつです。あ、雪魚のフライ、揚げたてですよー」
こっちはサックサクに揚げた雪魚のフライ。
特性の甘辛ソースも用意済だ。
「あらまあ、お魚まで。でもオウカちゃん?」
「はい? どしました?」
「作った傍から食べ尽くす人達が凄いのか、それに負けない速さで料理してるオウカちゃんが凄いのか、ちょっと判断しにくい状態なんですけど」
「んー? なんでも良いと思いますけどねー。はい、オークの煮込みスープと辛味チキンですよー」
スープは具材がとろけるまで煮込んだ贅沢な一品。
辛味チキンはそのまんま。旨辛だれに漬け込んだ手羽先を焼いたものである。
次々と料理を作っては、その全てを食べ尽くされる。
こんだけの種類にこんだけの量、普段は作れないから超楽しい。
よっし、麻婆茄子に肉野菜炒めでけた。
ついでに大鍋は……うん。ワイルドボアがいい感じに煮込まれてるわ。
ラム肉ももうそろそろ焼けるし、片手間に炒め飯でも作るかな。
「……オウカちゃんの職業がたまに分からなくなるわね」
「ただの町娘です、よっと」
炒め鍋を振るって、ザザっと中身を回す。
手首のスナップを効かせるのがコツだ。
いやー。重さがないから楽だわー。
「ほんと楽しそうですねえ」
「んや? まあ、趣味ですからねー。普段は作りすぎたらストックに回してますけど、今日は食べてくれるから作りがいありますし」
「あ、でも、そろそろみんな、限界みたいよ?」
「……え? マジですか」
見ると、確かにみんなの食べる速度がかなり落ちてきている。
んー。まだ作り足りないんだけどなー。
「冒険者三十人の食べる速度よりも、作る方が速いのね…」
「仕方ないか… ちなみに、デザートは?」
その場の全員が手を挙げた。
よし。新作のチョコレートマシュマロプリンの出番だ。
その後もお酒のおつまみを作ったり夜勤の人のご飯を作ったりして、家に帰りついたのは夜中になってからだった。
うん。今日はよく眠れそうだ。
おかげで、悪夢は見ずに済むと思う。
昼の体験は中々にキツかったから。
お姉様と、そう呼ばれた。
それを、受け入れかけた。
今までの自分を、否定しそうになった。
あの子はなんかヤバい。
黒い偽英雄と一緒に居たのに、いまだに敵と思えない。
……次、遭遇したら、どうすっかなー。
ちょっと対策を考えた方が良いのかもしんない。





