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131話


 楽しい朝食を終えたあと、すぐさまカエデさんの転移魔法でゲルニカへやってきた。

 相変わらず、ちょっと目が回るな、これ。


「エイカ、オウカちゃん、頼む」

「了解です。リング」

「――検索:ヒット。敵性群、及び強力な魔力が三体。二体が正面、一体が右方向です」

「……三体?」


 あれ? 予定だと二人じゃなかったっけ。


「アレイさん、なんか強いの三人いるみたいですよ」

「三人だと? エイカ、視えるか?」

「……目標確認。ですが、これは……」



「――オウカ。一体が接近中:警戒を」

「なんか一人こっちに来てるらしいです!! リング!!」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition!!」



 桜色の魔力を纏い、正面を見つめる。

 一体だけ接近中。たぶん、一番強いヤツだ。

 どうする? ツカサさん達に任せるか?



「アレイさん。接近中の個体……四天王のアイシアです!!」

「……なんだと? 馬鹿な、アイツは俺が撃ち抜いたはずだ」

「間違いありません! 接敵まで三十秒!!」

「くそ、なんなんだ……! 起きろ、アガートラーム!!」


 蒼色の魔力光を撒き散らし、顕現(けんげん)する、魔王を穿いた加護。

神造鉄杭(アガートラーム)』を構え、アレイさんは見て分かるほどに緊張していた。


 ……てか、アイシア? 誰だ?


「アレイさん。来ます」

「全員離れろ!!」


 木々の中から、銀色の蛇が伸びてきた。

 咄嗟(とっさ)に右腕を伸ばしたアレイさん、その体ごと、木々の中に戻って行く。

 その最中(さなか)


「ツカサ!! レンジュ!! 残りを頼んだ!!」


 叫び声と共に、木々の中に消えていった。




「え、ちょ……アレイさん!?」


 着いて早々リーダーが拉致られたんだけど!?


「…レンジュさん。行こう」

「はいはいさっ!!」

「え、助けに行かないんですか!?」

「…行っても邪魔になるから。アイシアの相手はアレイさんにしか出来ない」

「だねっ!! アタシ達は言われた通り、他の奴らを倒しに行こうっ!!」


 ……この二人が邪魔になる?

 ちょっと想像が付かないんだけど……大丈夫なのかな、それ。


「……お二人が言うなら、分かりました。とりあえず、行きましょう」


 心配だけど……この二人が言うなら、きっとそうなんだろう。

 とにかく、正面の敵を叩きに行こう。



 ◆視点変更:カツラギアレイ◆



 鞭のように絡みついた蛇腹剣(じゃばらけん)に引き寄せられる。

 ブースター起動。回転し、拘束を振り切った。

 間違いない。この剣は、アイツのものだ。


「くふ。くふふ。久しぶりね、アレイ?」


 剣の(つら)なりが帰って行った場所。

 深紅の悪夢が、そこに居た。


 四天王、暗き月のアイシア。

 麗しき、闇の色を身に纏った魔人。

 ゴシック風のドレスまで、どれも以前と変わらない。


「なんだってんだ……お前は俺が撃ち抜いたはずだが?」

「そうねえ。確かに、胸の真ん中を、撃ち抜かれたわねえ」

「どうなってやがる……化けて出たか、悪霊?」

「くふ。ルウザとフレイアがね。私の残留魔力を集めて、仮初の命を与えてくれたわ。あと一週間くらいしか持たないけれど」

「……なんだと?」


 魔力を集めて魔物を生む。

 (カエデ)が調査していた件か。

 目的はアイシアの復活……いや。


「魔王か」


 純粋な魔力の塊である、魔王と言うシステム。

 身に付けた魔族を乗っ取る、呪いのペンダント。

 かつてアイシアがその身に取り込んだ、最悪の首飾り。

 俺の加護(アガートラーム)でしか破壊できない、最凶のアイテム。


「あら、当たり。でもまだ、魔力が足りないのよねえ」

「なら丁度良いタイミングだったな」

「ええ、本当に。アレイの中の魔王の欠片、それがあれば魔王を再利用できるもの」

「……なるほどな」


神造鉄杭(アガートラーム)』に取り込まれた魔王の魔力。

 それを狙ってきた……?

 違う。コイツは、単純に。


「そんなことよりぃ……くふふ。アレイ、いつかの続きをしましょう?」

「だと思ったわ、くそったれ。一度死んでも性根は変わらないようだな」


 戦闘狂。それも、俺に異常に執着する、麗しき魔人。

 艶めかしい鮮血の様な唇を歪め、嘲笑(わら)う。


「くふふふ。さあ、アレイ。()しあいましょう?」

「続きをやる気も時間も無い。お前が邪魔をすると言うのであれば」


 魔力を廻す。全身から、右腕へ。


 血と共に流れる生命の力。それを、凝縮させる。




「俺はお前を、撃ち穿く!!」




 ブースター最大出力。

 一瞬で間合いを詰める。が。


 剣の腹で手甲を逸らされた。

 流石に読まれているか。

 

 勢いを殺さず、回し蹴り。後ろに飛ばれて威力を殺された。

 間合いが、離れる。



「くふ。くふふ。さあ、踊って、アレイ? 美しく、惨めで、強く、(はかな)い……

 ああ、私の英雄。ねえ、楽しませて?」


 

 鞭のように這い回る、蛇腹剣。

 それを手甲で受け、捌き、躱す。

 この距離は駄目だ。間合いを詰めないと、やられる。


 振り払われる死の塊。その軌道から外れ、爆発推進。

 途中、戻って来た鋭い刃を避けながら、加速する。

 止まるな。動きを読ませるな。


 不規則に、少しずつ、距離を詰める。

 まるで暴風のような暴力の化身。

 その全てをやり過ごし、前へ。



「ああ、いい、いいわ、アレイ……愛しい人、私の英雄……

 もっと、もっと貴方を見せて。美しい貴方を……くふ。くふふ」



 うるせえ、笑うな。怖いんだよ、お前は。

 魔王なんぞより余程凶悪な赤い月の化身が、再び嘲笑(わら)う。

 死を、身近に感じる。

 コイツとやり合う時は、いつもそうだ。

 体が震えそうになる。怖い。逃げたい。帰りたい。


 だが、引けない理由がある。

 お前に殺されてやる訳には行かない。

 約束したんだ。生きて帰ると。

 また日常を過ごすと。



「今の内にはしゃいでろ。今度こそ、終わらせてやる」



 ブースターに魔力を廻し、再加速した。

 歪んだ魔人、その身を目掛けて。


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