127話
さて。困った。
オウカ食堂ビストール支店に来てみたは良いものの。
亜人と魔族の方ばかりなので、私の姿は帽子を被っていても目立ってしまうようだ。
店員さんに速効でバレて、中に通されてしまった。
そこまでは、まあいい。
なんか。私の似顔絵がでかでかと飾られてるんだけど。
何この罰ゲーム。私何かした?
「毎日この似顔絵の前で朝礼を行っています」
「……はあ。なるほど」
ステイルと名乗った魔族の男の人が、笑顔で教えてくれた。
いや、勘弁してくれないかな、これ。
「しかし、まさか本物のオウカさんに会うことが出来るなんて。光栄です」
「やー……てかこれ、どういう事態なんです?」
「これとは?」
「なんで皆、遠くから見てんのかなーと」
「ああ、この支店において、オウカさんは神聖視されていますからね」
は? なんで?
「オーガキラー『夜桜幻想』。
行く宛ての無い私たちを救ってくれた無二の英雄ですから」
待って。それ、私じゃなくてイグニスさんのおかげだよね。
私マジで何もしてないからね。
……て言うか、ここでもその名で呼ばれるのか。
「うーん……ちなみに開店準備はどうなんですか?」
「はい。現在レシピを元に研修中です。
店に出られるレベルが何人か。また、幼少組は接客の特訓中です」
「おお、凄いですね。あ、食材とか容器は大丈夫ですか?」
「後日魔導列車で届けてもらう予定ですが、ビストールでも数日分は確保できます。既に七店舗と契約済です。リストがこちらです」
なんか紙の束を渡された。
見覚えのある店舗名、具体的な仕入れ量、その代金などが書かれている。
すげぇ。この人、優秀すぎないか。
なんでウチで働いてくれてるんだろうか。
「ああそうだ、もし良ければ紹介したい子がおりまして。幼少組の中でも特に優秀で将来有望な人材です」
「あ、はい。お願いします」
「フリード。こちらへ」
名前を呼ばれて、魔族の少年が前に出てくる。
……おや? なんか、見覚えあるな、この子。
あ、分かった。
前に遺跡の近くで討伐証明取るの、手伝ってくれた子達の一人だ。
「久しぶり。元気そうで良かった」
「……覚えていたんですか?」
「そりゃね。一緒に干し芋を食べた仲だし。他の子達も元気にしてる?」
「皆、この店で雇ってもらってます」
「おお、そなんだ。良かった」
「あの時の事があったからこうしてビストールで生活出来てます。本当に感謝してます。この恩は忘れません」
ぺこりと頭を下げられた。
律儀な子だなー。
……あ、てか、角生えてるのか。ちょっと触ってみたいかも。
じゃなくて。
「んー……むむ。感謝される程の事じゃないけどさ。
出来れば、その気持ちは他の人に回してほしいな」
「他の人、ですか?」
「誰かに助けてもらった分、今度は自分が誰かを助ける。そうやって世界は成り立ってるんだよ」
もちろん、シスター・ナリアの言葉である。
そうやって巡り巡って、また自分が助けられる側になる。
それが世の理だと言っていた。
「なるほど……分かりました」
「まあ、ほどほどにね。仕事もできる範囲で頑張って。
……てかほんと、働きすぎはダメだからね?」
「本店の噂はこちらにも届けてます。休暇は十分に取るよう言い聞かせてます」
「うんうん。健康大事だからね。
……ところでステイルさん。このでっかい似顔絵、外してくんない?」
「そうですか……店員一同でこの似顔絵を見ながら朝礼を行うのが、皆の楽しみだったのですが…」
え、ちょ、皆してしゅんとするのやめてくんないかな。
なんか罪悪感凄いんだけど。
亜人のちっちゃい子とか涙ぐんでるし。
いや、そんな目でこっちを見ないで。
………。
あーもう。分かった。分かったから。
「……許可します。飾ってて良いです」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
あ、泣き止んだ。嘘泣きかこのやろう。
……まーいっか。恥ずかしいけど、絶対嫌って程でもないし。
これが王都だったらさすがに無理だけど。
「んじゃ、調理場とか案内してもらえますか?」
「はい。どうぞこちらへ」
とりあえず、水周りは大事だからね。
色々見て回った結果。
どこも問題ない、というか、王都のお店とほとんど同じ作りになっていた。
……これさー。建築に王都のおっちゃん達が絡んでないか?
向こう戻ったら問い詰めてみるか。
あ。そうだ。
「ビストールって王都ほど治安良くないよね? 警備とか大丈夫なの?」
「そこはこの子達がいますので」
がしょん、とちっこいゴーレムが出てきた。
全部で二十機くらい、綺麗に整列している。
うわ、可愛い。なんだこれ。
「警備型自動ゴーレム君量産機だそうです。一体で一流冒険者一人分の戦闘力があるんだとか」
「ほえー。こんなにちっこいのにね」
ちょっと頭を撫でてやると、小刻みに揺れ出した。
喜んでるのかな?めっちゃ可愛いんだけど。
あ、一列に並び出した。
よっしゃ、全員撫でてやろう。
あれ、なんか店員も並び始めたんだけど。
……撫でろと?
あ、フリード君とステイルさんも並んでる。
なんだこの儀式。
とりあえず皆を撫で回したあと、ご満悦な彼らと別れ。
冒険者ギルドに挨拶しに行った後、私はアスーラへと向かうことにした。
あっちはあっちで、気になるんだよなー。
ハルカさんに無理言っちゃったし、大丈夫だろうか。





